HOME > 理事長室からの花だより

理事長室からの花だより

新着 30 件

一覧はこちらから

理事長室からの花だより

2014.07.04

vol.277  − 歎 (たんずる) −

日の出、日の入りに代表される天の時、日々の移ろいを記す暦、一年の半分が過ぎてしまいました。

慌ただしい鉄路での移動の日々、眼を外に向けていると、見渡す限りの青々とした田圃(たんぼ)に夕暮れが広がっていました。

雲に隠れ、西に傾いた和(やわ)らかな日差し、田圃を横から照らしています。
早苗の緑に反射して表面が黄金色に輝いています。緑と黄金色(こがねいろ)の対比、華やかななかに哀しみを堪(た)えているような風景です。

列車の動きにまかせて空をみていると、太陽は山陰に落ち、空を縹色(はなだいろ)に染めています。所々に浮かんでいる豊旗雲(とよはたぐも)が茜色に輝いています。
寂寥感(せきりょうかん)を形にするとこんな風になるのではと思わせる景色です。

夕暮れをじっくりみたのは何時(いつ)以来でしょうか。
ゆとりのない日々を過ごしている己(おのれ)に愕然とします。

他日、闇が訪れる直前の鉄路からの風景に、一時、心を任せていました。車軸を流すような夕立を潜(くぐ)り抜けると、薄墨を刷毛で刷いたような鼠色に浮かぶ、雨降りしきる田園です。

天空の微かな残り陽(び)、地上の景色をわずかに浮き立たせています。所々に並んで灯(とも)っている家々の灯(あかり)、江戸時代の着物、江戸褄に織り込まれた“狐の嫁入り”が脳裡を過ぎります。

         黒雲(こくうん)墨(すみ)を翻(ひるが)えして未(いま)だ山(やま)を遮(さえぎ)らず
         白雨(はくう)球(たま)を跳(おど)らせて乱れて船(ふね)に入(い)る
         地(ち)を巻(ま)き風(かぜ)来(きた)って忽(たちま)ち吹(ふ)き散(さん)ず
         望湖(ぼうこ)楼下(ろうか)水天(すいてん)の如(ごと)し
                                                       蘇軾(そしょく)

船を列車の窓に、湖面を田圃に置きかえれば、眼前の風景はこの詩そのものです。
静と動、黒い雲、白い雨、青い空という色の対比と変化、躍動感のある移り変わりが印象に残ります。

欧米のメディアは、このところ、100年前の第一次世界大戦、70年前の第二次世界大戦でのノルマンディー上陸作戦を取り上げています。
我々日本人にとっては、2011年の3月11日は永く語り継がれていく日となっていく筈です。2011年の50年前、1961年(昭和36年)、どんな歴史が記されたのでしょうか。

我々の世代では、米国大統領アイゼンハワーの退任演説、ケネディ大統領の就任演説、ガガーリンによる人類初の有人衛星が記憶に残っています。
100年前(1911年、明治44年)、アムンゼンが南極点に到達しています。中国では辛亥(しんがい)革命が始まり、清王朝が崩壊する切っ掛けになっています。

時の移ろいの速さ、「後の(之)今を視(み)ること、亦由(なお)、今の(之)昔を視るがごとし」(王義之)、
「後世から今日を見れば、今日から往昔を見る」と同様です。
この年齢になると実感として理解できます。

人生、このように絶えざる嘆惜(たんせき)のうちに過ぎてゆくのです。

色彩の陶磁器を代表する板谷波山(はざん)と藤本能道(よしみち)展に足を運びました。
   《板谷波山》(vol.36 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=60
2人が極めようとしたのは、ともすれば鮮烈過ぎる色彩の輝きをどう宥(なだ)めようとした道だったのではないかと思いました。

波山は、“光を包む”と表現される白い霧のような技法です。能道は触れれば手を切りそうな白の鋭さに嫋(たお)やかな色調です。各々が創り出した白を背景にして、色絵とバランスをとっているように感じます。

波山は福島と縁のある方です。
瓜生岩子(福島県喜多方市出身の社会慈善家)の媒酌で、会津坂下町の呉服商の娘と結婚しています。会津で、波山のことについて全く耳にしたことのないのが不思議な感じがします。

今週の花材は、両室とも、静謐(せいひつ)な優しさが色と形から醸し出されています。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■サンダーソニア   ユリ科/球根植物/細い茎にベル型の小さな花
が連なって咲く。オレンジ色でランプを灯したような可愛い花姿。原産地
ではクリスマス頃に咲くことから別名「クリスマスベル」という。
■ハイドランジア〔レモングリーン〕   ユキノシタ科/落葉低木/日本
のアジサイを改良した西洋アジサイ。日本原産のものに比べ、花が大き
く華やか。ドライフラワーにも適し、リースなどに利用される。
■アンスリュウム〔みどり〕   サトイモ科/常緑多年草/造花のような
光沢のある(苞)が特徴。花弁のように見える部分は苞で棒状の部分が
花序。苞を鑑賞するため非常に長く楽しめる。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2771.jpg

【秘書室】
■クルクマ〔ホワイト〕   ショウガ科/球根植物/幾
重にも重なり花弁のように見える部分は苞で、苞の間
に小さな花が咲く。暑さに強く夏でも花持ちが良い。
■シンビジュウム〔エルフィンビューティ〕   ラン科
/蘭の中でも寒さに強く、丈夫で育てやすい洋ランと
して人気。非常に花持ちが良く、開花後1〜2ヵ月鑑
賞できる。「エルフィンビューティ」はほんのりピンクが
かった白色。
■ブルースター〔マーブルホワイト〕   ガガイモ科/
多年草/《名前の由来》水色の5枚の花弁が星型に
咲くことから/ベルベットのような独特の質感の花弁
をもつ。「マーブルホワイト」は白色品種で、他にピンク
もある。
■ミスカンサス   ユリ科/白いラインの入ったしな
やかな細長い葉。耐寒性・耐陰性が強く、非常に丈夫
なグリーン。白い斑が入らない品種もある。
■ドウダンツツジ   ツツジ科/落葉低木/新緑・花
期・紅葉と一年を通して楽しめる樹木。4〜5月頃にベ
ル型の小さな白い花が咲く。生垣やシンボルツリーな
ど、庭木としても人気。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2772.jpg

▲TOPへ