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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2014.11.07

vol.292  − 渡 (わたす) −

執務室がある棟の二つのロビー、外壁のガラスを通しての綾錦、寂寥(せきりょう)を伴った華やかさです。
構内の紅葉、今が頂点を極めています。壁面を構成している大きなガラスが、樹々の色彩(いろど)りを屋内に運び込み、内部まで染められるようです。空の青さが、この風景をより引き立てています。
設計と造園の連携、建設時での担当者の工夫に脱帽です。

原発事故の前、この風景に心惹かれたことがあっただろうか、と問うています。
あの時以来、時や自然の移ろいに目がいくようになりました。

構内を歩くとき、落葉の立てる音と風の冷気、足元の砂利の音、今が晩秋であることを教えてくれます。
信夫の里、この時季、時々、強い北風が吹き渡ります。こんな日の月、見惚(みと)れる程、光が冴え返っています。

この風、庭の樹々の葉ずれの音も奏でてくれます。
風や葉ずれの音、それらが醸し出す空気、そこに住む人に冬が遠くないことを知らせます。

         或時はひとのものいふ声かとも
         月の夜ふけの葉ずれ聞え来
                           若山牧水

葉ずれの音が人の声のように聞こえます。そこには、人恋しさ、なつかしさがあります。

透き通った大気、日溜りの温(ぬく)もり、北風、晩秋は、一時、人間(ヒト)を“優しき人”にしてくれます。
四季を味わい深いものにしている大気の潤い、人間にも豊かな感受性を与えてくれています。そのことが、その土地に特有の文化を生み出すのに与(あずか)ってきた筈です。

例えば、日本画、遠近法を取り入れる以前から、水蒸気(水分)の多寡によって変化する色調や形の境界で立体感を表現してきました。
障子の和紙、子供の頃は、季節の折節に、各家庭で霧を吹きながら張っていました。雨の日、そこを通る光は柔らか味を帯びます。晴れの時、固い光と化します。

各家庭にあった障子や襖、今は殆んど姿を消してしまいました。障子を張るのに使う手漉(す)き紙、子供の頃には残っていました。高度成長期に機械漉きに代わりました。
それでも、障子は、今尚、通気性、外光を宥(なだ)める働き、外からの音を下げる効果、今を生きる我々に、心に静けさをもたらしてくれます。

障子、西洋の扉と違い、半開放性です。障子の開け閉め、光の取り入れと同様、西洋にはないように思います。閉じていれば、人間(ヒト)は側に立ち居る事を控える慣習がありました。ウチとソトが、完全なる遮断ではない空間から、様々な文化や風習が生まれてきました。

最近、室内の装飾や様々な用途に和紙が使われています。和紙の復権です。
どんな形ででも伝統を伝えていければ素晴らしいことです。伝統とは、従来の形を守ることではなく、時代に応じて変わっていく事なのですから。

自然と人間の関わり、英国は、同時代に、対照的な画家を輩出しました。ターナーとコンスタブルです。

ターナーは生前、若い時から名声を得ていました。自然それ自体の劇的な風景を描き出しています。
一方、コンスタブルは必ずしも幸せな生涯ではありませんでした。只、彼の画(え)に、我が国の人々が自然に注ぐと同じ眼差しを感じます。自然の中で営んでいる人々の姿です。

今は、両者とも英国を代表する画家として並んで展示されています。
ニューヨーク出張の時、両者の作品をメトロポリタン美術館、フリックコレクションで鑑賞できました。
 
         断崖は風景となるロンドンで
         風景画流行りはじめた頃に
                         香川ヒサ

自然そのものの断崖、美の対象として捉えられた時代の空気を見事に歌っています。

今週の花材は、両室とも西洋の花々で錦秋を表現しているようです。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■羽毛ケイトウ〔ドリアン〕   ヒユ科/一年草/《名前の由来》
花穂が鶏の鶏冠に似ていることから“鶏頭”。花期は6〜9月頃
で、赤やピンク、オレンジ等の花穂を付ける。羽毛ケイトウは羽
のようなふさふさした形状。他に扇状の「ボンベイ」や丸い「久留
米ケイトウ」などもある。「ドリアン」は羽毛ケイトウをさらに細長く
伸ばしたような花穂。
■ピンクッション〔ハイゴールド〕   ヤマモガシ科/常緑低木
/針山に待ち針を刺したような独特の花姿。待ち針のような部
分の一つひとつが雄しべ。「ハイゴールド」は黄色。
■赤芽柳   ヤナギ科/落葉高木/猫柳と山猫柳の雑種で、
日本の山野に自生。赤い花芽の皮がとれると、銀白色のモコモ
コした花穂があらわれる。枝がやわらかいので、曲げても利用
できる。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2921.jpg

【秘書室】
■アネモネ〔モナリザ〕   キンポウゲ科/球根植物/
一茎に一花、大輪花を咲かせ「牡丹一華」「花一華」の
別名を持つ。花弁に見える部分は萼片(がくへん)の集
まり。チューリップと同様に、明るいと開花し暗いと閉じ
る。「モナリザ」は大輪一重咲きで花色が豊富。
■コニファー   ヒノキ科/常緑低高木/プランターな
どの寄せ植えから垣根やシンボルツリーとしも人気の針
葉樹。樹形や葉色は様々で3000種を超す。クリスマス
リースなどの材料にも適する。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2922.jpg

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