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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2016.06.24

vol.370  − 喰 (くらう) −

二十四節気では夏至、一年の半分が過ぎてしまいました。菖蒲(アヤメ)、紫陽花(アジサイ)の便りが届いてきます。

雨の季節が嫌いではありません。
         (vol.49 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=74
         (vol.126 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=159
         (vol.169 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=203
         (vol.178 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=212
         (vol.274 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=311
雨音、夜の濡れた道路に長く尾を引く車の赤い尾灯に惹かれます。
この時季の朝晩、雨が降っていると五月闇(さつきやみ)です。

         五月やみ おぼつかなきにほとゝぎす
         なくなる声(こゑ)の いとゞはるけさ
                               明日香王子(あすかのみこ)

五月雨(さみだれ)の降りしきる暗い夜、ホトトギスがその中を鳴きながら飛び過ぎていきます。闇の中のホトトギスの声の何と遠いことか。
ここ信夫の里では、深夜から暁方(あかつきがた)、この情景が展開します。

心の栄養補給の為に、本屋の中を回遊します。
このところ、食に関する書物が、大きな面積を占めています。この光景、我が国が、史上例をみない程豊かになっていることの証左(しょうさ)です。我々自身がこのことを、認識していないのでは。

小さかった時、「食事も仕事のうち、黙って食べなさい」、「男は料理がまずいの、うまいのと言うものでない」という父親の叱責(しっせき)を受けました。故に、食に就(つ)いて書くこと自体、少し勇気が要ります。

海外での修業中、マクドナルドとケンタッキーフライドチキンという食べ物を初めて知りました。
どうやって買えば良いのか分からなかったこと、「店で食べていくか、持っていくか」という店員の言葉が、速くて聴き取れず、莫迦(ばか)にされたこと、全て今では、“思い出”です。

今、量は少なくて良いから、「おいしい食事」を、正確にいうと「楽しい食事」をしたいと思っています。

聞くに堪えないのは、訳知り顔で他の国、店の料理の良し悪しを話すこと、情報を鵜呑みにして、他人の話を自分の経験のように得々と話す様(さま)です。
食の好みは、人間(ヒト)様々です。好みの背景には、その人間が生きてきた全て、故郷、暮らし、そして歩んできた道々での巡り合わせなどがあります。それらが総和(そうわ)となって好みが形づくられているのです。
それを考えると、縦え(たとえ)「居酒屋の国会」談議でも、食に就いての悪し様(あしさま)な言(げん)は、聞いていて良い気分はしません。「昭和の人」と、嗤(わら)われますが。

楽しい食事には、おいしい料理、それを給仕してくれる店の方々の持て成し(もてなし)が関係します。
これは、高級な店であろうと屋台であろうと変わりません。
気持ち良くプロとしての力量をみせてくれるかどうかは、客にもそれなりの作法や気配りが求められます。

客の礼儀正しさ、感謝の気持ちの表現も「楽しい食事」には大切です。
脇でみていてイライラするのは、頃合いを見計らって出されている料理を目の前にして、ダラダラと酒を飲んでいたり、話し込んだりしている客です。そういう人に限って、限られた席を長い時間占拠して、長い時間、店や他の客に迷惑を掛けているのです。しかも、本人は気付いていません。

「楽しい食事」とは、少し大袈裟に言うと、店と客が双方に敬意を払い、信頼関係が築かれて、初めて成立するのではないでしょうか。

私も、若い時分、連れていかれた有名店で今も何の落度(おちど)も思いつかないのですが、忘れられない程の屈辱的な応対を店の主人からされたことがあります。それ以来、「情報」や、偉そうな態度の店主を信用しなくなって、今に至っています。

食は人間が生きる為の基本です。
豊かになった今、人間は、料理店、蕎麦屋、居酒屋、或いはバーに、人間は“食べる”、“飲む”という行為以上の「心の止まり木」を求めています。

今週の花材は、深山幽谷や野山の濃い緑とその中の色取りが安らぎ感じさせてくれます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■姫リンゴ  バラ科/落葉小高木/花期は4
〜5月で、花後に実がなり秋に赤く熟す。さくら
んぼのような小さいリンゴが愛らしく、ミニ盆栽
でも人気。観賞用の他、ジャム等に利用される。
■ユリ〔レクサス〕   ユリ科/球根植物/カ
サブランカと同じオリエンタルハイブリッド種。
大きく優雅な花姿と芳香が特徴。「レクサス」は
濃いピンク色。
■入才蘭(ニュウサイラン)〔赤入才〕   
リュウゼツラン科/ 明治末期に帆布やロープ
の繊維材料植物として輸入。近年では品種改
良が進み、ガーデニングでも人気の植物。 折
る・曲げる・裂くなど、形を変えて使用出来る。
■クロトン   トウダイグサ科/常緑低木/
葉色・葉形など多品種ある肉厚な葉。切花とし
ても丈夫で、長期間鮮やかな葉色が楽しめる。
沖縄などの暖地では生垣などにも利用される。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3701.jpg

【秘書室】
■エリンジュウム〔スーパーノバ〕   セリ科/
多年草 / 長く鋭い苞と松かさのような花が特
徴。成長とともに青みを帯びる。 非常に花持ち
が良く、ドライフラワーにも適す。
■ブバルディア   アカネ科/常緑低木/4枚
の花弁で十字型に開花する筒状花。 枝先に多
数の花を房状に咲かせる。ピンク「ロイヤルロー
ザ」鮮やかなピンク。 緑「ロイヤルグリーンサマ
ー」グリーンと白の複色。
■アンスリュウム〔みどり〕    サトイモ科/常
緑多年草/ツヤツヤの花(苞)と葉が特徴の南
国の花。 花弁のように見える団扇状の部分は
苞で、棒状の部分が花。主に苞を鑑賞するため
非常に長く楽しめる。
■グリーンスケール  イネ科/多年草/ゆらゆ
らと風になびく小判型の花穂が特徴。 枯れても
散らず、そのままドライフラワーとして楽しめる。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3702.jpg

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