HOME > 理事長室からの花だより

理事長室からの花だより

新着 30 件

一覧はこちらから

理事長室からの花だより

2015.03.06

vol.308  − 融 (とける) −

大気の潤(うるお)いが増し、朝陽、夕陽が赤銅色(しゃくどういろ)です。
この色が天空の青に溶けて、辺りは縹色(はなだいろ)に染まります。早春の華やぎです。

庭には深紅の木瓜(ボケ)、華やかです。
風の肌触り、そして、雨が、もう春であることを教えてくれます。

原発事故の後、Yes(イエス)かNo(ノー)かを迫られる立場に居るせいか、一層、「和」に就(つ)いて考えるようになりました。
古くは、仏教を始め様々な渡来文化が大陸から我が国にもたらされました。近くは、明治維新による文明開化、暮らしや仕組みに大きな変革をもたらしました。

大きな時代の波をかぶっても、暮らしや営(いとな)みでは、「和」の骨組みは不変です。
それを支えているのは何でしょうか。
人々の自然との向き合い方にあるような気がします。
庭の作り方はその典型です。建材でみると、西洋は堅牢な石です。我が国は柔らかい木です。

我が国では、今でも自然を敬う気持ちが人々の心の奥底にあります。山河、特に山や磐(いわ)が古来、御神体とされています。古い神社に行けば、その名残(なごり)が今でもみてとれます。

利休の提案した陋屋(ろうおく)を模した茶室や、黒楽(くろらく)の茶碗(長次郎)といった意匠は、室町時代までの唐物(からもの)の完璧、堅牢な美でなく、不完全な、余情の美です。「なごみ」を感じさせてくれます。
         (vol.110 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=138
         (vol.295 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=332

自然を敬う人々の心は、暮らしのなかに様々な形で今も生き続けています。
季節の味わいで「走り」を尊ぶ心情、季節毎に着物を変える「衣更え」を楽しむ慣習、季節の折を踏まえた「贈り物」への心配りなど、平安の昔からの伝統が今も残っています。

「贈り物」では、何を贈るかも然(さ)る事ながら、何時(いつ)贈るかに心砕くのは、日本人特有のきめ細かさとも言えます。
このような嗜(たしな)みが「風流」とされてきました。山河の木々や花々、そして鳥にさえこのような心情が在ると考えているのが日本人で、これが「和」です。

「和」の代表の香道、我が国独特の香道は、南北朝時代まで遡(さかのぼ)ることが出来るようです
お香、幼かった頃、早朝、父がお茶を喫(きっ)しながら楽しんでいるのを記憶しています。
長じて、個室を得るようになってから執務室でも嗜むようになりました。勿論、己のお香は香道ではありません。単に香りを楽しむだけです。

長年愛用している線香の「正覚」(しょうかく)、品薄で、仲々入手出来なくなっているようです。長年の「お得意様」ということで、店の方が切らさずに準備して下さるお蔭で「正覚」を今も楽しんでいます。

随分と昔、京都の本店で社長さんから、燃え残った足元の部分を香炉で温めて楽しめる事を教えて戴きました。それまでは、捨てていただけに、もったいないことをしていたと、時折、未だに思い出しています。執務室で、残り数ミリの線香を電気香炉で温めて楽しんでいます。

品不足は、以前から危惧されていた原材料の不足だそうです。
自然と偶然が創り出した香木、沈香(じんこう)が採れなくなっているのです。
もう一つは、訪日した中国の方々がまとめ買いをしているそうです。その為、今は、一人につき一箱ずつしか売らなくして、在庫を確保しているそうです。

天然の伽羅(きゃら)を人工的に合成しようという試みをされてはいるそうです。教科書には、沈香の匂いの主たる成分はベンジルアセトンとテンペルアルコールと記されています。しかし、天然の伽羅を再現とはいかないようです。

小説家の立原正秋は、最後の小説となった「その年の冬」に、自ら愛したお香を登場させています。
彼の死後、発見された句が胸に迫ります。

         冬のつぎに春となるを思はず

今週の花材、執務室は桜が、秘書室は薄緑が、春を象徴しています。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■桜〔彼岸桜〕(ヒガンザクラ)   バラ科/落
葉高木/《名前の由来》春のお彼岸の頃に開
花することから/他の桜に先駆けて開花する品
種。花色や淡紅色で一重咲。桜の開花予測は
「染井吉野」(ソメイヨシノ)が基準となっており、
「彼岸桜」はより早く開花する。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3081.jpg

【秘書室】
■グラジオラス〔トリステスコンコロール〕   アヤメ科/球根植物/
一般的なグラジオラスとは異なり、小ぶりな春咲きグラジオラス。茎も
細く繊細で可憐な野の花のような小ぶりな花が咲く。「イブニングフラ
ワー」の別名をもち、夜に強く香りを放つ。「コンコロール」は強健な性
質の原種で、多くの春咲き品種の交配親。
■ハイドランジア〔グリーンモジート〕   ユキノシタ科/落葉低木/
日本のアジサイがヨーロッパに渡り、品種改良された西洋アジサイ。
日本原産のアジサイに比べ、花が大きく華やか。ドライフラワーにも適
し、リース等にも利用される。
■チューリップ〔フラッシュポイント〕   ユリ科/球根植物/公園や学
校などの花壇を彩る春の代表花。開花時期や花色花形など多岐にわ
たり8000種以上ある。「フラッシュポイント」は明るい赤系の八重咲で
葉に斑が入る。世界的な生産地はオランダが有名。国内では新潟と
富山が県花としている。
■モカラ〔ライラックブルー〕   ラン科/バンダ・アラクニス・アスコケ
ントルムの3種の蘭を交配した人工種。南国らしい赤や黄色などの鮮
やかな花色の品種が豊富。「ライラックブルー」は綺麗な紫系の花色。
■テマリソウ  ナデシコ科/多年草/真ん丸でマリモや芝を思わせ
るような花。フサフサした部分は雄しべ・雌しべ・花弁がガク片のように
変化したもの。非常に花持ちが良く、長期間楽しめる。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3082.jpg

▲TOPへ