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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2015.08.28

vol.330  − 流 (ながれる) −

葉月(はづき)も終わりです。立秋を過ぎ、朝晩は秋の気配が色濃く漂っています。
肌を過(よぎ)る風は、“秋の初風(はつかぜ)”です。

         さるすべり仰げば梢に花咲かん
             紅(あけ)いくつあり空は光りて
                               黒田淑子

夏の抜けるような青空に百日紅(サルスベリ)の赤い色、そこには遠い日の懐かしさ、透明の哀しみが宿っているようです。

幼い時から庭に関心を持ち、今に至っています。
若い頃、この時季、夏休みを利用して全国の庭を巡っていました。
出張先で、期待せずに寄った庭に見惚れ(みとれ)、本来の仕事に遅れそうになったこともあります。

勝手に庭を分類してみます。
枯山水に代表される“石庭”、樹木の花を取り入れた大名庭園の“花の庭”、水音や水面に映る景色(水鏡)を意識した、“水の庭”です。

最初に心惹かれたのは、学生時代に訪れた毛越寺(もうつうじ)の庭(岩手県、平泉町)です。
今もそうかも知れませんが、近くにある金色堂と違って、訪れた時、誰も居ませんでした。人気(ひとけ)の無い広大な庭、低い山並が後ろへ退(ひ)いているので、上空の空間が広く、辺(あた)りは深閑(しんかん)としています。
この庭の主役は、池の中にある石組(いしぐみ)です。立石(たていし)が真中で屹立(きつりつ)しています。
この立ち姿が岸辺を引き寄せていて、周囲の風景との一体感を醸し出しています。

長い歳月の積み重ねが、この庭を自然に近い状態にしてくれています。
その趣(おもむき)は、明治になり、鉄道が敷かれた結果、それまで賑わっていた宿場の街並が廃(すた)れ、往時のままが現代に遺(のこ)されたのと同じです。この庭、観る人の心を穏やかにしてくれます。

庭は、禅僧や河原者と呼ばれる人々によって作られるようになりました。雪舟、善阿弥はその代表です。
ここから我が国の美が創られていきます。
芸術は、漂泊の旅から生まれてくるようにみえます。
雪舟、個人で最も国宝指定の作品が多く、我が国最高の画家とされています。この雪舟、何時(いつ)、何処(どこ)で亡くなったのか不明です。

漂泊ということを考えると、西行、芭蕉、良寛、石川啄木、山頭火といった歌人、画家では、雪舟、雪村、長谷川利行、田中一村(vol.312)、パスキンなどが居ます。
         (vol.312 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=351
独創的な芸術を産み出すには漂泊の旅が必要なのでしょうか。
それとも、漂泊の旅が芸術を産むのでしょうか。

漂泊の旅には、計画がありません。そこには、合理的な考えや行いも存在しません。
今という時代、我々は、あらゆる仕事に合理的な言動や根拠となる数値の提示を求められます。
只、人間は、常に合理的に考え、行動するわけではありません。
数値は過去の事実の証明に過ぎません。世の中、数値に表わせないコトはたくさんあります。況(いわ)んや、未来は、です。

混沌とした人間(ヒト)の営みの中で、悩み踠(もが)いている課題に、夢の中で答えが見つかることがあります。それは、発見であったり、個人や組織の進むべき道であったりします。

そういう閃(ひらめ)きは、生きる糧(かて)としている仕事の勉強から導かれるのではありません。
日々の営みのなか、五感を通じて入ってくる情報、あるいは己とは別の職業、年齢の異なる人々と、仕事とは関係のない話をしている時に、突然、生まれることは珍しくありません。多様な情報、人々、交わることの大切さがここにあります。
現代人に、漂泊の旅は無理です。只、時々、“心の漂泊”が必要です。

8月23日、会津若松の飯盛山で白虎隊が自刃(じじん)しています。
唯一生き残った飯沼貞吉はその後、数奇な人生を送ります。彼がこの悲劇を後の世に伝えました。

今週の花材は、赤の鮮烈さが夏の終わりを告げているかのようです。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■ストレチア   バショウ科/別名「極楽鳥花」(ゴクラク
チョウカ)。花茎に対して直角に近いかたちで嘴(くちばし)
のような尖った苞をつける。苞の上部から極彩色の美しい
花が咲く。花はオレンジ色の3枚の萼と1枚の青い花弁か
らなる。
■ケイトウ〔ボンベイケイトウ〕   ヒユ科/一年草/花期
は6〜9月で、赤やピンク、オレンジ等の花穂を付ける。
「ボンベイケイトウ」は扇状の花穂をつける。他に花穂が丸
い「久留米ケイトウ」や、羽のような「羽毛ケイトウ」なども
ある。
■ピンクッション〔サクセション〕   ヤマモガシ科/常緑
低木/待ち針のように見える一つひとつが雄しべ。独特
の花姿と南国らしい原色が特徴の個性的な花。
■ドラセナ〔コーディラインカプチーノ〕   リュウゼツラン
科/日本で流通する観葉植物の代表種。「カプチーノ」は
赤黒の葉の縁に白色が入る品種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3301.jpg

【秘書室】
■ヘルコニア〔アンドロメダ〕   バショウ科/多年草/バナ
ナに似た葉を持ち、赤やオレンジ等の原色と鳥の嘴のような
花形が特徴。立ち性と下垂性があり、草丈も50cm程から7
mを超す大型品種まである。「アンドロメダ」は立ち性の小型
品種。
■クルクマ〔エメラルドパゴダ〕   ショウガ科/球根植物/
幾重にも重なり花弁のように見える部分は苞で、その中に小
さな花が咲く。花自体は目立たず、主に苞を鑑賞する。「エメ
ラルドパゴダ」は爽やかな緑色。
■ケイトウ   (理事長室と同花材)
■ドラセナ〔サンデリアーナホワイト〕   リュウゼツラン科/
笹のような細長い葉とストライプの斑が特徴。熱帯アフリカ原
産で、現地では4〜5mにもなる。
■ドラセナ〔ソングオブインディア〕   リュウゼツラン科/イン
ド産の常緑樹ドラセナレフレクサの園芸品種。笹のような葉形
で、黄緑色と黄色のストライプが入る明るい葉。他に葉色が濃
い「ジャマイカ」、新芽だけに斑が入る「スリランカ」もある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3302.jpg

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