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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2011.11.25

vol.150  − 光陰 −

晩秋から初冬にかけて、空は偉大な芸術家になります。
先日、西に傾いた太陽が、和(やわ)らかい光で影を最も長くしていた時のことです。車中からふと東をみると、山の稜線のすぐ上に、青空を背景に白磁のような大きな月が、西には雲間から朱に染まった日の丸盆のような夕陽がみえました。
月の上には真一文字に天空を裁断している飛行機雲、空を取り入れた作品の多いルネ・マグリットの絵が眼前に展開しているかのようでした。ちなみに、彼は、11月21日が誕生日です(1898)。

この景色、柿本人麻呂の「東の野にかぎろひの…」(vol.53)の歌と真逆の光景だと気付きました。
この幻想的で雄大な景色も、数分後には捉えられなくなってしまいました。こんな景色をみると、自然の造形に「畏(おそ)れ」を感じます。
   (vol.53 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=79

オソレといえば、原発事故直後に周囲の状況や気配を鑑(かんが)みて、いくつかの決断を下したときも「虞(おそ)れ」を感じました。
それは責任の重さや時の評価に対する想いだったのだと、今だから分かります。

この拙文で150回、この間、大震災で花が手に入らずに、花なしでの執筆が2回ありました。
自らに、そして周囲にも言い続けてきた「愚直なる継続」のささやかな実践です。

この花だよりを書いていて気がついたことがあります。それは、文筆表現についてです。
毎週、何かを書こうとしていると、時の移ろいに目がいきます。「美しい」とか「心が洗われる」と感じることが多くなりました。只、「美しい」、の一言で終わってしまっては、伝えたいコトやモノの核心にある何かを全く表していません。そんな表現では、読者に想像を膨らます糸口さえ与えられません。
一行の文章が、読者の心の琴線に触れて、その人の何かに思いを馳せてもらうのは相当に難しいということに気付きました。

科学的論文と違って、句読点自体が大きな意味を持ち、余韻を残すには大切であることも知りました。
文筆業を生業(なりわい)としているプロの人達の凄さが分かります。そんなことは当たり前だと言われそうですが、私はこの連載を始めて知りました。

         寂寞たる光陰  五十年
         蕭条老い去って塵縁を逐う
         他無し  竹を愛す  三更の韻
         衆と松を栽う  百丈の禅
         淡月微雲  魚  道を楽しみ
         落花芳草  鳥  天を思う
         春城日日  東風好ろし
         帰来を賦せんと欲して未だ田を買わず
                                (夏目漱石)

漱石が50歳に達しての心境、自分はこの歳で何をしていたのか、そして今、何をしているのか自問自答してしまいます。この詩を読む度に、己の出処進退(しゅっしょしんたい)を問われているようです。

今週の花材は、一際(ひときわ)、花と花器の一体感が際立っていて、冬の訪れを告げているようです。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)


今週の花


【理事長室】
■桐   ゴマノハグサ科/原産:中国/飛鳥
時代に渡来。花期は5月頃で、薄紫色の花が
咲く。材は日本の樹木の中でもっとも軽い。湿
度の通過性や熱伝導率が小さく、箪笥や美術
品などを納める箱に利用。菊とともに皇室の紋
章などに用いられ高貴な植物として扱われ
る。福島県の会津桐、岩手県の南部桐が有
名。
■キングプロテア   ヤマモガシ科/原産:
南アフリカ/直径30cmにもなる大きな花で、
“花の王様”とも呼ばれる。個性的な花姿と圧
倒的な存在感が特徴。原産地南アフリカ共和
国の国花。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1501.jpg
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【秘書室】
■モカラ   ラン科/原産:東南アジア/バンダ、ア
ラクニス、アスコケントルムの3種類の蘭を交配した人
工種。南国らしい鮮やかな花色の品種が豊富。今回
はシックな花色の「チャクワンオレンジ」と「ゴールドナ
ゲット」の2色を使用。
■キキョウラン   ユリ科/常緑多年草/原産:日本
〜インド/《名前の由来》花色が桔梗に、葉が蘭に似
ていることから。花期は5〜7月で、薄紫色の花が咲
く。花後は艶のある紫色の実をつける。葉が美しく、切
り葉として流通。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1502.jpg
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