HOME > 理事長室からの花だより

理事長室からの花だより

新着 30 件

一覧はこちらから

理事長室からの花だより

2013.04.26

vol.219  − 究 (きわめる) −

桃の花に雪、会津や山間部では桜に雪、風流とばかり言っていられない気候です。
農家の方は、授粉が出来るか心配しています。

福島の今年は、桜、梅、そして桃、咲く時期が一緒でした。文字通り、“三春”です。賑やかな連翹(レンギョウ)、散りかかった辛夷(コブシ)が、この景色に色を添えて、逝く春が近いことを教えてくれています。

この春も、桜は、何事もなかったように咲いて、散っていきました。
照り輝いてみえる青空の下での桜は、本来、華やかです。今年の姿、物悲しくみえました。

これからは、桜を散らした風が主役です。乾いた風が爽やかさを運んできます。

役所の跡地に2本の桜、駐車場として周りが舗装されてしまったせいか、今年は明らかに樹勢が衰えてしまっていました。
そんな中、世間に何があっても、季節は巡り来て、そして去っていきます。
只、その季節がみせてくれる風景は、去年のそれと全く同じというわけではありません。

新幹線の車窓から、高校時代、通学で利用していた鉄路が目に入ります。
通る度に、目で追ってしまいます。その線路、幹線から枝分かれして、2本の線で緩やかなカーブを描き、林の中に消えていきます。この風景は、裡(うち)なる心を郷愁に誘(いざな)ってくれます。

         青春はみづきの下をかよふ風
         あるいは遠い線路のかがやき
                          高野公彦

長い間診ている患者さんの御主人から、アイロンで足袋(たび)に土踏まずをつける技の話を聞きました。
診療に出向き、御主人にズボン(今は死語?)にアイロンを掛けるコツを聞いた時でした。

足袋を毎日履いている芸妓(げいぎ、〔俗称:芸者〕)さんは、アイロンで足袋に土踏まずをつけてあるかどうか、履くときすぐ分かる。足袋に土踏まずがつけてあると、履き易いのだとのことです。
家では、和服で過ごしている身なので、この事がすぐ理解できます。今は、そのような技術の伝承も殆ど絶えてしまったようです。

足袋屋さんが、修業時代の御主人に、足袋に土踏まずをつける事を教えてくれました。
努力を重ねてアイロンで土踏まずをつけることが出来るようになり、御主人がその足袋を芸妓置屋(おきや)の女将(おかみ)さんのところに持っていきました。すると、「休みの日においしい物をお食べ」と、当時では“大金(たいきん)”を戴いたとのことです。その遣り取り、一幅の絵をみるようです。

この話は、技術を身につけることの大変さ、その技術を認めてくれる人が存在することの大切さ、そして、その技術の伝承を継いでいく営(いとな)みを支える世間の懐(ふところ)の深さ、この3者が揃って初めて、技や文化が、次の世代に継いでいくことができることを教えてくれています。

         道の上に残らむ跡はありもあらずも
         われ虔(つつし)みてわが道ゆかむ
                             佐佐木信綱

4月23日(1616)、シェークスピアが亡くなっています。52歳の生涯です。

今週の花材は、両部屋とも大地を吹き渡る爽やかな風を感じさせます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■万作(マンサク)   マンサク科/落葉小高木/原
産:日本/《名前の由来》早春に他の花に先駆けて開
花することから「まず咲く」が転じて「まんさく」/早春に
葉に先だって黄色い細くねじれた花弁の花が咲く。
(花期の2月に vol.207で同花材使用)
■OHユリ〔シベリア〕   ユリ科/球根植物/優雅な
花姿と芳香が特徴のオリエンタルハイブリッド(OH)。
ユリの中で一番知名度の高い「カサブランカ」も同種。
「シベリア」は純白で人気の品種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2191.jpg

【秘書室】
■カンパニュラ〔チャイムスカイブルー)   キキョウ科/多
年草/原産:ヨーロッパ/《名前の由来》ラテン語の“小さ
な鐘”を意味する語から/世界に約300種あり、日本でも
4種が自生。風鈴や鐘のような可愛らしい花が連なって咲
く。花姿から別名「釣鐘草」(ツリガネソウ)とも呼ばれる。
■デルフィニュウム〔プラチナブルー〕   キンポウゲ科/
多年草/原産:ヨーロッパ/ブルー系の花色が豊富で、ヨ
ーロッパを中心に約250種。シネンシス系、ベラドンナ系、
ジャイアント系の3統系に分類される。「プラチナブルー」は
枝が分岐し可憐な印象のシネンシス系。
■ピンポン菊   キク科/多年草/原産:オランダ/ピン
ポン玉のように真ん丸に咲く。花持ちの良い菊の中でも特
に長く鑑賞できる。一般的な菊と異なり、仏用に限らず広く
利用できる。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2192.jpg

▲TOPへ