HOME > 理事長室からの花だより

理事長室からの花だより

新着 30 件

一覧はこちらから

理事長室からの花だより

2015.05.15

vol.317  − 和 (なだめる) −

薫風(くんぷう)の5月、万物が輝いています。生命(いのち)溢れる月です。
ニセアカシア、藤、マロニエ(西洋栃ノ木)、菖蒲(アヤメ)、菖蒲(ショウブ)、宇津木(ウツギ)、著莪 (シャガ)、鈴蘭(スズラン)が爽やかさを際立たせています。

空を翔(か)ける燕(つばめ)、花に舞う蝶、生命の讃歌です。

         遅日 江山麗しく     (ちじつ こうざんうるわしく)
         春風 花草香し      (しゅんぷう かそうかんばし)
         泥融けて 燕子飛び   (どろとけて えんしとび)
         沙暖かにして 鴛鴦睡る (すなあたたかにして えんおうねむる)
                                               杜甫

この詩、春の景色とそれを楽しもうとする作者の気持ちが伝わってきます。

田圃(たんぼ)には水が張られています。
夜汽車の窓、沿線の灯(あかり)が地平の果てまで広がっている水面(みなも)に映り、幻想的です。

赤穂義士の泉岳寺までの道、その一部を辿ってみました。先人達の健脚振りに驚きます。
寺に昔の面影は失われています。当時、目の前には広大な海、空、潮風、潮の香り、そして樹々が、彼等を包んでいた筈です。

墓は、遺骸が埋葬されている個人墓です。一部が供養墓のようです。
死者は浄土に往くという仏教の影響で、遺骸が葬られている墓を重視することは必ずしもありませんでした。
墓石の庶民への普及は、江戸時代後期です。石の入手や細工の技術には金が掛ったことが窺(うかが)われます。家の墓になったのは明治以降です。

石と言えば、東日本には城の立派な石垣は数えられる程です。
         (vol.215 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=252
墓石の普及や城の石垣には、貴重な石という資源を調達できる経済力が関係しているようです。

葬送や墓の有り様が、世の中の変化に追いつけず、一昔前には考えられないような事態が起きています。

「遺体の放置」は、その象徴です。「葬送儀礼は、死者を中心とした人間関係を再構築するための相互行為」だとすれば、それを失った時、人と人との繋がりはどうなっていくのでしょう。

地域や家族の有り様は時代とともに変わります。
死者への尊厳が損なわれつつある今という時代、医療人にも、老いと死、暮らしと世間に就(つ)いて、文化的、歴史的な俯瞰(ふかん)的視点を持って捉(とら)えていく責務があります。

鯉幟(こいのぼり)にも、時の移ろいを感じます。元々は次の世代への祈りだった行事です。家族の変化や都市化の進行により、今や、その役目が果たせなくなっています。
まとめてロープに吊るされて吹き流されている姿は、変化の激しい当世、世間と人々との新たな繋がりを模索している世情の一断面です。
端午の節句、幼かった頃、己は勿論、周りに鯉幟や武者人形は見当たりませんでした。子供には「憧れ」でした。

五月の空、飛行機雲も映えます。飛行機雲をつくっている飛行機をみていると、旅、その変遷が脳裡を過(よぎ)ります。

マグリット展に足を運びました。
昔、ベルギー、ブリュッセルに滞在した時のことです。史上最大というマグリット展が開催されていることを知りました。入場券は既に完売、ダメもとで出掛けました。
やはりダメでした。日本から来たのに、と係のおばさんが同情してくれ、奥からベルギー王室美術館公認の「大家族」のリトグラフを出してきてくれました。今、秘書室の壁に掛けてあります。

彼の作品、中心にあるのは、空と雲です。それが通奏低音のように響いています。
重松清の「きみの友だち」のモチーフ(動機の主題)の雲を連想させます。
そして、不気味な程の静寂です。その気配には、米国の画家エドワード・ホッパーにみられる都会の哀愁、孤独と相通じるものがあります。
         (vol.63 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=89
         (vol.153 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=186

今週の花材は、両室とも、今の自然を表現しているようです。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■ラークスパー   キンポウゲ科/一年草/デルフィニュウムの仲
間。花姿はデルフィニュウムジャイアント系を一回り小さくした可憐な
印象。線状の葉を持ち、スッと伸びた花茎に穂状に花を咲かせる。
■アルストロメリア   ヒガンバナ科/球根植物/《名前の由来》ス
ウェーデンの植物学者アルストレメールの名前から/1本の茎から5
〜8本の花茎を伸ばし花を咲かせる。一つひとつの花はユリを小さく
したような形で、花弁に入る斑が特徴。
■ピンポン菊   キク科/多年草/真ん丸に咲く可愛い菊。非常に
花持ちが良く、仏事に限らず幅広く利用される。
■ドラセナ〔コーディラインスノーホワイト〕   リュウゼツラン科/日
本で流通する観葉植物の代表種。「コーディラインスノーホワイト」は
青葉。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3171.jpg

【秘書室】
■ギガンジュウム   ユリ科/ネギ坊主のような紫色の球状花。小
さな花が密集して、開花が進むにつれ球形が大きくなる。ネギ属の
花なので、ハサミを入れるとネギの匂いがする。
■カラー   サトイモ科球根植物/《名前の由来》花姿がワイシャツ
の襟(カラー)に似ていることから/メガホン状の花弁のように見える
部分は苞で、苞の中に棒状の花序を持つ。
■カーネーション〔プラドミント〕   ナデシコ科/多年草/菊・バラと
並び世界的に生産量の多い主要花。母の日の花として古くから親し
まれる。「プラドミント」は淡いグリーン。
■てまり草   ナデシコ科/多年草/マリモや芝を連想させる個性
的な花。ふさふさした部分は、花・雄しべ・雌しべが変化したもの。
■アンスリュウム〔エスメラルダ〕   サトイモ科/常緑多年草/光
沢があり造花と見間違うような南国の花。花弁のように見える苞と棒
状の花序を持つ。
■ドラセナ〔サンデリアーナホワイト〕     リュウゼツラン科/笹の
ような細長い葉とストライプの斑が特徴。「ホワイト」は白斑で、黄斑の
「ゴールド」や緑の「バリケード」もある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3172.jpg

▲TOPへ