HOME > 理事長室からの花だより

理事長室からの花だより

新着 30 件

一覧はこちらから

理事長室からの花だより

2014.11.28

vol.295  − 和 (なごむ) −

闇の中、夜来の風で散った白い花弁(はなびら)、百花繚乱の如く、雨に濡れた敷石に散り敷かれています。

         山茶花(サザンカ)のはかなき花は雨故に
         土には散りて流されにけり
                                 長塚 節

花の少ないこの時季、咲いている姿や彩(いろどり)も然(さ)る事ながら、散ってからの儚(はかな)げ、心誘われる風情です。一瞬、心身が鎮まります。

那須連峰から奥羽山脈に雲がかかることが多くなってきています。平野に広がる麓や盆地の晴朗な空と対照的です。
時雨(しぐれ)の時季です。

那須野が原、遠景、南向きに建てられた古い一軒家、脇に葉を落とした柿の木、橙色(だいだいいろ)の実がたわわに実っています。
家を護(まも)るように植えられている屋敷林(やしきりん)、向井潤吉、谷内六郎、安野光雅、原田泰治の絵を思わせます。我々の世代には懐かしい風景がそこに在ります。
この景色、そこでのんびり過ごしてみたいという思いが、一瞬、胸に過(よぎ)ります。

信夫の里の晩秋、静寂です。
市街地で最古との説明板がある樹齢700年という銀杏(イチョウ)の大木、寂しげな感じで、小さな境内に唯一本、聳(そび)え立っています。
側に、明治という時代と信夫郡という地名が刻まれた二つの石碑、漢文と和歌が記されています。

交差点のなかに取り残されたような小公園、人影をみたことがありません。
足を踏み入れてみると、青々とした下草が、茶色の枯葉で敷き詰められたように覆われています。その上に、山茶花の紅の花弁(はなびら)、点描のように散り敷かれています。
夕暮れ時、鐘楼(しょうろう)から鐘の音が伝わってくるようです。

仕事で千葉と東京の往復を繰り返しました。海の方角をみていると、遠目、澄み切った晴天の空を背に離着陸を繰り返している飛行機、おもちゃのようにみえます。
足元、海と川が一続きになっています。この風景、山間(やまあい)の小さな町に育った人間には、橋脚(きょうきゃく)を打つ波の音が心の耳に響き、気持を広々とさせてくれます。

         昏れ方の電車より見き橋脚に
         うちあたり海へ帰りゆく水
                          田谷 鋭

海辺の風景をみると、思い出す歌です。

「東山御物(ひがしやまごもつ)の美−足利将軍家の至宝−」展に足を運びました。
展示物の一つひとつが大きい、というのが印象です。青磁絵花器碗銘「馬蝗絆(ばこうはん)」(vol.110)は勿論、南蛮砂張舟花生(なんばんさはりふねはないけ)針屋舟(はりやふね)に心惹かれました。
これを実際に吊っているところをみたかった…。
         (vol.110 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=138

若い時に買った花器を思い出しました。
南部鉄器で、猿が三匹、手をつないで、延ばしている手を組ませると一本の吊り手となります。これに、三日月を形取った花入(はないれ)を下げるようになっています。今も玄関に置いて愛でています。

展示品の大部分は「唐物」(からもの)、中国美術です。ここから日本美術が生み出されていったことを考えると、その歩みは小、余白(余情)、残心への道でしょうか。

床の間を構成している畳床(板床)、違い棚、地袋の上の床面に、会場に展示されていた掛物、花入、香炉などが実際に置かれてみると、大きいと感じられた調度品の数々、丁度、釣り合いがとれているのかもしれません。

意匠としての床の間、鎌倉期の上段の間から進化して、江戸の中頃(18世紀)には豊かな商人の住まいに普及したようです。床の間は、日本家屋の歴史そのものです。それも、今や、変容してしまいました。只、その思想は今後も形を変えて生きていく筈です。

今週の花材、執務室は黄と薄緑、秘書室は紫と緑の対比が目に鮮やかです。
梅擬(ウメモドキ)の撓(たわ)んでいる様、大学の置かれている今とそれに耐えることを、無言の裡(うち)に教えられているようです。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■ウメモドキ〔ゴールデンバブーム〕  モチノキ科
/落葉低木/《名前の由来》樹形や葉が梅に似
ている頃から/花期は5〜6月頃で、秋に枝いっ
ぱいに実をつける。落葉後も果実が残り冬庭を彩
り、庭木としても人気。「ゴールデンバブーム」は黄
色で実が大きい。
■金魚草〔アスリートイエロー〕  ゴマノハグサ科
/一年草/《名前の由来》花型が金魚に似ている
ことから/金魚のようなぷくっとした花が円錐状に
咲き、鮮明な色彩で花色が豊富。一重咲・八重咲
の他、花が杯状に開くペンステモン咲きがある。
切花で流通するような高性種(こうせいしゅ)とガー
デニングなどに向く小型種がある。
■菊〔ロサーノオレンジ〕    キク科/常緑低高
木/“一本で絵になる花”がコンセプトのブランド菊
「飛騨マム」の菊。つぼみではなく大きく咲かせて
から出荷され、一輪で存在感のある花。「ロサーノ
オレンジ」は茶系の落ち着いた色合い。
■ドラセナ〔コーディラインレッド〕  リュウゼツラン
科/常緑低木/日本で流通する観葉植物の代表
種。切花でも非常に長く楽しめる丈夫なグリーン。
「コーディラインレッド」は赤葉。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2951.jpg

【秘書室】
■バンダ〔バンドーラダークブルー〕   ラン科/樹木や岩肌に根
を張りつかせて育つ。洋ランの中でも特異なブルー系の美しい花
色。10cmほどの大きな丸弁の花弁で、網目模様が入る。花色
は青系を中心にピンクや黄色、白もある。
■テマリ草 ナデシコ科/多年草/マリモや芝を連想させる個性
的な花。ふさふさした部分は、花・雄しべ・雌しべが変化したもの。
■タニワタリ   チャセンシダ科/常緑シダ植物/樹林に自生
し、樹上や岩上に着生するシダ植物。光沢のある鮮やかな緑色
で波打つ葉が特徴。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2952.jpg

▲TOPへ