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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2011.01.28

vol.110  − 諦念 −

         初雪や水仙の葉のたはむまで
                                      芭蕉
福島は、この冬初めてのまとまった積雪です。
庭や、鉄路からみる那須野が原の雪原は、“静謐(せいひつ)”な空気で覆われています。背景には吾妻や那須連峰がそそり立っています。
この景色は、西日本、特に中国山地の山々が低く、丸く、嫋やか(たおやか)で、そして山里が宥め(なだめ)られた自然を感じさせるのとは対照的です。
只、この冬の大雪、高齢者の方々が除雪に苦労している姿を見聞きするにつけ、若かった時の自分でさえきつかったのですから、その切なさが胸に突き刺さります。

仕事の合間に「室町三井家の名品  ―卯花墻(うのはながき)と箱根松の茶屋―」展(三井記念美術館)に行ってきました。 (三井記念美術館 http://www.mitsui-museum.jp/
志野茶碗の銘「卯花墻」、実物をみるのは初めてでした。想像していたより大きく、歪みやたわみが強烈な個性を発していました。
同時に、黒楽茶碗の銘「俊寛」、大井戸茶碗の銘「須弥(別銘十文字)」など、もう二度と一堂に会することはないかと思える程の内容でした。以前、香雪美術館でみた企画展以来でしょうか。
私は、南宋時代の青磁茶碗の銘「馬蝗絆(ばこうはん)」が、深みがあって、しかも濁りのない色彩に、唯々、見惚れてしまいました。
書には全くの門外漢の私でも、展示されていた墨跡の勢いや優美さは感じ取れました。

1月25日は、北原白秋の誕生日です(1885年)。
福島県須賀川市にある、国の指定名勝・牡丹園に彼の歌碑があります。

         須賀川の牡丹の木(ぼく)のめでたきを
         炉にくべよちふ雪ふる夜半に

この詩は、彼の実体験に基づいているそうです。

須賀川市は古くから栄えた商人の町です。芭蕉も「奥の細道」で述べています(vol.32,76)。その芭蕉を心から慕った蕪村が描いた「奥の細道画巻」にも、“須賀川”が取り上げられている程です。
  (vol.32 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=52
  (vol.76 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=102

1月26日は、恐らく日本人に、そして美術を愛する人々にとって忘れられない日です。
この日、早朝、法隆寺金堂に火災が発生したからです(1949年)。
原因は、未だに明らかにされていません。後日か、当時の記憶なのか定かではありませんが、新聞に、管主が壁画の前に茫然と立ち尽くして祈っている写真が載っていたのを覚えています。
この事件の背後には、人間の“業(ごう)”を感じさせる闇があるようです (遠山彰「法隆寺 金堂炎上」)。

今週の花材は、執務室は東海桜とスイートピーで“春を待つ心”です。
秘書室は土佐水木とヒヤシンスで、“心静かに春を待つ“でしょうか。


(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)

今週の花


【理事長室】
■東海桜   バラ科/落葉高木/中国原産
のカラミ桜と日本原産の小彼岸の交配種。薄
桃色の一重咲きで甘い香りがする。染井吉野
よりも早く開花する。しなやかな枝ぶりと枝い
っぱいに花をつけることから近年人気の品種。
■スィートピー(紫式部)   マメ科/一年草
/原産:イタリア/明治〜大正時代に渡来。
ひとつひとつの花が蝶のような花姿で甘い香
りを放つ。花色はパステル系からビビッドなも
のまで多品種ある。「紫式部」は一本で紫の
濃淡が楽しめる品種。
■ドラセナ(紅光)   リュウゼツラン科/常
緑低木/原産:熱帯アフリカ/「紅光」という品
種名の通り、紅葉したような綺麗な赤色の葉。
観葉植物の中でもっとも流通するドラセナ類の
一種。切花でも非常に長く観賞できる。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1101.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)

【秘書室】
■ヒヤシンス   ユリ科/球根植物/原産:地中海沿岸/香水のよう
なやや強い甘い香りを放つ。小花が穂状に密集して開花する。鉢植え・
庭植えの他、学校の授業で水栽培に利用される。今回は白と青の2色を
使用。
■土佐水木(トサミズキ)   マンサク科/落葉低木/原産:日本・アジ
ア/《名前の由来》土佐(高知)に自生し、ミズキの葉に似ていることから
/高知県の蛇紋岩地帯石灰岩地帯に自生。薄黄色の花が7〜8輪まと
まって、垂れ下がるように咲く。日向水木とよく似ているが、花数の違い
で見分けがつく。(日向水木は3〜4輪)
※拡大写真http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/1102.jpg
(無断転載等はご遠慮ください)

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