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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2009.11.20

vol.55  − 落葉 −

庭では山茶花(サザンカ)の生垣が最後の華やかさをみせています。花は南を向いて咲いているので、北から視ている私には残念ながらその華やかさを充分には満喫できません。
早朝の大学構内には、前夜の風で道端や戸口に吹き寄せられた落葉が、足元から軽やかな音を出してくれており、それが耳に届きます。そして、生垣には寒気の中で椿が赤の鮮やかさを際立たせています。
新幹線からみる景色は、小春日和の日には、刈り取られた果てまで続く田圃の上を暖かい空気が往来(いきき)していて、それが車内にまで流れ込み、心の裡に穏やかさを感じさせてくれます。

子供の頃には、落葉を掃き集めて焼くことが決められた仕事の一つでした。薩摩芋が手に入ったときには、焚き火で焼き芋を作って食べるのが楽しみでした。生の薩摩芋(昔は生でも食べていました)の甘味と、焼いたそれとは全然違うのを知っています。この時季での落葉の掃き集めは、どこの家庭、そして寺や神社の境内でも、普通にみられる風景でした。
今は、大学でも人を頼んで枯葉を集め、ビニール袋に入れて持っていってもらいます。昔は、各家庭で落葉で堆肥を作っていましたが、今はゴミ扱いです。
我々の前の世代の人は、どの種類の葉が堆肥になり難いかを知っていて、子供達に教えてくれたものです。こうして世間知(経験知)の伝達が行われていたように思います。

このような時代を経験している人間が落葉の掃き集めの風景をみると、そこに静謐な、そして暖かい空気を感じます。
それは、ジャン=フランソワ・ミレーの「晩鐘」や菱田春草の「落葉」(福井県立美術館)を視たときに感じる空気と同じものです。これらの絵は、みえていない空気を描いていて、視る人が自分の体験と併せてそれを画から感じるから、「名画」と評価されているのではないでしょうか。

落葉と聞いたら、我々の世代は中学校で暗記させられた上田敏の名訳で知られる“落葉”を必ず思い出します。当時は、暗誦しても何の興奮や興味も湧きませんでした。今、改めて読んでみると、二度と戻らない過去への愛惜と無常感を感じ、「原詩を越えた名訳」という説明が得心できます。
以下にそれを記してみます。昔を想い出して下さい。

落葉(らくえふ) / ポオル・ヹルレエヌ
  秋の日の ヸオロンの
  ためいきの 身にしてみて
  ひたぶるに うら悲し。
 
  鐘のおとに 胸ふたぎ
  色かへて 涙ぐむ
  過ぎし日の おもひでや。

  げにわれは うらぶれて
  ここかしこ さだめなく
  とび散らふ 落葉(おちば)かな。
                  『海潮音』(海竜社「文語名文百撰」)

今回の花材は、秘書室は端麗、執務室は豪快というメッセージでしょうか。元気を出さねばと思います。
(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)

今週の花


【理事長室】
■LAユリ(セラダ)
ユリ科/《名前の由来》Longiflorum Asiatic hybrid〔ロンギフローラムハイブリッド〕系(鉄砲ユリ)とアジアンティックハイブリッド系(スカシユリ)の掛け合わせ/鉄砲ユリとスカシユリそれぞれの良いところを持ったユリ。花姿はカサブランカ等のオリエンタルハイブリッド系(大輪ユリ)を小さくしたような中輪咲きでスカシユリよりも花持ちが良い。
(※ ユリが開花しましたので、11月25日に2枚目の写真を差し替えいたしました)
■フォックスフェイス
ナス科/別名「角茄子」「カナリアナス」/《名前の由来》実の形がキツネの顔に見えることから(和製英語)/黄色のツヤツヤした7〜10cm位の大きな実をたくさんつける。毒性があり食べる事はできない。水に浸けなくても1カ月以上そのままの状態で観賞でき、ディスプレイなどに適す。
■入才ラン
リューゼツラン科/明治末期に帆布やロープの繊維材料植物として輸入。近年では品種改良も進み、ガーデニングでも人気の植物。折る・曲げる・裂くなど、形を変えて使うことができ、生け花に利用される。
※拡大写真http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/55_zoom1.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)

【秘書室】
■黒文字
クスノキ科/《名前の由来》樹皮の黒い斑点を文字に見立てて/春に黄緑色の可憐な花が咲く。
実は5mmほどの球果で秋に黒く熟す。樹皮や枝に独特の香りがある。材は和菓子などに用いられる高級爪楊枝になる。現在は細長い葉芽と丸みをおびた花芽をつけた冬芽の状態で来春開花する。
■ピンポン菊(ジェニーダークピンク)
キク科/まん丸に咲く可愛らしい菊。非常に花持ちが良い。前回(http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=80)使用したダリアを小ぶりにしたような花形。
■ブバルデイア(ロイヤルユリア)
アカネ科/《名前の由来》ルイ13世の侍医で、パリ王国庭園の園長ブバールの名より/十字型の小さな花が集まって咲く。品種改良が進み、一重・八重・大輪咲きなど30種ほどあり。品種によっては甘い香りがするものもある。
※拡大写真http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/55_zoom2.jpg
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