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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2012.10.19

vol.193  − 背 (せな) −

秋、朝晩にみる山々の背後に広がる空の色は、刻々とその色を変え、暫し時を忘れて見入ってしまいます。
夜明けのスカイブルーには「祈り」のような透明感を感じます。
夕方の大学、ロビーに差し込む黄金色の夕陽が一隅の椅子を照らし、そこに温もりがあるようにみえます。
そして逢魔が時(おうまがとき)、万物を安らぎへと誘(いざな)う沈黙の気が、辺りを覆っています。
この時、人間を一時、祈りの人に変えます。

通勤路の堤と庭先に曼珠沙華をみつけました。健気に一列に並んで、日陰に咲いていました。
子供の頃は、彼岸の頃に咲くせいか、あるいは墓地に咲くことが多いからか、嫌われていたように記憶しています。 (vol.48 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=73
世情の変化か、強烈な原色の赤と咲きようのせいか、今は“華やぎ”と捉えられ、室内で切り花としても好まれているようです。

         秋のかぜ咲きゐたれば
         遠(をち)かたの薄(すすき)のなかに
         曼珠沙華赤し
                              斎藤茂吉

15年前に手術をした患者さんが受診してくれました。
久し振りに白衣に袖を通して外来に向かう時、心に鎧を着せると、独りでに背筋が伸びていました。
このところ、俯(うつむ)き加減に歩くことが多く、自分の後ろ姿に後ろめたい気がしていました。
背中は、その人間の人生の航跡です。哀しみ、喜び、勁さ(つよさ)、温かさが詰まっていると思い込んでいるだけに、患者さんの訪問に感謝です。
立原正秋も随筆のなかで似たようなことを言っていたように記憶しています。

すぐそこにいる人々との関(かか)わりの中で終わってしまう人生、人生は、面白いわけでも楽しくもありません。しかし、人生の意味は、側にいる人々との関わりの中に喜びや明日を見出すことにあります。
何故なら、何のかかわりもない人では、「ドアに向かって、『押されたり、引かれたり回されたりするだけが人生ではない』と言ってみたところで、分かってもらえない」ことと同じだからです。
人間は、独りでは生きてゆけないし、誰かを仲間と思わずには生きてゆけないのです。

深夜、机での仕事を終え、縁側に佇んだり座って冷気を纏った秋の庭を暫し眺める、この時季の楽しみの一つです。紺碧の夜空に無数の星、川のせせらぎが静かさを一層際立たせています。

         つと過ぎぬすぎて声なし夜の風
         いまか静かに木の葉ちるらむ
                            若山牧水

外来から戻る渡り廊下から、救急車が一台、所在無げに停まっていました。原発事故の後、全国から駆け付けてくれた救急車の群れが、今は幻のように思えます。
人間には努力してもどうにもならないことがあり、それが天命だと思っています。理不尽だと思えても、踏み留まり、立ち向かえるか、ここが人生の別れ道のような気がします。

人の気持ちも季節も容赦なく変わります。変わらないのは自然だけです。そんな事をこの歳になり悟りました。それだけに、人や花を愛しく感じます。

今週の花材は、執務室は秋の華やかさを、秘書室は可愛さを表現しています。



(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■ドラゴン柳   ヤナギ科/雲竜柳(ウンリュ
ウヤナギ)の変種で、茎が黄色〜赤茶色で枝
振りも変化に富む。くねくねした枝の形を利用
して、ダイナミックに活ける他、丸めたり。絡め
たりと形を変えて利用できる。
■ストレリチア   バショウ科/極楽鳥のよう
に華やかな花が特徴(別名:極楽鳥花)。花茎
に対し直角に近い、クチバシのような尖った苞
をもつ。鮮やかなオレンジ色の3枚のガクと1
枚の青い花弁の花が咲く。
■アンスリュウム〔チョコ〕   サトイモ科/常
緑多年草/ツヤツヤした造花と見間違うような
花。花弁のように見える部分は苞で、棒状の
部分が花。
■ケイトウ〔ウモウケイトウ〕   ヒユ科/一年
草/《名前の由来》鶏の鶏冠に似た花姿から
“鶏頭”/「ウモウケイトウ」は羽毛のような花
序を持つ。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1931.jpg

【秘書室】
■デンファレ〔アンナ〕   ラン科/正式名称:デンドロビュウム・フ
ァレノプシス/《名前の由来》花の形が胡蝶蘭(ファレノプシス)に似
ていることから、略名「デンファレ」で流通/南国の花なので、暑さ
にも強く花持ちが良い。
■ピンポン菊   キク科/多年草/ピンポン玉のような真ん丸に
咲く菊。日持ちのよい菊の中でも特に長く楽しめる。
■コキア   アカザ科/一年草/枝を束ねてほうきに利用してい
たことから“ほうきの木”とも呼ばれる。夏は爽やかなグリーンで秋
に真っ赤に紅葉する。実を加工したものは“畑のキャビア”とも形容
される「とんぶり」。
■ヘンリーヅタ   ブドウ科/蔓性植物/葉色が綺麗な強健な性
質の蔓植物。生育が早く、グランドカバーやハンギングに適す。今
回は真っ赤に紅葉したものを使用。
■ドラセナ〔コーディラインレッド〕   リュウゼツラン科/常緑低木
/丈夫で日持ちの良いグリーン。「コーディラインレッド」は赤色葉。
■ストレリチア(葉)   (理事長室と同花材の葉)
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1932.jpg

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