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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2014.05.02

vol.268  − 舞 (まう) −

皐月(さつき)、大気は、鳥にも蝶にも命の躍動感を与えています。川洲(かわす)の林、うまく鳴くようになっている鶯(ウグイス)の鳴声が聞こえます。土手、草花の上で、蝶の群舞が繰り広げられています。

スイバ、ヒナゲシ、ホトケノザに似ているキレハヒメオドリコソウ、カラスノエンドウ、そして野生の藤、小さな花々は、萎(な)えそうになっている心まで暖めてくれます。

果樹畑、棚に揃えられた梨の花が満開です。隣では薄紅のつぼみを伴って林檎の白い花が咲き誇っています。雪の華です。
その脇には蘇芳(スオウ)の並木、白と赤紫の対比、農家の方の粋を感じます。

白い花びらが風に吹かれて道の上を転がっています。一部は用水路の水面に舞い降り、“花筏”です。

動き廻っていると、桜がこんなにもあるのかと、花が咲いて気づかされます。
ここ数十年花見をしていない身にとって、心惹かれる桜は、峠の道路沿いにある小学校の廃校跡に咲き続けている桜であり、町村合併で更地や駐車場になってしまった役所の跡地に残されている桜です。
   (vol.218 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=255
舞い散る桜、“儚さ”が伴います。

散り際の桜は、何故か思い出を誘います。
昔は、街角や庭先の桜、毛虫が寄ってくるので個人の住宅には植えませんでした。時代の変化でしょうか、あるいは毛虫が居なくなったのでしょうか。

歳を重ねるとともに桜に目が行くようになりました。
桜をどう愛(め)でていたのか、40歳、50歳台の記憶が全く飛んでしまっています。小学校入学時の満開の桜、咲いていない桜で、学生時代の旅でみた荘川桜の大樹(しょうかわざくら・岐阜県)、御母衣(みぼろ)ダム建設に伴い移植されたばかりでした。この二つの桜だけが鮮明に記憶に残っています。
仕事に夢中で心に余裕がなかったからだと、今だから分かります。

         ちる花はかずかぎりなしことごとく
         光をひきて谷にゆくかも
                            上田三四二

この歌、名歌としてこれからも永く愛されていくでしょう。作者の諦念とも死の受容とも違う、自然と自己の一体化を感じます。このような心境に達するように精進しなければ…。

桜の種類は昔と今は違いますが、何故これ程までに日本人は桜に惹かれるのでしょうか。
元々、我々の祖先は、人間も大自然のなかの一つとして山川、草木などと自分を一体化してみていました。

西欧の人々が、自然に目を向けて絵画芸術として取り上げるのは15、6世紀以降のことです。
   (vol.209 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=246
我々の祖先は、万葉集のなかで既に自然を愛でて歌を詠んでいます。

原型は神道にみてとれます。古い神社の御神体は岩や山で、神殿はありません。宗教の前提条件ともいえる教祖も居ませんし、教典もありません。

現代の科学は、我々日本人の祖先が様々な地域から吹き寄せられ、日本列島に住みついた人々の集合体である事を示しています。
そんな寄り合い世帯だからこそ、暮らしの中心に和を置いた“凹型文化”〔芳賀綏(はが・やすし)〕が生まれたのでしょう。その延長に、鍵のない襖(ふすま)や障子という仕切り、そして縁側があるような気がします。西洋や中国の凸型文化とは対照的です。

5月1日(1952年(昭和27年))、メーデー事件が発生しました。戦後の混乱を象徴する事件です。
新聞記事から大変な事が起こっているということが子供心に微(かす)か覚えています。

今週の花材、両室とも赤などの暖色が緑を背景に、自然のなかの命を象徴しているようです。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)




今週の花


【理事長室】
■グロリオサ〔ニューレッド〕   ユリ科/球根
植物/花弁が反り返り、赤く燃える炎のような
花姿。半蔓性の植物で、支柱や他の植物に絡
まって成長する。絡むために葉先が巻きヒゲに
なるのが特徴。
■キノラパン   イソマツ科/多年草/シネ
ンシス系のハイブリッドスターチス。ドライフラ
ワーに適し、綺麗に花色が残る。キノラパンは
黄色。キノシリーズは他に「キノピンキー」や
「キノシフォン」「キノバニラ」などある。
■ピンポン菊   キク科/多年草/通常の菊
と異なり、丸く可愛く咲く。花持ちの良い菊の
中でも特に長く楽しめる。
■キキョウラン   ユリ科/常緑多年草/花
期は5〜7月で薄紫色の花が咲く。花後に艶
のある紫色の実をつける。主に葉を鑑賞するも
のとして流通。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2681.jpg

【秘書室】
■アルストロメリア〔ピンクサプライズ〕
ヒガンバナ科/球根植物/一本の茎から5〜
8本の花茎を伸ばし、それぞれに花をつける。
ひとつひとつの花はユリを小さくしたような花
型。ほとんどの品種で入る花弁の斑が特徴。
「ピンクサプライズ」は白地に縁がピンクの品
種。
■ムーンライト   イソマツ科/多年草/理
事長室で使用のキノラパンと同じくシネンシス
系のハイブリッドスターチス。明紫色で長期間
楽しめ、ドライフラワーにも適す。
■スプレー菊〔ピンキーロック〕   キク科/
多年草/茎が分岐し一本に数輪の花が咲くス
プレー咲の菊。「ピンキーロック」はピンポン菊
を小さくしたような花のボンボン咲品種。
■ピンポン菊 (理事長室と同花材)
■ベアグラス   ユリ科/細く長い線状でし
なやかな葉/非常に丈夫で籠を編む材料に
使用される。ねたりカールさせたりとバリエー
ションが楽しめるグリーン。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2682.jpg

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