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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2017.01.20

vol.399  − 似 (にあう) −

信夫の里は、この冬初めて本格的な雪に見舞われました。

小正月(こしょうがつ)の15日前後、どんど焼き(左義長(さぎちょう))が行われています。
地域医療に従事していた時代に、乾き切った、休んでいる田圃(たんぼ)に大きな火柱が上り、老若男女が大勢で火を囲んでいるのをみたことがあります。
今は、神社や寺で正月飾りや書き初めを燃やしている様(よう)です。

花屋さんには、早や啓翁桜(ケイオウザクラ)が出て、春が近づいていることを教えてくれます。
この時季の花の代表は、侘助(ワビスケ)です。小輪で一重の椿です。茶花(ちゃばな)として愛用されています。
寒空の中の一輪は、慎(つつ)まし気、可憐(かれん)、健気(けなげ)で、しかも凛(りん)としています。

         侘助を一輪挿せりつるべ桶(おけ)
                              儘田千鶴子(ままだ・ちづこ)

この歌から、一場面を切り取ったような、鮮烈な美しい情景が浮かびます。

“君はまだ若いのだからウイスキーを飲まないほうがいいと思うな” (田村隆一)、歳を重ねた今なら、この意味が少し分かります。
若い時、“何でこんな緊(きつ)く、苦い酒が美味しいのだろう、飲む人の気が知れない”と思っていました。

昔のことです。東京で働いていました。ホテルのバーのカウンターで静かにウイスキーを嗜(たしな)んでいる老紳士を目にしました。
         (vol.384 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=425
以来、ウイスキーという酒、バーという舞台に、淡い憧れ(あこがれ)を抱く様になりました。
この男性が、バーでウイスキーを喫(きっ)するのは、恐らく、一日のなかで心の裡(うち)の葛藤、怒り、遣る瀬無さ(やるせなさ)、苛立ち(いらだち)を鎮(しず)め、本来の自分に戻るべく儀式なのです。

少なくとも、酒は目の前の何かから目を逸(そ)らすために飲むのではありません。
“自棄酒”(やけざけ)は、酒に礼を失してしまいます。

ウイスキーは、酒のなかで“思索の酒”、と呼ぶに相応しい(ふさわしい)位置を占めています。
グラス一杯のウイスキーで自分を取り戻せます。そして、反省とともに明日から斗(たたか)う為の少しの勇気を授けられます。

海外の友人達と付き合っていると、ウイスキーは暮らしに溶け込んでいることが分かります。
カナダで共に修業した友人が米国から来日した時のことです。御両親が一緒でした。寝る前に飲んでいるウイスキーが欲しいと父親から頼まれました。
調べてみたら、殆(ほと)んど輸入されていないことが分かりました。そのウイスキーは、決して高価でも無く、希少な酒でも無いのです。“庶民の酒”です。友人や関係者にお願いして東京中を探してもらいました。結果、手に入り、喜んでもらいました。

彼等のなかでは、ウイスキーは趣味という域を越えて、暮らしのなかで身近にあることを知りました。前にも書きましたが、彼等には一人ひとりこだわりのウイスキーがあります。
         (vol.267 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=304

ウイスキーは、小説や映画に小道具として度々登場します。
         (vol.265 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=302
         (vol.310 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=349
         (vol.364 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=405

ウイスキーは、その生い立ち、個性的な味や香りから“男の酒”というイメージがあります。
今は、働く女性が、ホテルのカウンターで独り、スーツ姿で静かに飲んでいる姿を目にします。粋(いき)です。
バーは“心の止まり木”なのです。
         (vol.310 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=349
         (vol.353 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=393
         (vol.384 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=425

喧騒(けんそう)な日中から心を鎮める為には静けさが必要です。
バーという舞台には“静寂”という、目には見えない小道具も必要なのです。グランドメゾンと言われるレストランに、華やぎのある“さんざめき”が必要なのと同じように。

今週の花材は、両室とも慎ましやかで、春を待つ風情(ふぜい)です。



(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)


今週の花


【理事長室】
■パフィオペディラム   ラン科/《名前の由
来》ギリシャ語の“パフィア”(ヴィーナス)と“ペ
ディロン”(サンダル上靴)の2語から“ヴィーナ
スのスリッパ”という意味/袋状になる唇弁(し
んべん)が印象的で目を引くユニークな花姿。
■ハイドランジア   ユキノシタ科/落葉低木
/日本のアジサイを改良した西洋アジサイ。日
本原産のアジサイに比べ、花が大きく華やか。
■アランダ〔チャクワンブルー〕   ラン科/バ
ンダとアラクニスの交配種。類似のモカラ(バン
ダ・アラクニス・アスコケントルムの交配種)に比
べ、花が大きく花弁が細いのが特徴。
■ラナンキュラス〔てまりシリーズ〕
キンポウゲ科/球根植物 /薄く柔らかい花弁
が幾重にもかさなるのが特徴。「てまり」シリー
ズは香川県オリジナルの育成品種で日持ちが
良い。紫「藤てまり」、白地「小春てまり」
■ディンゴファーン    オーストラリア原産/
ふさふさした鮮やかな緑色の葉を持つ。
■ドラセナ〔サンデリアーナバリケード〕
リュウゼツラン科 / 笹のような細長い葉とスト
ライプの斑が特徴。「バリケード」は緑色が濃い
品種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3991.jpg

【秘書室】
■カトレア〔メロディーフェアー〕   ラン科/“洋ランの女王”と
呼ばれる蘭。1つの花が大きく色鮮やかで華やかな花姿。樹木
などの高い所に着生する。
■ダリア〔みっちゃん〕    キク科/多年草/品種が豊富で世
界に3万種以上ある。花の大きさも3cm程の極小輪から30cm
以上の巨大輪まであり一重咲、八重咲の他、花弁が尖ったオー
キッド咲や波打つピオニー咲など様々。「みっちゃん」は濃いピン
ク色でポンポン菊のようなボール咲。
■シレネ〔サクラコマチ〕   ナデシコ科/一年草/花期は5〜7
月頃で、よく分岐した枝先に小さな花を多数咲かせる。花の付け
根や茎の節からネバネバした分泌物を出し、虫がくっつくことから
「ムシトリナデシコ」とも呼ばれる。
■モンステラ   サトイモ科/蔓性植物/成長するにつれ、葉に
深い切れ込みや穴が開くグリーン。独特の葉形が面白く、モチー
フとしても人気。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3992.jpg

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