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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2016.01.08

vol.347  − 択 (えらぶ) −

日の出が一番遅い時期です(3日〜10日)。日の入りは遅くなり、陽(ひ)が延びています。

正月には、若水(わかみず)を汲み、鏡餅を供え、御幣(ごへい)か白い紙の輪飾りをつけた松の枝を門松としていました。
門松、対称的に竹を配置していたように記憶しているのですが、今は非対称です。日本人の自然観の反映でしょうか。

故郷を出てから正月を迎える準備をしなくなってしまいました。
「得たものによってでなく、失ったものによってしか語れない」ものがあります。「何かを得るには、同じだけ何かを失う」のです。

仕事納め、工事現場のガードマンの方が、囲いの仕切りの扉(とびら)を拭(ふ)いていました。黙礼して通り過ぎました。
早朝、朝陽(あさひ)が赤々と学舎(まなびや)の外壁を染めています。建物が突き抜ける様(よう)な青い冬空を縁取(ふちど)っています。

帰省(きせい)、今は、飛行機、新幹線、そして車が移動手段です。若者には、夜行の高速バスが手頃です。
己の世代では、主な手段は列車で、若者は夜行(やこう)列車でした。
鉄路を結ぶのが停車場(ていしゃば)です。

停車場、聞いただけで胸の奥にツンと来るものがあります。郷愁(きょうしゅう)です。
駅は、民族や世代を越えて、人生の哀歓の象徴でもあります。人間(ヒト)にとって、出会い、別れ、旅立ち、帰郷など、人生という舞台の幕間に、分岐点として駅が登場します。

老生が幼かった頃、駅は停車場と呼ばれていました。今は駅です。元々は、「驛」と記されていました。
その由来は古く、宿駅(しゅくえき)の制度まで遡(さかのぼ)れます。

「駅」が、“現代の停車場”として人々の間に定着するのは明治時代です。「駅」という響きには、近代文明の象徴、あるいは集約点、という意味を含んでいます。
社会からみれば、駅は人種、身分、職業による分け隔ての無い“公共の場”という意味も持っています。
“近代”の象徴と言われる由縁(ゆえん)です。

駅は街の顔です。そして、人間は各々(おのおの)が、その人にとっての“駅”を持っています。“その人間にとっての駅”とは、“心の故郷(ふるさと)”です。
田舎育ちの己には、大都会の駅が、街の中心にあることが衝撃でした。駅の脇にも、裏にも街があるのです。
田舎の駅は、玄関口に家並があるだけで、裏は山や畑です。

漂泊の歌人、石川啄木は停車場について多くの歌を詠(よ)んでいます。
人口に膾炙(じんこうにかいしゃ)しているのはこの歌です。

         ふるさとの訛(なまり)なつかし
         停車場の人ごみの中にそを聴きにゆく
                                 石川啄木
         (vol.137 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=170

我が国での最初の駅の一つは新橋です。今の新橋駅とは違います。現在、史跡として都会の片隅に復元保存されています。

人生が凝縮して表現される場である駅は、様々な芸術に取り上げられています。

映画では、「終着駅」(1953)、「旅情」(1955)、「鉄道員」(1956)、「昼下がりの情事」(1957)、「ひまわり」(1970)などの洋画が、邦画では「男はつらいよ」シリーズ(1969〜1995)、「駅−station」(1981)、「鉄道員−ぽっぽや」(1999)など、サウンドトラックのメロディーとともに、駅が登場します。

戦後の流行歌(歌謡曲)にも「ああ上野駅(井沢八郎)」(1964)、「終着駅(奥村チヨ)」(1971)、「駅(竹内まりや)」(1987)などがあります。
絵画では、モネの「サン・ラザール駅」の一連の作品が知られています。

人間は誰でも、自らが歩んできた足跡のなかに、“忘れ得ぬ駅”を心の中に抱いて生きています。

今週の花、緑と白の対比が“新たなり”を象徴しています。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■松〔大王松〕   マツ科/《名前の由来》マツ属の中で、
もっとも長い葉を持つことから/明治時代に渡来。原産地の
北アメリカでは樹高50mを超えるものもある。
■梅〔冬至梅〕   バラ科/落葉小高木/中国渡来種の他、
品種改良が進み300種以上ある。観賞用の花梅(ハナウメ)
と、実の採取を目的とした実梅(ミウメ)に分かれる。冬至梅
は冬至の頃に開花する白色の早咲き品種。
■鉄砲百合   ユリ科/球根植物/《名前の由来》花形が
鉄砲の形に似ることから/一般的なユリと異なり、花の形が
筒状で横向きに咲く。沖縄では自生種が群生する。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3471.jpg

【秘書室】
■千両   センリョウ科/“千両”という縁起の良い名前と、不浄なものを
清めると言われる赤実から、お正月飾りに欠かせない花材として親しまれ
る。黄色い実をつける黄実千両(キミセンリョウ)もある。同じ赤実で縁起の
良い万両(マンリョウ)は葉の下に実をつけ、千両は葉の上に実をつける。
■万年竹   リュウゼツラン科/別名「ミリオンバンブー」「開運竹」など。
名前に“竹”が入るが、竹ではなくドラセナの仲間。葉を落とした茎が竹のよ
うに見えることから“竹”の名前で流通。水耕栽培でも楽しめ、縁起の良い
物として人気の観葉植物。
■水仙〔日本水仙(ニホンズイセン)〕   ヒガンバナ科/球根植物/とても
良い香りを放つ春の花。早咲き・遅咲きなどあり、12月〜4月頃まで楽しめ
る。日本水仙は早咲き品種で12月頃から咲き始め、お正月飾りでも人気。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3472.jpg

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