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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2013.02.01

vol.207  − 哭 (なく) −

透き通った朝陽の下、都心を歩き廻っていると、あちらこちらで、生垣の山茶花(サザンカ)が、今を盛りと咲いているのが目につきます。
この時季の“赤”は、澄み切った青空の下で輝いてみえ、こちらの心まで、一時、軽くしてくれます。

この時季、関東平野の富士を従えた冬の赤々とした夕陽は絶景です。以前経験した大阪湾の夕陽と好一対です (vol.88 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=114)。
平野を縁取る嶺々が、夕陽で稜線から光を発していて、山容の縁(ふち)が影絵のように際立っています。

この大雪で、木々とせせらぎ、そして雪に囲まれた夜の闇、静寂が辺りを支配しています。
今がもっとも静寂と闇が深いような気がします。

関東平野は雲一つない冬晴れが続きます。
以前にも記しましたが(vol.108 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=136)、
水利が確立していない昔、武蔵の地は人が住むには不便な土地だった筈です。近代技術の存在があって初めて日常生活が成立する地勢です。

この冬は、都心も寒さが厳しく、応えます。そんな中、僧侶が托鉢(たくはつ)をしていました。
微動だにせず、そこだけ、喧騒の中、静寂と沈黙が確かに存在していました。

         托鉢僧鉢を捧げて氷りけり
                        野田翠

札幌への日帰りの旅、北海道立近代美術館に足を運びました。
エコール・ド・パリ(パリ派)の企画展、パスキンに代表されるぼんやりとした、不安、憂鬱、そして孤愁を漂わせている“さすらい人”の雰囲気が絵画から漂っていました。

東京への最終便での機中、南北に延びている太平洋岸を縁(ふち)取っている光の帯が、長い距離、途切れているのがみえました。その間に小さな光の島がありました。
内陸部には広大な闇の拡がり、原発事故現場とそれに伴う避難地域だとすぐ気付きました。

“闇の海”から、香月泰男のシベリアシリーズに描かれている抑留者の慟哭が聞こえてくるようでした。
ここにあるのは、闇と共に、声にならない慟哭(どうこく)の沈黙です。
この光景は写真に残し、後世に伝えなければならないと思いました。後世へのメッセージに値する光景です。
札幌でみたエコール・ド・パリの世情に画家が感じていた気持ちとこの光景が同調して、着陸するまで色々な思いが胸を過ぎりました。

盪鈎ね困髪田元宋の生誕100年展へ足を運びました。同じ年に生まれ、長寿を全うした2人です。
前者の祈りの画としか表現できない「聖家族」、後者の鮮やかな赤による静謐(せいひつ)な風景画の「奥入瀬(秋)」は圧巻です。
私自身は、盪鈎ね困痢崔羹」で描かれている金の月で照らされて輝いている銀の夜道、すべてを受け入れた人の“人生の道”のように映ります。霧に煙(けぶ)った奥田の赤、そして仔牛に生命の神々しさを感じさせる山口華楊の「生」が心に残りました。そこには済み切った諦念(ていねん)があります。

今週の花材は、執務室はマンサクと花器の茶色が穏やかさを、秘書室は囲炉裏(いろり)の榾火(ほだび)のような暖かさを感じさせてくれます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■万作(マンサク)   マンサク科/落葉小高木/原産:
日本/《名前の由来》早春に他の花にさきがけて開花す
ることから「まず咲く」が転じて「まんさく」/早春に葉に先
だって黄色い細くねじれた花弁の花が咲く。葉姿も綺麗で
花期以外にも枝ものとして流通。
(昨年10月同花材使用
http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=230
■スカシユリ〔セラダ〕   ユリ科/球根植物/別名「ア
ジアンティックハイブリッド」/《名前の由来》花びらの先端
が広く付け根部分が細くなり、透けることから/カサブラン
カ等の大輪ユリ(オリエンタルハイブリッド)に比べ、花が
小さく香りも無い。「セラダ」は濃い黄色の品種。
■キキョウラン   ユリ科/常緑多年草/原産:日本〜
インド/《名前の由来》桔梗に似た花色と、葉が蘭の葉に
似ていることから/花期は5〜7月で薄紫色の花が咲く。
花後に艶のある紫色の実をつける。主に葉を鑑賞するも
のとして流通。
■ドラセナ〔コーディラインレッド〕   リュウゼツラン科/
常緑低木/ドラセナ類は日本で流通する観葉植物の代
表種。「コーディラインレッド」は正式にはドラセナではなく
コルジリネ。以前ドラセナ属に分類されていたことから“ド
ラセナ”の名で流通。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2071.jpg

【秘書室】
■アネモネ〔モナリザ〕   キンポウゲ科/球根植物/原産:地
中海沿岸/《名前の由来》ギリシャ語ので“風”を意味する“ane
mone”から/一茎に一花、大輪の花を咲かせ、別名「牡丹一
華」(ボタンイチゲ)と呼ばれる。チューリップ同様に明るいと開花
し、暗いと閉じる。種子が風に乗って遠くまで運ばれることや風に
揺れるアネモネのイメージから、英名では“wind flower”と呼ば
れる
■カーネーション〔アイスティ〕   ナデシコ科/多年草/原産:
地中海沿岸/江戸時代にオランダから渡来。パステル〜ビビッ
ド、覆輪(ふくりん)や絞り模様など、花色がとても豊富。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2072.jpg

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