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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2011.08.05

vol.135  − 蝉時雨 (せみしぐれ) −

木槿(ムクゲ)が満開です。戸外では、蝉の声が炎天下や夜の闇を満たし、夏真っ只中という雰囲気です。
出勤すると、構内の通路に蝉や空蝉(うつせみ)が散乱しています。日中、中庭を賑やかに鳴いていたのが、翌朝には骸(むくろ)となっているのをみるとき、一瞬、“命”、“一生”を考えてしまいます。
若い時に読んだ「空蝉」という立原正秋の晩年の短編小説集の中で語られている「諦念」が、今も心に時々蘇ります。

         輝ける青葉は見るもなやましや
         命の奥に啼きしきる蝉
                          (岩谷莫哀)

         梢よりあだに落ちけり蝉の殻
                          (芭蕉)

食事をしながら早朝の庭に目を向けると、一時(いっとき)の新緑が深い緑に、「鮮やかさ」から「深遠さ」へと変わっています。その濃緑(こみどり)の背景が、次に咲く花を待っています。

先日、時鳥(ホトトギス)や私には分からない鳥の鳴き声で起床しました。夕闇でも季節を我々に意識させるかのように鶯(ウグイス)と競演しています。

         ほとゝぎすなくやさつきのみじか夜(よ)も  ひとりしぬればあかしかねつも
                                      (人丸(ひとまろ)「和漢朗詠集」より)

古今、誰もが同じ景色に巡り会っているのでしょう。印象的な情景には、それに相応しい歌が必ずあります。日本人の感性は昔も今も同じ、を実感します。

         春は花夏ほととぎす秋は月
         冬雪さえてすずしかりけり
                          (道元)

人口に膾炙(じんこうにかいしゃ)した歌です。道元が作者とは知りませんでした。
学生時代、道元の著作に挑戦しました。完全にお手上げでした。それ以来、遠い、少し煙たい存在でした。彼が優れた歌人でもあったことを初めて知りました(松本章男「道元の和歌」)。
この歌の意は、“ときには立ち止まり、自然と同化し、自然と語り合う気持ちのゆとりを持つ”だそうです。
ここまで読み込んでいなくてはならないのか…。

いい話を新聞でみつけました(朝日新聞 7月23日 地方版)。
小学生の姉弟が峠道で朝晩災害現場と宿舎を往き来している警察や自衛隊の支援車両に、“おかえり”、“いつもありがとう”という手作りのメッセージボードを掲げて手を振りながら、感謝の意を表しているというのです。3か月の間、毎日です。
久し振りに胸の奥に温かい火種をもらいました。隊員の方々もきっと元気と誇りをもらったことと思います。
そして、この姉弟は、「愚直なる継続」の大切さ、「善意の有り難さ」を肌で感じ取っていることでしょう。
この困難な時期を乗り越えて、優しくて、勁(つよ)い大人になっていくことを確信します。

今週の花材は、執務室は寒色で、秘書室は暖色で夏を演出しています。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)

今週の花


【理事長室】
■石化柳(セッカヤナギ)   ヤナギ科/尾上柳
(オノエヤナギ)の枝が石化したもの(枝の上部が
帯状に扁平)。茎の一部が枯れこんで成長が止ま
り、他が成長するため曲がりくねる。曲がった石化
部分の動きを生かして、生け花などに利用される。
■ルリ玉アザミ(ベッチーズブルー)   キク科/
多年草/原産:地中海沿岸・西アジア/アザミに
似た葉をつけ、茎の先端に小花の密集した球状花
を咲かせる。ハリネズミのような花形と綺麗な青紫
色が特徴。
■ピンポン菊   キク科/多年草/原産:オラン
ダ/ピンポン玉のようにまん丸に咲く。菊のイメー
ジを変え、仏事以外での使用が多い。
■アンスリュウム(みどり)   サトイモ科/常緑
多年草/南国原産の花で暑さに強く、花弁のよう
な苞を観賞するので長く楽しめる。「みどり」は爽や
かな黄緑色。
■ドラセナ(コーディラインレッド)   リュウゼツラ
ン科/日本で流通する観葉植物の代表的なもの。
「コーディラインレッド」は葉が赤色。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1351.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)

【秘書室】
■ワレモコウ(バーネットクィーン)   バラ科/多年草/実のよう
に見える部分が小さな花の集まりで、花弁が無いのが特徴。日本
全土の山野に自生し、7〜10月頃に咲く。根はタンニンを多く含
み、漢方では止血剤などに用いられる。
■モカラ(バングテンゴールド)   ラン科/原産:東南アジア/
バンダ、アラクニス、アスコケントルムの3種の蘭を交配した人工
種。「バングテンゴールド」は落ち着いたオレンジ色。
■ピンクッション(ナオミ)   ヤマモガシ科/常緑低木/原産:
南アフリカ/《名前の由来》針刺し(ピンクッション)に似た花姿から
/針山にマチ針を多数刺したような個性的な花。
■ドラセナ(レモンレッドエッジ)   (理事長室分花材解説をご覧
ください) こちらは緑色の葉の縁が赤色。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1352.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)

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