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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2014.03.20

vol.262  − 残 (のこす) −

沈丁花(ジンチョウゲ)の香りが周りに漂っています。
目を転ずると、紅白の梅が今を盛りと咲いています。街中、入会地(いりあいち)のような小さな一画、三椏(ミツマタ)が黄色い花を咲かせています。樹々は春が来ていることを知って、律儀に咲きだしています。

この3年で福島は、Fukushimaになってしまいました。
3年という歳月、福島に戻す作業の日々でもありました。

夜汽車の窓に映る険しい表情、たじろぎました。
自分の顔であることを認めるのに、一瞬の間(ま)、躊躇(ためら)いがありました。
久し振りに会った同級生の穏やかな顔と比べ、自分の猛々(たけだけ)しい雰囲気、窓に、“生きる”ことの意味を問い掛けている自分が居ました。

人は、視線の先を未来に向けるか、過去に置くか、古人が様々に語っています。ともすれば、過去は今より不便、暗い、悪い、一方、未来は、進歩する、明るい、善い、と捉える風潮がないではありません。

本当にそうでしょうか。未来ではなく、過去をみつめて、そこから学び、それを未来に繋いでいく営みも、不屈の闘志で未来を掴み取っていくのと同じ位、困難ではあるが大切なのでは…。

惨禍が大きければ大きい程、復興や改革という言葉は、勇ましく響きます。
只、従来の枠を組み換える時は、その枠の中で仕事をして糧を得ている世間の人々、組織の安定への配慮も必要です。

「老いたる馬は道を忘れず」(管仲「韓非子 説林上」) という箴言(しんげん)もあります。その塩梅(あんばい)こそが、老人の出番です。
「人間は歳をとって初めて若いころに何が起きていたかを知る」(ゲーテ)、私の年代の人間だからこそ、身につけた知恵があります。今、次の世代の為に、我々が出来る事をすべきです。

“忘れないこと”と“希望”は矛盾するものではありません。
これを結びつけるのが今を生きている老人の責務であり、知恵ではないでしょうか。

人間は、生を享(う)けて以来、生と死の間を、死に向かって歩き続けています。
原発事故は、福島に生きる人々の人生を、道半(なか)ばで、苦難に満ちたものにしてしまいました。しかし、どんなに苦しくても敢然と生き抜いていかなければなりません。この時期、“怒り”は何も生み出しません。

現実を受け止めて、立ち向かっているその姿をみて、他の人間(ヒト)は共感を覚えて、一肌脱ごうと考えるのです。

そんななか、支援する側の人々の、徒労感、疲弊感が目立ちます。
半年、1年、2年、3年、節目毎に、被災者の慰めや励ましを目的とした、要人や有名人の方々の来訪や催しが多くあります。
一方、公務として、支援している人々への感謝、労(ねぎら)いを含めた目配りは、見当たりません。
当然だ、と言われればそれまでです。しかし、「土は己(おのれ)を知る者の為に死す」(史記)のです。
「暗夜を憂う勿れ、只一燈を頼め」(言志四録)の心意気だけでは、長く、厳しい斗(たたか)いは続けられません。

原発の事故現場、復興支援業務にあたっている人々、毎日、黙々と、求められる役割を果たし続けていて、今日に至っています。
この方々は、自ら外に向かって言葉を発することはありません。だからと言って、何も感じていないということではないのです。

福島の悲劇を奇跡に変えるのに、最も大切なのは、人材の育成です。それを担うのは福島の若者です。
彼女・彼等に、福島の再生と復興を託すしかありません。その為には、彼女・彼等が一人前になって福島の復興に貢献出来るように、「学びの場」を作ってやらなければなりません。
老人が努力する所がそこにあります。

今週の花材は、執務室は男性の雄々(おお)しさ、秘書室は女性の嫋(たお)やかさを表現しています。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■アネモネ〔モナリザ〕  キンポウゲ科/球根植物/一茎に一花、
大輪の花を咲かせ「牡丹一華」「花一華」の別名をもつ。花弁に見
える部分はガク片の集まり。チューリップと同様に、明るいと開花し
暗いと閉じる。「モナリザ」は大輪一重咲きで花色が豊富。
■バラ〔ラナンキュラ〕   バラ科/落葉低木/花色・花形など多
岐にわたり、約2万種を超す。「ラナンキュラ」は赤地にクリームの
絞り模様が入る。花弁が丸く多弁でラナンキュラスに似た花姿。
■カーネーション   ナデシコ科/多年草/母の日の花として古く
から親しまれる。バラ・菊に並び世界的に生産量が多い。今回は紫
系の2種を使用。
■ムギ   イネ科/一年草/コムギ・オオムギ・ライムギ・カラス
ムギの4種。切り花で流通するのは主にオオムギ。ドライフラワー
にも適す。
■テマリソウ  ナデシコ科/多年草/マリモや芝を連想させる個
性的な花。ふさふさした部分は、花・雄しべ・雌しべが変化したもの。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2621.jpg

【秘書室】
■ブルースター〔ピュアブルー〕   ガガイモ科/多年草/ベル
ベットのような独特の質感の花弁をもつ。
名前の通り、淡い水色の5枚の花弁が星のように咲く。
■フリージア〔ベルサイユ〕   アヤメ科/球根植物/甘い香りを
放つ春の花。花径に8〜10輪程の花をつけ、次々と開花する。
「ベルサイユ」は白の八重咲。
■ブバルディア   アカネ科/常緑低木/4枚の花弁で十字型
に咲く筒状花。枝先に房状に次々と開花する。
■バラ〔クールウォーター〕   (理事長室と同花材)
「クールウォーター」は紫色。
■ドラセナ〔コーディラインホワイト〕   リュウゼツラン科/日本で
流通する観葉植物の代表種。「コーディラインホワイト」は青葉。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2622.jpg

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