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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2013.01.11

vol.204  − 佇 (たたずまい ) −

朝焼けの空の下(もと)、路傍(みちばた)や遠くの山の稜線上に屹立(きつりつ)している樹々(きぎ)の幹、葉を落とした枝が葉脈(ようみゃく)のように鮮明な姿を、橙(だいだい)色の空を背景にして影絵のような景色を作っています。
この景色をみると、いつも静岡県立美術館で観た中村岳陵の「残照」が脳裡(のうり)に浮かびます。
     (vol.8 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=14
     (vol.50 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=75

日の出が最も遅い時期は過ぎました。
これからは、日の出、日没とも日一日と長くなり、春が近づいていきます。
その前の寒さも、もう少しの辛抱です。

         人心  新歳月
         春意  旧乾坤(けんこん)
         煙(かすみ)は碧(みどり)にして  柳は色を回(かえ)し
         焼(しょう)は青くして  草は魂を返す
         東風  厚薄(こうはく)なく
         例に随いて  衡門(こうもん)に到る
                                         真山民(しんざんみん)

自然は万人に平等です。

風土とか気質(かたぎ)を考える出来事を経験しました。
新幹線が故障でダイヤが乱れ、停車しない駅で停まり、ドアが開きました。車内や構内のアナウンスで、「都合により少し停車します。急ぐ方は○番線に入る列車に乗って下さい」旨を放送していました。
せっかちな私は、デッキに立って終着駅に着くのを待っていました。そこに小柄な、年老いた御婦人が不安気に立っていました。婦人は、ドアが開いた時、降りました。

誰も降りないのをみて戻ってきて、怖ず怖ず(おずおず)と私に「ここは東京駅ですか」と聞きました。
私が事情を説明して、「早く行くなら前のホームに入ってくる列車に乗ればすぐに着きますよ」と話したところ、「間違うと困るからこのまま乗っています」との答でした。
私は、停車時間がはっきりしないため、入ってきた列車に移りました。そしたら、その女性も一緒に随(つ)いてきました。到着ホームが元々の列車と向かい合わせのホームだったので、迎えの人が居ても大丈夫と判断してそのままにしました。

昔の記憶は、哀しいものであっても、楽しいものであっても、尚新鮮で、温かく、懐かしく感じられます。
このやり取りの間、若い時、山形県の置賜地方や福島県の南会津地方で出会った患者さん達を思い出していました。皆、躊躇(ためら)いがち、慎まし気、他人を包み込むような温かさと美しさが、表情や体全体から感じられたものです。同じ雰囲気を、この老婦人にも感じました。

人は皆一人一人、それぞれの人生に応じて個性を持っています。
しかし、醸(かも)しだす雰囲気は同じなのです。自分に課せられた人生全てを受け入れ、その運命の音を甘受して、尚、淡々と生きる姿は、戦後の世代が失った何かです。

このような人々の佇まいを作り、育んでいるのは風土なのではないのかに思い至りました。
僅(わず)か5、6分、この出会いで、いい時間を過ごさせてもらいました。

今週の花材は、執務室は菊、秘書室は水仙が主役です。色の組合せ、佇(たたず)まいが清冽です。
水仙の香りが部屋中に満ちて、春が遠くないことを教えてくれます。
それにしても、この時季の水仙は高過ぎます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■梅〔ズバイ〕   バラ科/落葉高木/原産:中国/奈良時代に渡来。万葉
集では100首以上詠われ、古くから親しみのある樹。「ズバイ」は一年生の若
く真っ直ぐな細枝のこと。
■グロリオサ〔ロスチャイルディアナ〕   ユリ科/球根植物/《名前の由来》
「栄光」や「見事な」を意味するラテン語の“グラリオラス”から/花弁が反り返
り、赤く燃え上がる炎のような姿が特徴。半蔓性の植物で、支柱や他の植物に
絡んで成長する。絡むために葉先は巻きヒゲになっている。
■菊〔アナスタシア〕   キク科/多年草/花弁が花火のように広がった大き
な菊。細く繊細な花弁が特徴。今回は白・黄色・グリーンの3色を使用。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2041.jpg

【秘書室】
■スイセン〔日本水仙・ニホンズイセン〕   ヒガンバナ科/球根植
物/原産:地中海沿岸/とても良い香りを放つ春の花。早咲き種、
遅咲き種などあり、12〜4月頃まで楽しめる。「日本水仙」は早咲き
種で、12月頃から開花。
■アンスリュウム   サトイモ科/常緑多年草/原産:熱帯アメリ
カ/《名前の由来》ギリシャ語の花(anthos)と尾(oura)に由来/
光沢があり造花と見間違うような花。花弁のように見える部分は苞
で、棒状の部分が花。
■ラナンキュラス〔コニャック〕   キンポウゲ科/球根植物/原産:
西アジア・ヨーロッパ/《名前の由来》ラテン語の蛙(ラナ)に由来。
蛙がたくさん生息する湿地に自生することから/幾重にも重なるや
わらかい花弁が特徴。「コニャック」は真っ赤の品種。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2042.jpg

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