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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2012.01.27

vol.158  − 感懐 −

この冬初めて、まとまった雪が降りました。
湿った重い雪で、生垣や樹木の枝が折れそうです。例年より早い“春の雪”です。

この時季、夜半(よわ)や暁での月の美しさに魅せられています。冬の透き通った大気のせいで、その冷涼とした美しさは際立っています。
毎年、毎日、毎晩同じ風景に出会っていた筈なのに、心に残るということはありませんでした。目先、足下ばかりに目が行っていた証拠です。真に、心焉(ここ)に在らざれば視れども見えず、の箴言(しんげん)が聞こえてきそうです。

明け方、東の薄紅(うすくれない)の空、様々な青の天空、そして西の黒い山々が一つの小宇宙を形成しています。
夕暮れ時には、西に焼けるような朱を背景にして吾妻の嶺々が聳(そび)え立ち、盆地全体がセピア色に染まります。吾妻の嶺々は、さながら影絵のようです。

雪は極端に降らなくなりましたが、寒気は変わりません。
しかし、寒気もこのような光景を提供してくれますから、世の中、コインの表裏です。

車中からみる冬の会津盆地、冬の休みに入っている田畑は見渡す限りの雪原でした。
西陽(にしび)を受け、雪原に描かれている風紋、自らが作り出している陰影と反射光で、広大な白いカンバスの中で細波(さざなみ)が浮き立ってみえました。
雪原には黒いカラス、青空には白鳥の群舞、観光絵葉書のように単純、明快な構図が目の前にありました。
心に残りました。

遠景には、里山の稜線に葉を落とした木々が、雪の山肌、青空、西陽を背にして枝の一本一本までも浮き立たせて、厳しい寒さの中、潔(いさぎよ)く、整然と並んでいます。

         冬木立ゆきつつ見上ぐ張り満ちし細枝の網目透くそらの青
                                           (森比左志)

先日、若い時の海外生活を想い出す体験をしました。
新幹線が発車して間もなくのことです。外国のご夫妻らしき二人連れが側に来て、切符を見せるのです。確かに同じ席でした。しかし、その切符は上越新幹線で、高崎行きでした。彼等は、少し前に発車した東北新幹線の電車に乗ってしまったのです。大宮駅で、反対側のホームから目的の列車に乗れることが分かり、何とか事無きを得ました。短い車中での約20分でしたが、御礼にスイスチョコレートを戴きました。
自分の若かりし頃、異国の地で多くの善意を受けたことを、切なくなるほどの懐かしさで想い出しました。
お蔭で一日気分良く過ごすことが出来ました。

その後の車中、海外で見知らぬ人々の親切に助けられた時、我々日本人なら何を用意しておくといいのでしょうか。昔、そんな気の利いた御礼など考えもしていなかっただけに、スイス人の洗練された御礼の表現に考えさせられました。

今週の花材は、厳冬の中、執務室と秘書室両方とも、優雅さと優しさ、そして暖かさが感じ取れます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■行李柳(コリヤナギ)   ヤナギ科/《名前
の由来》行李(昔の物入れ)を編むのに使われ
たことに由来/弾力のあるヤナギ。古く朝鮮
から渡来し、湿地帯に群生。行李柳に似た日
本の自生種はイヌコリヤナギ。イヌコリヤナギ
は冬芽が小豆色をしていることから小豆柳(ア
ズキヤナギ)の名で流通。
■ユリ〔カルーソ〕   ユリ科/球根植物/オ
リエンタルハイブリッド種のユリ。大きく優雅な
花姿と芳香が特徴。「カルーソ」は淡いピンク
で上品な色。
■スプレー菊〔ダンテ〕   キク科/多年草/
本来は枝分かれし一本に数個の花が咲くスプ
レー菊を、一枝一花にしたもの。「ダンテ」は淡
いピンク色のデコラ咲き品種。他に「ダンテイエ
ロー」、「ダンテパープル」もある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1581.jpg
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【秘書室】
■モカラ〔ウォーターオーメー〕   ラン科/原
産:東南アジア/バンダ、アラクニス、アスコケ
ントルムの3種類の蘭を交配した人工種。南
国らしい鮮やかな花色の品種が豊富。蘭なの
で花持ちがよく、長期間楽しめる。
■キキョウラン   ユリ科/常緑多年草/原
産:日本〜インド/《名前の由来》花色が桔梗
に、葉が蘭の葉に似ていることから。花期は5
〜7月頃で、薄紫色の花が咲く。花後、艶のあ
る紫色の実を付ける。葉が美しく切り葉として
流通。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1582.jpg
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