はじめに
すべての心疾患は心不全の原因となりえます。高齢化などにより、心不全に罹患する患者さんは増加の一歩をたどっています。当科では、患者さん個々の病態に応じて包括的、高度な診療を行っております。以下に心不全の病態・治療について概説します。
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心臓の働き
心臓は全身に血液を送り出すポンプの働きをしています。生命維持に必要な酸素や栄養素などを含む血液を、拍動によって肺や全身へめぐらせます。肺循環は右心系を中心に心臓と肺のあいだをめぐる血液循環であり、肺で酸素を取り入れ、二酸化炭素を放出します。体循環は左心系を中心に心臓と全身のあいだをめぐる血液循環です。酸素や栄養素を全身へ届け、二酸化炭素や老廃物を運び去ります。
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心不全とは?
心臓が機能を果たせず、体に症状が現れた状態です。心臓の機能低下が経時的に進行し、症状のある状態が長時間続きます。普段は安定していても、過労などにより症状が悪化しやすい病態です。高齢者に多く合併症・併存疾患も多い病気です。
心不全の症状には、1)体が要求する血液を送り出せないために起こる症状(低還流症状)、2)体に血液が滞り起こる症状(うっ血症状)があります。右心不全では体重増加やむくみ、食欲不振が現れ、左心不全では全身倦怠感、呼吸困難や咳などが現れます。
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心不全の基礎疾患
心不全は様々な基礎心疾患によって発症します。以下、代表例をお示しします。
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高血圧性心疾患:血圧が高くなると心臓に負担がかかります。 虚血性心疾患:狭心症や心筋梗塞など冠動脈の狭窄や閉塞により筋肉の動きが低下します。 弁膜症:心臓内の血流を仕切る弁の働きが悪くなり、通過障害や逆流を来たします。 心筋症:心臓の筋肉が変性する病気により動きが低下します。原因不明のものもあります。 先天性心疾患:心臓や周囲の血管の生まれつきの異常により、心臓の機能が低下します。 不整脈:心房細動などの不整脈により心臓の機能が低下を来たします。 |
近年、心不全症状を発症する前により早期の段階における心不全一次予防を目指した治療の重要性も指摘されており、当科では睡眠時無呼吸症候群、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病管理、虚血性心疾患の一次・二次予防などにも積極的に取り組んでいます。 |
心不全重症度に応じた治療
NYHA(New York Heart Association)機能分類と呼ばれる心不全の重症度を表す分類があり、重症度に応じた薬物療法及び非薬物療法を併せて行っています。
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心不全の薬物療法
ACE阻害薬、ARB、抗アルドステロン薬:レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系を抑制し、血圧上昇、血管収縮、体液貯留、心筋変性などを抑え、心臓の負担を減らします。
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心不全の非薬物療法
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心不全と合併症・併存疾患
心不全の主な病態は心機能低下ですが、合併症の存在や、多臓器不全に対する視点も必要です。特に慢性腎臓病、貧血、末梢血管疾患、慢性閉塞性肺疾患、睡眠時無呼吸症候群、糖尿病、高尿酸血症、消化管・肝機能障害、不眠症など様々な合併症の存在で心機能や予後が悪化し、合併症の治療により心不全が改善しうる可能性があります。当科では総合内科医としての広い視野から多方面アプローチによる心不全診療を心がけています。
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心不全の生活管理・日常生活の注意点
上述のように様々な治療がありますが、心不全増悪の誘因には、塩分・水分の不徹底、感染症、治療薬服用の不徹底、過労、身体的・精神的ストレス、血圧管理不良など患者さん自身に起因するものが多いことも報告されています。その為、患者さんの自己管理が大変重要となります。
・塩分を控える:軽症の場合で食塩1日6-7g以下、重症例では3g以下に制限します。 ・水分を取りすぎない:むくみ、体重増加に対し、主治医の判断にて制限することがあります。 ・禁煙:必ず禁煙することが重要です。場合により禁煙補助薬も使用します。 ・飲酒:原則として禁酒が好ましいです。
・在宅医療機器の継続:CPAP, ASV, HOTなどを継続して使用して下さい。 ・運動療法の継続:日々の症状に合わせた適度な運動を行ってください。 ・感染対策:衛生環境の改善(手洗い、うがい、歯磨き、マスク)、ワクチン接種など。 ・十分な休養と睡眠、精神的・身体的ストレスの回避、過労の回避。
・血圧・体重測定の習慣化:毎日の体重や血圧の測定が重要です。特に体重増加、排尿回数・尿量の減少、むくみ・疲労感・息苦しさといった症状の出現に注意が必要です。
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おわりに
心不全の治療は日々進化しており、当科では、国内標準または最新の治療法を提供できるよう努力しておりますが、心不全の予後改善はまだ十分ではありません。患者さんを中心とした多職種介入・病診連携(かかりつけ医、入院主治医、看護師、薬剤師、理学療法士、栄養士、ソーシャルワーカー)による包括的管理や患者さん・ご家族の協力による自己管理が大変重要となっています。また、大学病院である当施設はよりよい心不全診療の進展・開発の責務も担っており、患者さんの為となる臨床研究なども積極的に行っております。今後も各医療機関と連携しつつ、心不全診療のさらなる改善を目指していきたいと考えております。
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