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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2015.11.20

vol.341  − 贈 (おくる) −

秋雨の後の小春日和(こはるびより)、落葉が病葉(わくらば)となって、路上に散り敷かれています。

夕暮れ時、西陽(にしび)が集落の甍(いらか)を赤く染め、その縁(ふち)が発光体となって輝いています。
集落を囲む田圃(たんぼ)、畦道(あぜみち)、小川が家並(いえなみ)と一体になって、セピア色に染まり、幼き日にみたことのある風景が眼前に展開しています。陽射しは暖かく、懐かしく、そして優しげです。

新月の前後の夜明け前、空を見上げると、一際(ひときわ)、明けの明星(みょうじょう)が煌(きら)めいています。側にもう一つ星が見えます。火星でしょうか。
この時季の月は、寒気と相俟(あいま)って、冴え冴えとしています。

地上では、山茶花時雨(さざんかしぐれ)で、白い山茶花(サザンカ)の花びらが地に散り始めています。
その姿は、薄闇のなか、少し妖(あや)しげで、儚(はかな)さが募(つの)ります。

         月夜にて山茶花が散る止めどなし
                              細見綾子(ほそみ・あやこ)

         しめり土に山茶花散れりこの道を
         久に通りて思ふこと多し
                             三ヶ島葭子(みかじま・よしこ)

山茶花、花に華やぎがあります。
雨に遭って、散る、あるいは散った姿にも趣(おもむき)があり、時に人生さえ考えさせられます。

この時季、傘の出番が多くなります。
仕事仲間が福井の洋傘を贈ってくれました。
今の暮らしでは、洋傘(蝙蝠(こうもり))、それもビニール傘が目につきます。只、大事にされないビニール傘をみて、傘が可哀相と思う気持ちとそれをぞんざいに扱っている自分を嫌悪しているもう一人の己が居ます。

蝙蝠には、昔、秘話があります。
手に入れたお目当ての洋傘、齢下(としした)の同僚に見せびらかして、くるくる廻していたら、突然、傘が閉じてしまいました。彼は笑いを噛み殺して、“一流の傘は自分で閉じるのですね”と言われてしまいました。

昔から和傘に惹かれ、今に至っています。幼(おさな)き頃、和傘は、暮らしのなかに根付いていました。
和傘と洋傘、素材、持ち方、構造が全く違います。
和傘は、和紙、竹、木といった自然の素材で作られています。
持ち歩く時、洋傘は手元の柄(え)を持ちます。一方、和傘は頭の先のところを摑(つか)みます。

和傘の魅力は、先(ま)ず和紙に引かれた油の香りです。次に傘を開く時のバリっと鳴る粋な音です。雨音が傘に当たる時の独特の音に風情(ふぜい)があります。
さらに、傘を通して差し込む陽(ひ)の光の優しさです。外の光とは違い、古酒のような和(やわ)らかい色を帯びています。顔の色は勿論、心まで嫋(たお)やかにしてくれます。

歳月を重ねるに従い、傘の造形が持つ美しさにも気付くようになりました。
傘の骨組みである親骨と小骨の端正な美しさは、 “和”の美の一つです。一本の竹を50本位でしょうか、均等に割って作る技、職人の腕です。小骨の飾り糸、目も綾(めもあや)です。

番傘は実用的ですが、蛇の目(じゃのめ)傘は、今や実際の用途の外(ほか)に、インテリアとしても愛用されています。外国の人々にも人気で、日傘として使っている人間(ヒト)をよく見掛けます。和紙の色の美しさ、簡潔なデザインが人気の秘密です。

今や特別な機会しか用いられない和傘、岐阜、京都、金沢など、産地も少なくなりました。何とかこの“和”の美を後世に残していきたいものです。

14日、亀井勝一郎忌です。
己の世代では、学生時代、三木清の「人生論ノート」とともに、一度は手にする「大和古寺風物詩」の作者です。若い頃、和辻哲郎の「古寺巡礼」、入江泰吉の大和路の写真集を参考に歩き廻りました。

今週の花材は、執務室は木洩れ日の暖かさを、秘書室は楚々とした佇まいをみせています。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■羽毛ケイトウ(ドリアン)   ヤナギ科/落葉高木/ヒ
ユ科/一年草/花期は6〜9月頃で、赤や黄色、オレン
ジなどの花穂をつける。羽毛ケイトウは羽のようなふさふ
さした形状。他に花穂が扇状の「ボンベイケイトウ」や丸
い「久留米ケイトウ」などもある。「ドリアン」シリーズは多
数分岐した細長い花穂が特徴。
赤「ドリアンレッド」黄色「ドリアンイエロー」
■トルコギキョウ〔アンバーダブルワイン〕   リンドウ科
/多年草/花の大きさや咲き方、色合いが多岐にわた
り、品種がとても豊富。祝花仏花問わず人気のある花。
「アンバー」シリーズは琥珀を想わせるヨーロピアン調の
シックな色合い。ろう細工のような独特の質感で、花傷み
が少なく長く楽しめる。「ダブルワイン」はボルドー色の八
重咲。
■ドラセナ〔コーディラインファンテングリーン〕   リュウ
ゼツラン科/シャープな細長い葉が特徴。「ファンテング
リーン」は葉の縁に赤色が入る。縁に白色が入る「ファン
テンホワイト」もある。
■ピンポン菊〔ジェニーオレンジ〕   キク科/多年草/
ピンポン玉のように真ん丸に咲く可愛い菊。日持ちの良
い菊の中でも特に長く楽しめる。「ジェニーオレンジ」は茶
系のくすんだオレンジ色。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3411.jpg

【秘書室】
■ヒムロ杉   ヒノキ科/常緑高木/サワラの園芸品種。シルバー
がかった緑色の葉は、長さ5〜10mmの線形で尖り枝に密につく。葉
の柔らかさが特徴で、クリスマスリースの材料としてよく利用される。
自ずから円錐形の樹形になり、公園樹としても人気。
■レインディアワトル   マメ科/ミモザと同じアカシアの一種でオー
ストラリア原産。トゲトゲした形が品種名“トナカイの角” の由来。ドライ
フラワーにも適す。
■バラの実〔ローズヒップ〕   バラ科/美肌効果で人気のあるロー
ズヒップティーの原料。ノバラが花後につける実。ドライにしても色が残
り、リースなどの材料としても人気。
■オーニソガラム〔サンデルシー〕   ユリ科/球根植物/ヨーロッパ
〜西アジア、アフリカに約100種。長い茎頂に6片の星形の花を次々
と円形状に咲かせる。水揚げも良く、蕾までしっかり咲ききり長く楽し
める。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3412.jpg

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