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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2014.08.29

vol.284  − 祷 (いのる) −

葉月、鎮魂の月です。古来、盂蘭盆(うらぼん)が、現代、原爆投下、そして敗戦が加わります。

先の戦(たたかい)で、多くの若者が亡くなりました。生死の境を生き抜いた人達、戦後のひもじさや貧しさを味わった子供達、時の移ろいとともに、少なくなってきました。

         かく明るくまかげしつづく若き歩み
         彼ら知らざる八月の日に
                            近藤芳美

今、この強い日差しを、只、暑いと捉えて、平和を享受(きょうじゅ)している人々が居ます。
平和な時間が続くと、その有り難さ、維持することの厳しさを忘れてしまいます。
戦後約70年、人々は実体験としての戦争(いくさ)を知りません。8月15日、街頭での黙祷も目にしなくなってきました。

8月の歳時、「御盆(おぼん)の帰省」、今を生きる人々にとって、哀しみと郷愁を誘う慣習の一つです。
この背景には戦後の歴史があります。高度成長期、多くの若者が都会に出ました。集団就職列車は、その象徴です。
   (vol.44 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=69
御盆の帰省、毎年繰り返されていて、永遠に続くと思われていた風物詩です。近年、変化がみてとれます。

交通の混雑や渋滞が和らいでいます。閑散としていた都心、今、以前程、空(す)いていません。
帰るべき故郷(ふるさと)に、上京した若者の親御さんがもはや居ないことが多くなりました。都会に出た人々の子供達には、都会が故郷です。この人々には、この時期は旅や休暇の機会です。

もっと大きな理由は、節目、節目での御先祖様の墓参り、という伝統的な風習が廃(すた)れてきたことではないでしょうか。それには、色々な理由があります。

継承を怠った責任が我々の世代にあることは確かです。戦後の一時期、我々の親の世代が、日々の生活の糧を得ることに精一杯であったことがあります。
交通や通信手段の発達により、世の中の暮らしや仕事が速くなったこともあるでしょう。

高度成長期、地域の伝統行事を軽視する風潮があったことは、子供心に、肌で感じていました。気が付けば、親から子へ伝える機会を逸してしまいました。

折りしも、第一次世界大戦勃発後100年、欧州で多くの記念式典が開かれています。
   (vol.277 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=314
この大戦では、我が国は、幸いにも、真の当事者にならずに済みました。僅かに、地中海への海軍の出動、青島(ちんたお)の占領などが語り継がれている位です。

歴史上、初めての国家総力戦です。毒ガス、戦車、戦闘機が出現しました。戦争の次元が変わってしまったのです。その悲惨さは、映画「西部戦線異状なし」で広く知られています。

我が国は、残酷な場面に遭遇しませんでした。そのことが、近代戦争への国民の認識を曇らせ、我が国に第二次大戦へのハードルを低くしてしまった面もあるのではないでしょうか。

世の中は、物語のように一話完結ではありません。「禍福は糾(あざな)える繩の如し」です。
「宗教的な心を失う時、歴史に学ぶ事を怠る時、その民族は滅ぶ」という古人の箴言が聞こえてきます。

「水の音−広重から千住博まで」展、我々の暮らしは勿論、人生観にまで影響を与えている「水」の美術展です。

滝の章が心に残りました。岩橋英遠の「懸泉」、人物を置くことで自然と人間の対比を際立たせています。
横山操の「滝」、ごつごつした彼の作風、特徴が良く出ています。
小野竹喬の「沖の灯」、漁火に込めた作者の万感の思いが伝わってきます。
橋本関雪の「生々流転」、山本丘人の「流転之詩」、このような主題での海外の絵画は記憶にありません。
ここにも彼我の宗教観(人生観)の違いを見てとれます。

今週の花材は、両室とも慎まし気で、密やか、秋の気配を感じさせてくれます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■ツルウメモドキ   ニシキギ科/蔓性落葉
低木/《名前の由来》蔓性で葉の形が梅に似
ていることから/花期は5〜6月頃で淡緑色
の小さな花を密集して咲かせる。花自体は目
立たず、花後の実を楽しむものとして流通。実
は秋に黄色に熟すと3つに割裂し、赤い種子
があらわれる。種子と裂皮のコントラストが綺
麗で、色の少ない冬を彩る。
■セダム〔オータムジョイ〕   ベンケイソウ科
/600種以上ある多肉植物の一種。肉厚な
葉を持ち、耐寒性・耐暑性があり乾燥にも強
い。切り花として流通する花が咲く品種も丈夫
で長く楽しめる。緑色の蕾から開花につれピン
クに色付く。
■アランダ〔ノーラブルー〕   ラン科/アラク
ニスとバンダの交配種。花が蝋質(ろうしつ)で
暑さに強く、長く楽しめる。モカラ(アラクニス・
バンダ・アスコケントルムの交配種)に比べ花
弁が細い。「ノーラブルー」は薄紫色の綺麗な
品種。
■ぶどう〔青ぶどう〕   ブドウ科/蔓性落葉
低木/世界に1万種以上あるといわれ、日本
では50〜60種が栽培される。果皮は未熟な
うちは緑色で、成長の過程で赤や黒の色素が
つくられ色付く。今回使用のイミテーションのよ
うな可愛いブドウは、観賞用に出荷されたデラ
ウェアの青実。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2841.jpg

【秘書室】
■オーニソガラム〔サンデルシー〕   ユリ科/球根植物/ヨーロッパ
〜西アジア、アフリカに約100種。長い茎頂に6片の星形の花を次々
と円形状に咲かせる。水揚げも良く蕾もしっかり咲ききり、長く楽しめ
る。春咲き品種が多い中、「サンデルシー」は夏に開花する。
■ワレモコウ   バラ科/多年草/実のように見える部分は小さな
花の集まりで、花弁が無いのが特徴。日本全土の山野に自生し、7
〜10月頃に咲く。根はタンニンを多く含み、漢方では止血剤などに用
いられる。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2842.jpg

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