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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2015.11.13

vol.340  − 賞 (めでる) −

小春日和(こはるびより)、秋雨、時雨(しぐれ)を繰り返して、12月が迫ってきます。晩秋、静かにもの思う時季です。冬を迎える前、天地は静かになり、人間(ヒト)恋しくなる季節でもあります。

         いにしへを思へば夢か現(うつつ)かも
         夜はしぐれの雨を聞きつつ
                                良寛

「人間の心には取り去る事の出来ない寂寥(せきりょう)が棲んでおり…」(若山牧水「自歌自釋」)
元々、人間にはこのような感性が備わっていて、この時季、それが顕(あら)わになります。

今、吾木香(ワレモコウ)の花が似合います。
楚々とした佇まい、華やかさには乏しいですが、赤を潜(ひそ)ませた紫で、花を穂状に咲かせています。

夜が益々長くなり、寒気も相俟(あいま)って、燗酒(かんざけ)が恋しくなります。空気も人間も温(あたた)まっている居酒屋の情景は、この時季が似合います。
熱(あつ)燗、ぬる燗、人肌(ひとはだ)燗、日向(ひなた)燗(vol.267、289)、常温、冷酒など温度を変えて呑む酒は、日本酒以外は記憶にありません。
         (vol.267 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=304
         (vol.289 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=326

その時に使うのが、ぐい吞みと徳利(とっくり)です。「和」を代表する“用の美”の一つです。
焼物の源流である土器は縄文人が作りました。火炎形土器は、今尚、世界中の人々から高い美術的価値が賞(め)でられています。

全国に窯が出現するのは鎌倉時代です。今に繋がる瀬戸、備前、信楽などです。陶磁器を“セトモノ”と呼ぶのはその名残(なごり)です。
桃山時代、朝鮮半島から連れてこられた陶工達が我が国の状況を一変させます。薩摩、唐津、萩などです。
この時代、世相と軌(き)を一(いつ)にして個性的な焼物が出現します。志野、織部などです。それらの文様や造型は、日本人独特の美の感覚です。

江戸時代に入ると、有田の色絵磁器が欧州の人々を魅了します。
都の雅(みやび)を表現した京焼の色絵の生産もこの時期です。
江戸時代の後期、有田の秘術が全国に漏れ、四国の砥部(とべ)、会津の本郷などで生産が始まりました。

焼物の和、それは、備前、信楽に代表される無釉薬のТ錙覆擦辰)への愛着です。また、志野、唐津といった陶器が、磁器と同じように、広く愛(め)でられていることです。
この美意識には日本人の自然観が反映されています。土への愛情、そして天の配剤で、一瞬に生じる偶然の美への畏敬(いけい)の念です。

今、画一的な現代の焼物に飽き足らず、古い焼物が若い人々の興味を惹いています。昔の“骨董好きの高齢者”とは明らかに違う動きです。

奇を衒(てら)った、作家の主張を剝き出しにした、使いにくい現代の器よりも、簡潔で、凛とした美への憧れであり、関心です。使い込んで、磨いていく美、“用の美”でもあります。

古いモノには見立てる楽しみもあります。
外国の人々が、日本の屏風を壁に平面に掲げているのを良くみます。
己は、大阪万博に出品され、置き去りにされたというインドネシアの大きな編み篭を花入れにしています。

美しさを賞でるという行為が、庶民の手の裡(うち)に入ったことを示すのが琳派(りんぱ)の出現です。
その背景には、平和な時代が長く続き、経済活動が活発になったことがあります。

「琳派と秋の彩り」展、日本人の美の感覚を代表している琳派の流れと抒情豊かな季節感の表現をみることができます。
小林古径、「夜鴨」、「栗」、「狗」に惹かれます。色使いを最小限に抑え、充分にとった余白に、澄み切った大気が感じられます。
速水御舟の「秋茄子」、水がしたたるような生気と気品のある秋の気配が、簡潔な構図から漂ってきます。
福田平八郎の「彩秋」、ふわっとした現代の粋です。

今週の花材は、両室とも、静かな秋の表現です。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■赤芽柳   ヤナギ科/落葉高木/猫柳(ネコヤナギ)と山猫柳
(ヤマネコヤナギ)の雑種で日本の山野に自生。赤い花芽の皮がと
れると、銀白色のモコモコした花穂があらわれる。
■ニュウサイラン   リュウゼツラン科/明治末期に帆布やロープ
の繊維材料植物として輸入。近年では品種改良も進み、ガーデニン
グでも人気。折る・曲げる・裂くなど、形を変えて使うことが出来、生
け花に利用される。
■リュウカデンドロン〔アヨバキッス〕   ヤマモガシ科/花弁のよう
に見える部分は苞葉で、その中に花序がある。花持ちが良くドライフ
ラワーにも適す。
■アランダ〔ディープブルー〕  ラン科/アラクニスとバンダを交配し
た人工種。バンダの花の大きさとアラクニスの花持ちの良さを持つ。
■タニワタリ   チャセンシダ科/常緑シダ植物/日本南部の樹林
にも自生し、樹上や岩上に着生するシダ植物。光沢のある鮮やかな
緑色で、波打つ大きな葉が特徴。丸める・裂く・折るなど、形を変えて
活けたり、花留めとして利用できる。
■タマシダ   ツルシダ科/常緑シダ植物/伊豆半島以西に自生
し、海岸近くの岩肌や木に着生葉は羽状複葉で叢生(そうせい)し、
多くの楕円形の羽片をつける。
■アンスリュウム〔チョコ〕   サトイモ科/常緑多年草/ツヤツヤの
花(苞)と葉が特徴の南国の花。花弁のように見える部分は苞で、棒
状の部分が花序。苞を鑑賞するため、とても長く楽しめる。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3401.jpg

【秘書室】
■ドラゴン柳   ヤナギ科/雲竜柳(ウンリュ
ウヤナギ)の変種。茎が黄色〜赤茶色で、枝
振りも変化に富む。くねくねとしたダイナミック
な枝の形が魅力。
■菊〔ディスバッドマム〕   キク科/多年草
/スプレー菊の脇芽をかいて一輪に仕立てる
菊。ダリアのように豪華でボリュームがある。
■シンフォリカルポス〔チハヤパープル〕
スイカズラ科/落葉低木/7月〜9月頃に花
が咲き、その後真珠のような実をつける。「チ
ハヤパープル」は赤紫色で、他に白やピンクが
ある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3402.jpg

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