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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2014.12.12

vol.297  − 儚 (はかなむ) −

晩秋から初冬の自然からの便り、時雨(しぐれ)、信夫の里に到来しました。

         けふばかり人も年よれ初時雨
                          松尾芭蕉

以前もこの時雨の句を記しました。
         (vol.12 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=27
芭蕉の命日(1694、元禄7年、旧暦10月12日)は時雨忌(しぐれき)と言われています。
齢を重ねてくると、この句に、惹かれます。

この時季、度々(たびたび)霧にも見舞われます。早朝、市街地から高台にある大学に向かう時、大学が霧の中に浮かんでいて、建物の灯や街路灯が、大学への澪標(みおつくし)のようです。

時雨や霧の出現、初冬です。

落葉が、透明で大きなビニール袋に詰め込まれ、車で運ばれていきます。
大学の周辺、枯葉は銀杏(イチョウ)や桜が主です。行方定まらぬ落葉の動きとその結末に、漠然とした不安を重ねてしまいます。

週末の都心、背広を着て、人気(ひとけ)の無い歩道を、考え事をしながら歩いていました。ふと目を上げると、銀杏(イチョウ)の並木、一直線に並んでいます。
午後遅く、並木が西陽(にしび)を受けるなか、銀杏の葉が黄金色に輝きながら、間断なく、舞い落ちています。

         金色(こんじき)のちひさき鳥のかたちして
         銀杏ちるなり夕日の岡に
                                 与謝野晶子

         蒼穹(そうきゅう)の芯(しん)より銀杏吹雪かな
                                    角川春樹

銀杏の葉の散り落ちる様(さま)は、美しく、儚げです。
これらの歌そのものの風景が、眼前に展開しています。色の乏しい時季でもあり、昔から今に至るまで、多くの歌人を魅了(みりょう)して止まない情景です。

道の真中に立ってみると、両脇はビル、上は青空、下は一直線の道路で縁取りされ、額装された絵画をみるようです。
週末とあって、歩道に散り敷かれている銀杏の落葉が、掃き清められずに、敷き詰められています。黄色の絨毯(じゅうたん)、目と足でその華やぎを楽しみました。
         (vol.250 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=287

我が国には銀杏の並木があちらこちらでみられます。寿命が長いせいか、大木が珍しくありません。昔から大切にされてきた証(あかし)です。
銀杏の木、街路樹としてよく用いられ、大切にされるのは、丈夫なこと、葉の色や形もさることながら、食用としての実の実用性も関係しているのではないでしょうか。

秋の彩(いろどり)を代表する黄色、中国では古くから高貴な色とされています。
一方、西洋では、時に、負の側面を有しています。ここにも彼我(ひが)の差がみてとれます。

公園では、休日も、清掃員の方々が空気で落葉を吹き飛ばしています。側のリヤカーには、熊手(くまで)や竹箒(たけぼうき)が備えてあります。昔、よく聞こえていた竹箒の音が、心の裡(うち)に聞こえてきます。

求道者の如く黙々と、清掃している人々の姿、海外出張の際に、早朝の街中で見掛ける清掃している方々と、佇(たたず)まいが違います。
こんなところに、それぞれの国で、人々が‟務(つと)め“をどう捉えているか、彼我の差がみてとれます。

竹箒で掃いている時の、規則正しい硬い音、列車や船舶の汽笛と同じように、懐かしさを感じます。今の若い人々は、将来、どんな音に懐かしさを感じるのでしょうか。

12日(1963年、昭和38年)小津安二郎が亡くなっています。享年60の生涯です。
奇しくも、誕生日も12月12日(1903年、明治36年)です。
今尚、世界中の映画人から神の如く慕われている存在です。彼の死生観に基づいて描かれている、人生では必然である別れや儚さが、時代や国境を越えて、人々の共感を呼ぶのではないでしょうか。

今週の花材は、執務室は白と赤の対比が凛(りん)とした雰囲気を、秘書室は優しい色彩(いろどり)が温もりを醸し出しています。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■ナンキンハゼ   トウダイグサ科/落葉高
木/《名前の由来》中国原産でハゼノキ同様に
蝋を採ることから/乾燥や剪定に強く、街路樹
や公園に植栽される。花期は6〜7月頃で枝
先に黄緑色の長い穂状の花序をつける。秋に
緑色の実がなり、熟すと茶色になる。果皮が裂
けると白い蝋に包まれた3つの種子があらわ
れる。
■グロリオサ〔サザンウィンド〕   ユリ科/球
根植物/《名前の由来》「栄光」や「見事な」を
意味するラテン語の“グラリオラス”から/花弁
が反り返り、赤く燃える炎のような花姿。半蔓
性で支柱や他の植物に絡まって成長するため
葉先は巻きヒゲになる。「サザンウィンド」は草
丈が短く、花が詰まってボリューム感のある鮮
やかな赤色。
■ケイトウ〔羽毛ケイトウ〕   ヒユ科/一年草
/花期は6〜9月頃で、赤やピンク、オレンジ
などの花穂を付ける。「羽毛ケイトウ」は羽のよ
うなふさふさとした形状。他に扇状の「ボンベイ
ケイトウ」や丸い「久留米ケイトウ」などもある。
■ドラセナ〔ソングオブインディア〕  リュウゼツ
ラン科/日本で流通する観葉植物の代表種。
「ソングオブインディア」は黄斑の入る明るい葉
色。他に「ソングオブジャマイカ」や「ソングオブ
スリランカ」等もある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2971.jpg

【秘書室】
■エピデンドラム〔ユキ〕   ラン科/《名前の由来》ギリシ
ャ語の“epi”(上に)と“dendoron”(木)の2語より。本属が
一般的に着生蘭であることから/細く伸びた茎の先端に小
さな花が密集して半球状に開花。次々と開花し、切り花とし
ても長く楽しめる。「ユキ」は淡いクリーム色。
■モカラ〔サイアムゴールド〕  ラン科/バンダ・アラクニス・
アスコケントルムの3種の蘭を交配した人工種。鮮やかな花
色の品種が豊富な南国の花。「サイアムゴールド」は丸弁で
斑の入らないオレンジ色。
■ドラセナ〔コーディラインレッド〕   リュウゼツラン科/切
花としても非常に長く楽しめる丈夫なグリーン。「コーディライ
ンレッド」は赤葉。正式にはコルジリネ属で、理事長室使用
のドラセナとは別種。以前ドラセナに分類されていたため、
現在もこの名称で流通する。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2972.jpg

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