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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2015.01.30

vol.303  − 暖 (あたたまる ) −

信夫の里、暁方、天空では、雲に隠れた月光が雲を銀鼠色(ぎんねずいろ)にしています。
山河では、白い霧が空、山、大地を繋ぎ、境界がなくなっています。
大地では、河原に枯薄(カレススキ)、冬景色です。

         路傍(みちばた)の石に夕日や枯すすき
                                 泉鏡花

皇居の濠端(ほりばた)、ひっそりと水仙、そこは早春です。

新幹線を足として動いている日々、目にする情景のなかで、日本人の優しさや思い遣(や)りに出会うことがあります。
海外での修行中、在留邦人の方々や土地の人々に随分助けられました。今、恩返しのつもりで、困っている外国人が居たら声を掛けるように心掛けています。
         (vol.158 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=192

心暖(こころあたた)まる場面を見ました。
列車の扉が開き、乗り込んだ女性の乗客が、年齢のせいか、手が不自由なのか、捻(ひね)って開けるペットボトルのお茶の封切りが出来ず、困っていました。
プラットフォームに居た駅員さんが、窓越しに、それに気付きました。発車間際だったので、車窓のガラス越しに、パントマイム(無言劇)か手話のように、”車掌さんに伝えておく”、と取れる仕草をしていました。
発車して間もなく、車掌さんが乗客のところに来て下さり、ボトルの栓を開けていました。
駅員さんの細やかな目配り、それを受けて動く車掌さん、落語の人情話を聴くようです。

都内、‟居酒屋の国会”ならぬ‟タクシーの国会”を、一頻り(ひとしきり)、運転手さんとしました。運転手さん曰く、「最近の若者も捨てたもんじゃないよ」。
深夜、終電車が行ってしまい、タクシーを使って帰宅する若者がいるそうです。持ち合わせの金がないのに乗ってしまっているのです。運転手さんは、携帯電話の番号を教えてくれることを条件に、後払いを認めているのです。後日、必ず支払われるそうです。
こんな話を聞くと、‟今の若者は”、口に出来ません。

話は飛びます。
列車で移動するとき、駅弁とお茶は付き物です。田舎で暮らしている昔の子供には、終点の街まで出掛けるのは“大旅行”です。当時の子供にとっては、感覚的には、今の海外出張よりも遥かに大事(おおごと)です。
駅の立ち蕎麦はハレの食事です。(vol.265 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=302
肩から吊るした台のような箱に商品を載せている売り子のおじさんから駅弁やお茶、時には売店(当時は鉄道弘済会)でアイスクリームを買っての乗り込み、“御祭り”です。

今の駅弁、多種多様です。気付くのは、おにぎり(おむすび)の存在の大きさです。お伽話では「おむすび」ですから、おむすびという名称が古いのでしょう。
このおにぎり、コンビニ店が全国展開してから、形はすべて三角です。手作りの昔は、円盤、三角、俵、丸と地域性がありました。

包装、昔は竹の皮です。今もこれを凌(しの)ぐ包装はありません。今では、贅沢な包みです。
驚くのは包装の進化です。フィルムが海苔(のり)と御飯の間を隔て、剥がすと、一瞬で包装が解けて、海苔と御飯が一体となります。最初に考えた人の知恵に脱帽です。

お茶、子供の頃は土瓶でした。それが、ティーバッグ付きのプラスチックの瓶となり、今はペットボトルのお茶です。様々な種類、冷、温、どこでも、手軽に手に入ります。今の人々にとってはこれが当たり前です。
昔を知る人間からすれば、天国です。恐るべき我が国の技です。ここに日本人の創意工夫をみてとれます。

寿司店の御主人が、独り言のように呟いた一言です。「小鰭(こはだ)を寿司ネタとして最初に考えた人はスゴイ」。
気にもしない小魚、下拵え(したごしらえ)一つで風味が変わるネタ、職人の勘と仕事の伝統は今も受け継がれているのです。

今週の花材、白や黄色と薄緑の組み合わせ、早春の象徴です。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■レンギョウ   モクレン科/落葉低木/原産:中国・朝
鮮・日本/早春を彩る代表的な花木。耐寒性耐暑性に優れ
丈夫で育てやすく、生け垣や公園の植栽に利用される。葉
に先だって黄金色の4花弁の花を枝いっぱいに咲かせる。
花の最盛期を過ぎたころから葉が芽吹く。
■モルセラ   シソ科/一年草/原産:シリア/《名前の
由来》原産地と間違えられたモルッカ諸島の名から/花期
は春で大きな緑色のガクの中に白っぽい花が咲く。花自体
に鑑賞価値はなく、葉物として流通。爽やかなライトグリー
ンと独特な茎のラインが魅力。ミントに似た芳香がある。
■アルストロメリア〔エベレスト〕   ヒガンバナ科/球根植
物/原産:南アメリカ/《名前の由来》スウェーデンの植物
学者アルストレメールの名前から/一本の茎から5〜8本
の花茎を伸ばして花が咲く。一つひとつの花はユリを小さく
したような形で、花弁に入る斑が特徴。「エベレスト」は白色。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3031.jpg

【秘書室】
■水仙〔日本水仙(ニホンズイセン)〕  ヒガンバナ科/球根植
物/とても良い香りを放つ春の花。花型などにより12系統に分
類され、約2万5000種ある。早咲き、遅咲き種などあり、12
〜4月頃まで楽しめる。「日本水仙」は早咲き種で12月頃から
開花。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3032.jpg

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