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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2012.12.14

vol.201  − 続 (つづける) −

この時季、大気は乾き、強風の後の朝陽は、万物を赤銅色に染め上げます。
セピア色に染まっている風景は、通勤を心穏やかなものにしてくれます。構内の樹々や校舎も、自らが発光体のように輝いています。
朝焼けに照らされている建物のなか、嶺の頂きから顔を出して昇っていく大きな太陽をみて、朝陽(あさひ)を浴びながら、テーブルの上に整然と並べられている書類や手紙の片付け作業は、この時季の楽しみの一つです。

新蕎麦の季節です。蕎麦の産地である会津で、1年の時の巡りを確認し、自然の恵みを堪能しての帰路、夜空を見上げると、満月のもと、降り注ぐように星が輝いています。
車の移動に合わせ星座のみえ方も変化し、見飽きることがありません。

この1年間、与えられた役割に没頭して過ごしてきました。
他の事には充分手が廻らず、心に余裕もありませんでした。只、没頭すると良いこともあります。それは、頭の中が空っぽになることです。その結果、今までぼんやりとしかみえなかったこともみえてきます。
一つの事に没頭すると、夢の中でも仕事をして、その中で解答を見つけるということは、誰でも一、二度は経験することです。今も同じです。必死に取り組んでいると、周りの動きや支援が形になってみえてきます。
その結果、周りへの感謝の念もひとりでに湧いてきます。真に「天は自ら助くるものを助く」です。

受験で学んだ古典、これらの文章が、今、全く異なった様相をもって迫って来ます。
医師で歌人でもあった上田三四二は、大病での手術後、「徒然草」に強く惹かれたようです。その事もあり、時々繙(ひもと)いています。今、読み返してみると胸を突かれる文章が目に飛び込んできます。
若輩の受験者には、作者にニヒルで辛辣(しんらつ)な批評家という印象しか持てませんでした。今は、人間の無常感を余す所無く提示している哲学者です。

刹那覚えずといへども、これを運びて止まざれば、命を終ふる期(ご)、忽(たちま)ちに到る。
                                                        第108段

吾が生(しゃう)既に蹉蛇(さだ)たり。諸縁を放下(ほうげ)すべき時なり。
                                                        第112段

前者は、時の苛烈さに対する警句で、「寸陰受惜」、後者は俗事に感(かま)けることの愚かさに対する警句で、「諸縁放下」と解するようです。
これらもまた、年を取らないと会得できないこと、「持ち分の時」を失って初めて分かることです。

先日、勤続30年の職員に対する表彰式がありました。
30年という長きに渡って勤め続けられた方々に、只々、敬意あるのみです。その間の、一人一人の掛け替えのない人生と生活、その一人一人に心の裡(うち)には多くのドラマがあった筈です。何事もないこと、変わらないこと、あるいは続けることの難しさを考えると、これらの職員の方々は“人生の達人”です。
この歳になると、平凡だけど、変わらないことが最も大切なことだと思い知らされます。

今週の花材は、執務室、秘書室ともに白と緑が織り成す清冽さが印象的です。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■雲竜柳(ウンリュウヤナギ)   ヤナギ科/落葉高木/原
産:中国/《名前の由来》竜が昇っていくような曲線を描くこと
から/日本でも広く栽培され、庭木や生け花に利用。今回は白
く塗ったものを使用。
■ピンポン菊   キク科/多年草/原産:オランダ/ピンポン
玉のように咲く可愛い菊。花持ちの良い菊の中でも特に長く楽
しめる。
■ユウギリソウ〔バイオレッド〕   キキョウ科/多年草/原
産:南ヨーロッパ/小さな花が密集して、ひとつの大きな花のよ
うに見える。ひとつひとつの花は筒状で、雄しべが長く突き出
る。
■ワックスフラワー〔マヤピンク〕   フトモモ科/常緑低木/
原産:オーストラリア/《名前の由来》蝋細工のような花をつけ
ることから/房状に小さな花を咲かせ、花弁は分厚く鈍い光沢
を放つ。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2011.jpg

【秘書室】
■カラー〔ブラックマジック〕   サトイモ科/球根植物/《名
前の由来》花姿がYシャツの襟(カラー)に似ていることから/
メガホン状の花弁のように見える部分は苞で、その中に棒状
の花序をもつ。
■アンスリュウム〔みどり〕   サトイモ科/常緑多年草/光
沢がありロウ細工で出来ているかのような花。花弁のように
見える部分は苞で、棒状の部分が花序。
■キキョウラン   ユリ科/常緑多年草/原産:日本〜イン
ド/《名前の由来》花色が桔梗に、葉が蘭の葉に似ているこ
とから/花期は5〜7月頃で薄紫色の花が咲く。花後に艶の
ある紫色の実をつける。葉が美しく、葉を鑑賞するものとして
流通。
■コニファー   ヒノキ科/庭木としても室内のインテリアグ
リーンとしても人気の針葉樹。イルミネーション等をつけ、クリ
スマスツリーにもよく利用される。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/2012.jpg

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