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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2013.05.02

vol.220  − 巡 (めぐる) −

花の香りと色彩が街を彩っています。
東京の都心、皇居や霞ヶ関の官庁街の空気を躑躅(ツツジ)の生垣や栃の木(マロニエ)の街路樹が、周りの雰囲気を嫋(たお)やかなものにしてくれています。

福島の地では、紅や白の花水木(ハナミズキ)、山法師(ヤマボウシ)が満開です。

見渡す限りの田園、その上を風が吹き渡っていました。俄(にわか)に掻き曇り、薄い雨雲が大地と天を繋いでいて、田畑を書き割ったように走っている道路が濡れていました。
壮大な景色の遙か天空には、月が真昼の青空に浮かんでいました。

鉄路からのこの“風景”、しばし視線の先は心の中に向かって時が過ぎていきました。

春は、生命(いのち)を謳歌する季節です。生き物が躍動しています。それだからこそ、命や死が身近に感じられます。
今や人口に膾炙(かいしゃ)している梶井基次郎の文章も、春という眩しい程の生命感が溢れる大気が言わせたことなのではないかと思います。

この歳になると、自分が直接、間接に影響を受けた人や著書の作者の年歳を、我が身に引き合わせてしまいます。そして、何故、そう語ったのか、著(あらわ)したかが分かるようになりました。
自然と人、人と人との関わり、あるいは自然から学んだ人生の諸相への想いは、こうして次の世代に受け継がれていくのでしょう。

         人生  代代 窮(きわ)まり已(や)むことなく
         江月  年年  祗(た)だ相(あ)い似たり
         知らず  江月  何人(なんびと)をか待つ
         但(た)だ見る  長江  流水を送るを
                                  張若虚(ちょうじゃくきょ)

人は、世代が移ってゆきますが、大河に輝く月は毎年、毎日、同じ位置、同じ姿でそこにあるのです。
そこに、人の命の儚さと悠久たる自然の対比をみることができます。

邯鄲一炊(かんたんいっすい)の人の一生、無限の自然にも四季の巡りがあるように、人にも一度きりの四季があります(vol.170 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=204)。
だからこそ、「地位や年齢とともに求められる役割は変わる」と、自らに言い聞かせ、弟子達に説いてきました。 (vol.32 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=52
   (vol.155 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=188
   (vol.174 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=208
意識して、求められる役割を演じてきたここまでの自分、色々な事に始末をつけなくてはならない今、この歳になって初めて、すべてが曖昧(あいまい)だった若い時が懐かしくなります。
曖昧で良かった時代に戻ることは決して叶わないと分かっているからそう思うのです。

4月30日(1883)、印象派の父とされているエドゥアール・マネが亡くなっています(享年51歳)。
学期末の試験の対策で「モネがマネした」と、紛らわしい画家の名前と歴史上の位置を覚えたものです。
数々の傑作が知られていますが、最晩年の、花を描いた作品、ガラスの器と紫の花が彼の心象風景を伝えて余りあります。

5月1日(1904)、チェコの音楽家ドヴォルザークが62歳で没しています。彼の数々の哀愁を帯びた旋律、真に“メロディーメーカー”です。

今週の花材は、両部屋とも赤紫による春の嫋やかさの演出です。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■木苺   バラ科/半落葉低木/原産:日本
/ラズベリーやブラックベリー等の総称で木に
実る苺。春に苺に似た小さな白い花が咲く。ヤ
ツデのような切れ込みの深い葉が特徴。
■アルストロメリア〔プリマドンナ〕   ヒガンバ
ナ科/球根植物/原産:南アメリカ/一本の茎
から5〜8本の花茎を伸ばし、多数の花が咲く。
一つ一つの花はユリを小さくしたような形で、花
弁に斑が入るのが特徴。
■ライスフラワー   キク科/常緑低木/名前
の通り米粒のような小さな花を房状に咲かせ
る。花期は4〜6月頃でドライフラワーにも適
す。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2201.jpg

【秘書室】
■エピデンドラム〔ピンクシャンデリア〕   ラン科/原産:中南米/
細く伸びた茎の先端に小さな花が密集して開花する。次々と開花
し、切り花でも長期間楽しめる。
■トリフォリウム〔ツインキャンドル〕   マメ科/クローバーの仲間。
モコモコした赤色でとがった可愛い花。炎のような花姿と枝が分岐し
2つ花が咲くことから「ツインキャンドル」。
■カーネーション   ナデシコ科/多年草/原産 地中海沿岸/江
戸時代にオランダから渡来。母の日の花として古くから親しまれる。
■麦   イネ科/一年草/原産:西南アジア/コムギ・オオムギ・
ライムギ・カラスムギの4種。切り花として流通するのは主にオオム
ギ。
■ナルコラン   ユリ科/多年草/原産:日本/葉の縁に白い斑
の入った涼しげなグリーン。4〜5月頃にスズランのような花が咲く。
■テマリソウ   ナデシコ科/多年草/原産:ヨーロッパ東南部/
マリモや芝を連想させる独特の花姿。ふさふさした部分は花・雄し
べ・雌しべが変化したもの。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2202.jpg

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