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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2011.05.13

vol.125  − 時間 −

山里や林の間には盛りを過ぎた桜が、日毎に萌える緑の中で白さを主張しています。
今年も、陸に(ろくに)桜を愛でることなく過ぎていこうとしています。忙しさに紛れ忘れがちですが、桜は、一年に一度、一瞬の盛りです。

         散らであれかし桜花
                                (閑吟集)
です。

鉄路からみる田圃(たんぼ)に、少しずつ水が張られてきました。
今頃は、普通なら全ての田に水が張られている頃です。政府による作付けの延期要請によることも然(さ)ることながら、今年は作っても売れないと諦めてしまった人が多くいるからでしょうか。
事実、この時季、桃の栽培は授粉作業に忙しいのですが、「作っても売れないだろう」と、多くの農家が迷っていると聞きました。
これらの事象が、ただでさえ高齢化が進んでいて、後継者の少ない我が国の農業崩壊の引き金にならなければ良いのですが…。

このところ、周囲には灯台躑躅(ドウダンツツジ)の白い小さな花が目に鮮やかです。
建物周囲の生垣、通勤路の軒先の見事な鉢植えが、一瞬、自分を“優しい人”にしてくれます。
庭に目を遣ると、ライラック(リラ)が満開です。構内にも躑躅(ツツジ)や皐月(サツキ)が咲き出しました。

         山つつじ照る只中に田を墾(ひら)く
                                飯田龍太

この光景は、真にこの時季です。生垣に隠れて白椿も咲いています。
聞けば、午前中に一雨降ったようで、青空の下、
 
         落ちざまに水こぼしけり花椿
                                芭蕉

が再現されます。椿は、突然落花するので、庭に植栽するのは嫌われているようですが…。
部屋には、都忘れ(ミヤコワスレ)、芍薬(シャクヤク)、素朴さと華やかさの対比は、仕事に疲れた心身に一時の慰めを与えてくれます。

         時と水からなる河を眺め、
         時がまた別の河であることを思い、
         わたしたちは河のように消えることを、
         顔は水のように過ぎていくことを知る。
                                (J.L.ボルヘス「創造者」)

たまたま知った詩です。この詩が、方丈記の冒頭の文章と似ていることに驚かされます。
正直に白状すると、アストル・ピアソラが「エル・タンゴ」という彼の詩に作曲していたから知ったのです。
恥ずかしながら、それまで彼の存在や偉大さは全く知りませんでした。

今週の花材は、爽やかな緑に白をアクセントにした新緑の演出です。
執務室は伸びやかな豪快さを、秘書室は清楚な可憐さを感じさせてくれます。


(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)


今週の花


【理事長室】
■ドウダンツツジ   ツツジ科/落葉低木/
原産:日本/花期は4〜5月で、スズランのよ
うな白い釣鐘状の花が咲く。丈夫で育てやす
く、公園などの生垣に利用される。
■カンパニュラ   キキョウ科/原産:ヨーロ
ッパ/《名前の由来》ラテン語の「小さな鐘」を
意味する語から/世界で約300種あり、内日
本で自生しているものも4種ある。風鈴や鐘の
ような形で可愛らしい花。「風鈴草」や「釣鐘
草」(ツリガネソウ)の別名もある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1251.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)






【秘書室】
■スズラン   ユリ科/多年草/原産:日本〜シベリア東部/
《名前の由来》鈴に似た花形と葉が蘭の葉に似ていることから/
小さなベル型の白い花を連なって咲かせる可憐な花。園芸用に
出回るのはドイツスズランで、日本のスズランより大型で芳香も
強い。
■アンスリューム(みどり)   多年草/原産:中南米/艶々で
光沢があり、造花と見間違うような花。花弁のように見える部分
は苞で、中心の棒状の部分が花。「みどり」は爽やかな黄緑色の
品種。
■オクラレルカ   アヤメ科/多年草/原産:トルコ/アイリス
の一種で紫色の花が咲く。剣のように先の尖った長い葉が特徴
で、切花として葉だけが流通。シャープなラインで勢いがあり、生
け花等に重宝される。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1252.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)

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