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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2015.10.23

vol.337  − 嘆 (なげく) −

山粧い(やまよそおい)、秋が深くなっています。山々が、朝陽に照らされ、赤く輝きます。
麓(ふもと)は桜紅葉(さくらもみじ)、山茶花(サザンカ)が咲き出しています。

下界では冬支度(ふゆじたく)が始まります。
子供の頃は、この時季、風呂用の薪(まき)を斧(おの)で割っていました。
落葉焚き、埋み火(うずみび)、消し壷、灰均し(はいならし)、失って久しい情景です。

         風の中に揺るるコスモス一つ一つ
         とはにさまよふごとく揺れ合ふ
                             高野公彦

         白髪三千丈(はくはつさんぜんじょう)
         愁(うれい)に縁(よ)りて箇(かく)の似(ごと)く長し
         知らず明鏡(めいきょう)の裏(うち)
         何(いず)れの処(ところ)にか秋霜(しゅうそう)を得たる
                                          李白

秋は、古今東西、人間(ヒト)を哀愁に浸(ひた)らせます。
「夢を語るよりも思い出に浸ることが多くなる時、人間は老人に属する」、人生の秋は、自らを振り返り、嘆惜(たんせき)に堪(た)えません。

四季のある日本、国柄の全(すべ)ては、地球上の今の位置にあるという地理的環境に依(よ)っています。
我が国の地勢と自然環境が、長い時間を掛けて、そこに住む人々の思考を育(はぐく)んできました。諦(あきら)める、憐(あわ)れむ、察するなど、情感溢れる言葉は、その結晶です。

日本人は、場の空気を「感じる」ことで考えを深め、行動を起こします。その証拠に、日本語では主語が明確ではありません(vol.178、271、326)。自らの主張を白地(あからさま)にしない為です。
また、喜怒哀楽の直接的な表現は野暮、と嗤(わら)われます(vol.301)。
         (vol.178 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=212
         (vol.271 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=308
         (vol.326 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=365
         (vol.301 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=338

大陸では、陸続きであるが故に、古来、耕作や漁といった暮らしの大本(おおもと)や富を巡って、血で血を洗う争いが繰り返されてきました。
大陸の人々は、そのなかで、「頼れるのは己(おのれ)独(ひと)り」、「冷徹な言動だけが我が身、家族、地域を護(まも)る」などを学びました。徹底した個人主義や堅牢で明快な論理は、その帰結(きけつ)です。

己の世代は、戦後の日米関係を巡る60年代、70年代、そして今の騒ぎ、全てを見聞しています。
空気を感じて動くという、日本人の特性、“日本人は変わっていない”、“歴史は繰り返す”を実感します。

そんな我が国で、一際(ひときわ)異彩(いさい)を放っているのが安土・桃山時代です。
この時代、日本人は自らに自信を持って海外に雄飛し、今に繋がる文化や芸術が生まれました。その時代の美の企画展「躍動と回帰−桃山の美術」に足を運びました。

この時代は、武将達は“一所懸命”に戦い、商人は海外と多岐に渡る交流をしていた“湧き立つ時代”です。
時代の熱気は、美の世界にも及びました。躍動感に富み、それに加えて、日本人が元々持っていた美的感覚が前面に出てきています。
それは、自然観に基づく“完璧さの排除”です。自然界には完全な対称はありません。完璧は、それでお終(しま)いを意味します。知恩院の忘れ傘、日光東照宮は陽明門の逆さ柱などは、その延長にあります。

素朴、単純を尊ぶ感覚が、飾りのない焼締めや流れに任せた釉薬(ゆうやく)の造形にみられます。
歪みや非対称を自然体として受け止めて、歪(いびつ)な茶器が愛(め)でられるようになりました。

日々、生死を賭して時代と向き合っている人々から、楽焼きに代表される単純な色と造型、狩野派に代表される金を背景にして鮮やかな色彩、そして長谷川等伯に代表される豪壮、繊細、余白の美の水墨画が生まれました。

今、焼き物の代表とされている志野、備前、織部、古唐津(こからつ)などもこの時代の美です。
“世相が美をつくる”を実感します。

今週の花材は、静かな秋です。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■山茶花〔サザンカ〕   ツバキ科/常緑高木/《名前の由
来》椿とよく似ているサザンカが混同され、椿の中国名「山茶
花」(サンサカ)が“サザンカ”として間違って定着したもの。サ
ザンカの中国名は「茶梅花」/晩秋から初冬の花の少ない時
期に開花する。江戸時代から多くの園芸品種が栽培され、現
在は約300種。日陰や剪定に強く、垣根としても利用。椿は
花首ごと落ちるが、山茶花は花弁が散る。
■菊〔トルネード〕   キク科/多年草/ダリアと見間違うよ
うな花姿のデコラ咲の菊。デコラ咲は花弁数が多く隙間なく詰
まり、花も大きくボリュームがある。ブライダルやアレンジメン
トで人気の菊。
■プロテア〔マディバ〕   ヤマモガシ科/常緑低木/《名前
の由来》 自由自在に変身できるギリシャ神話の海神プロテ
ウスの名より。同属とは思えないほど変異種が多いことから
/圧倒的な存在感を持つワイルドフラワー。花持ちが良く、ド
ライフラワーにも適す。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3371.jpg

【秘書室】
■アランダ〔チャクワンブルー〕    ラン科/アラクニスとバンダ
の交配種。花が蝋質で暑さに強く、長く楽しめる。アランダはモカ
ラ(アラクニス・バンダ・アスコケントルム)の交配種に比べ、花が
大きく花弁が細いのが特徴。
■ミスカンサス   ユリ科/多年草/白いラインが入るしなや
かな細長い葉。地植え・鉢植えでも耐寒性・耐陰性に優れた丈
夫な植物。
■ディンゴファーン   オーストラリア原産。ふさふさした濃い緑
色の葉を持つ。
■フィロデンドロン〔ブラックカーディナル〕   サトイモ科/常緑
多年草/亜熱帯地方に約200種あり、光沢のある綺麗な葉を
持つ。「ブラックカーディナル」は黒味を帯びた暗赤色。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3372.jpg

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