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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2011.09.02

vol.138  − 夕映え −

起床時の薄明、桜の黄葉、秋が音もなく足元まで来ています。

香港に行ってきました。朝から夜まで、整形外科医として充実の一週間でした。

香港は、南国でした。夜の街はシャンデリア、室内は冷蔵庫のようです。
騒々しい程の活気が羨ましく感じました。
路肩や街中には、木々の緑と海の青を背景に、百日紅(サルスベリ)、アカシア、ブーゲンビリア、ハイビスカス、夾竹桃(キョウチクトウ)、そして黄色い木の花(名前は不明)が輝いていました。

繁華街とは反対側の山麓にあるホテルからは、海が眼前にみえました。
湾の山端に夕陽が落ちていく時、海は黄金色(こがねいろ)に輝き、真に“金波”の細波(さざなみ)が一本の帯になって湾を東西に横切っていました。
この黄金色の帯の中を、舫い船(もやいぶね)を点描として、巨大なコンテナ船が船体を発光させて横切り、その後はまた黒い影に戻ります。小舟は光の中に一瞬消えてしまい、間を置いて黒い影として再び顔を出し、先を急いで視界から消えていきます。

夕陽が雲の端に隠れると目映い(まばゆい)ばかりの光は弱くなり、同時に、細波の形が際立ってみえるようになりました。“賑わい”が“静けさ”に変わったように感じました。
時の経過とともに景色は墨絵のようになり、夜の帷(とばり)が降りてきます。黒い山影の間に灯り(あかり)がみえるようになり、波頭も黒くなり、舟にも灯りが点ります。
汽笛が、一日の仕事を労る(いたわる)ように、憩いの時の到来を知らせているようです。

この金色(こんじき)の夕陽の帯は、ムンクの絵に描かれている白夜の月光を思わせます。
異なるのは、南国の太陽の光の強さと月光の冴え冴えとした静謐さでしょうか。

この夕映え、闇に包まれるまで飽かずにみていました。
華やかな夕陽は、山崎豊子の「華麗なる一族」の冒頭の描写や、三島由紀夫の「豊饒の海」で象徴的に用いられています。人が夕陽に惹かれるのが分かるような気がします。
   (vol.88 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=114
   (vol.113 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=141

大きなコンテナ船は、自らの運命を受け入れ、与えられた仕事を黙々とこなしている、小舟は懸命に仕事を成し遂げようとしている、そんな心象風景としてみていました。

帰国してみると、夜は虫の音が闇を支配しており、秋雨前線が雨を降らし、秋間近を感じさせられました。
自分自身の歩みを納得できた一週間でした。
と同時に、医療に専念できた豊潤な時は、もう二度と戻ってこないという哀しみが残りました。

今週の花材は、大振りな灯台躑躅(ドウダンツツジ)が竜胆(リンドウ)を覆い、この下で酒を酌み交わしたいものです。秘書室は赤と緑で“実りの秋”の演出です。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)

今週の花


【理事長室】
■ドウダンツツジ   ツツジ科/落葉低木/
原産:日本/新緑・花期・紅葉と一年を通して
楽しめる樹木。4〜5月にスズランに似た小さ
な白い花を咲かせる。赤色の花を咲かせる「ベ
ニバナドウダン」や、縞模様の花を咲かせる
「更紗ドウダン」もある。
■リンドウ(ハイネスホワイト)   リンドウ科
/多年草/原産:南アフリカ/《名前の由来》
根が薬になり、竜の胆のように苦いことから
(竜胆:りんどう)/日本の秋を代表する花で、
世界に約400種。「ハイネスホワイト」は山形
県産の品種。側枝の発生が多いスプレータイ
プの白色。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1381.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)

【秘書室】
■ソラナム   ナス科/一年草/原産:アフリカ/「ソラナム」は“観賞用のナ
ス”を意味し、ナス科ナス属の総称で約1700種ある。一枝にプチトマトのような
実を沢山つける。白からオレンジへ色付く実が秋らしい花材。
■アマランサス(ハンギンググリーン)   ヒユ科/原産:熱帯アメリカ/別名
「紐鶏頭」/モコモコとした小さな毛糸玉がつながったような花姿。紐状に垂れ
下がって咲く。花穂が赤色の「ハンギングレッド」もある。
■ピンクッション(リゴレット)   ヤマモガシ科/原産:南アフリカ/《名前の由
来》針刺し(ピンクッション)に似た花形から/針山に待ち針を多数刺したような
花姿。赤、黄色、オレンジなど南国らしい鮮やかな色が特徴の個性的な花。待
ち針のようにみえるひとつひとつが雌しべ。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1382.jpg
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