末梢動脈疾患(peripheral arterial disease ; PAD)は、手や足の中等度以上の太い動脈が動脈硬化のため進行性に狭くなったり詰まることにより血液の流れが悪くなることで、様々な症状をひき起こす病気です。 日本では閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans ; ASO)と呼ばれている疾患ですが、海外では一般的にPADと呼ばれています。 喫煙習慣や糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病などがあると、動脈壁にコレステロールの沈着が起こりやすくなり、動脈硬化の進行を促進することとなります。やがて血管の内部に狭窄を来すことにより、血液の流れが悪くなり、手や足に虚血に伴う症状を来します。
 典型的な症状としては、運動時に四肢の疲弊、疼痛、脱力感を感じ、休むことにより改善します。重症のPADでは、安静時にも四肢の疼痛を生じ、下肢の潰瘍、感染、皮膚の壊死などを来すこともあります。
 末梢動脈疾患は、血管の病気のため、血管外科、循環器科で診療されます。


末梢動脈疾患の検査
 PADが疑われるとき、股の付け根、膝の裏、足首の脈拍の強弱の確認を行います。直接触れたり、聴診器で音を聞いたりすることで血流の状態を調べます。動脈に狭窄や閉塞があると、脈が弱くなったり触れなくなったりします。
 血行障害が疑われた場合、ドップラー血流計や脈波計を用いて、足首と上腕の血圧(ABI:足関節部最高血圧/上腕動脈最高血圧)を測定します。両上下肢の血圧を測定するような形で簡単に行え、苦痛はありません。動脈硬化症のない方では、足首と上腕の血圧とはほぼ同じですが、下肢の動脈に狭窄や閉塞 があると、足の血圧が下がります。腕の血圧と足の血圧との比(足関節圧比)を計算すること により、血行障害の有無とその重症度が判断できます。足関節圧比が0.9(90%)以下だと 何らかの閉塞性病変の存在が疑われます。さらに、血管内超音波検査、CT、MR(MRI、MRA)、動脈造影検査などの検査をすることによって、血管の狭窄や閉塞部位、また全身の血管の状態を調べていきます。
ABI検査 CT
 


末梢動脈疾患の治療法
 PADには大きく分けて、薬物療法、理学療法、血管内治療を含めた手術という3つの治療法があります。
薬物療法
 薬物療法は最も基本的な治療法で、軽症から重症にいたるまで重症度と目的に応じて活用することになります。
理学療法
 医師の監視下で、速歩や軽いジョギングなどの筋肉運動をすることにより、血流を迂回させる別の道(側副血行路)を発達させ、足への血流を増加させる治療法です。
血管内療法、外科的手術療法
 狭窄や閉塞した動脈の先に血液が流れるように、人工血管や患者さん自身の血管を用いて血管をつなぎあわせ、詰まった場所を迂回する別の道(バイパス)を作ります。  最近では、カテーテルと呼ばれる管で血管病変を治療する「血管内治療」が発達してきました。狭くなったり詰まっている血管を、血管の中から風船のついたカテーテルでふくらませて血管を拡げます。 風船だけで十分な効果が得られないときはステントという金属の筒状の網を血管内に留置することがあります。治療は約1~2時間で終了し、治療当日はベッド上での安静が必要ですが、翌日からは歩行も可能となります。入院期間も数日と短いため、外科的手術に比べて患者さんの負担は非常に少ないと言えます。2015年の当院の治療件数は50例であり、徐々に増加傾向にあります。血管内治療技術や器具の進歩により、これまで治療できなかった病変が血管内治療で行えるようになってきました。


 当科では薬物療法では改善を得られない方に対して、積極的に血管内治療を行っております。動脈は体中に張り巡らされており、全身どの部位にも動脈硬化病変が生じる危険性があります。その中でも特に大事な部位として足(下肢動脈)・腎臓(腎動脈)・腕(鎖骨下動脈)が主な治療対象部位となります。
1)下肢動脈 外腸骨動脈狭窄症例



足の動脈造影
矢印の部分に高度狭窄を認めます。



ステントという網構造の金属の筒で狭窄部位を拡張しています。



治療後の動脈造影。
狭窄部位は十分に拡張されています。
この方は治療後、歩行時の足の痛みが消失しました。
2)下肢動脈 両側総腸骨動脈閉塞症例



足の動脈造影
右側には、矢印の部分に複数の高度狭窄を認めます。
左側は動脈が完全閉塞しています。



両側の足の付け根から、狭窄/閉塞部位に細いワイヤーを通過させます。



ステントという網構造の金属の筒を右側の狭窄部位と左の閉塞部位に留置しています。



治療後の動脈造影。
狭窄部位および閉塞部位は十分に拡張されています。
この方は治療後、歩行時の足の痛みが消失し、趣味の散歩が十分にできるようになりました。
3)腎動脈



左腎動脈の造影所見です。
矢印の部分に高度狭窄を認めます。



ステントという網構造の金属の筒で狭窄部位を拡張しています。



治療後の動脈造影。
狭窄部位は十分に拡張されています。
この方は治療後、高血圧が改善し、腎機能も良くなりました。
4)炭酸ガスを用いた造影
腎臓が悪い方でもカテーテルの検査、治療ができます!

  カテーテル検査、治療を行う際には造影剤という薬剤を使用します。血管の形態、状態を確認しながら安全に行うためには必要な薬剤ですが、腎臓に負担をかけるため、腎機能が悪い方に使用すると、腎不全を合併する危険性があります。
  当科では、腎機能が悪い方に対しては、一般的な造影剤の代わりに炭酸ガスを用いて造影を行い、腎機能の温存に心がけています。

通常の造影剤を用いた造影

炭酸ガス造影
通常の造影剤を用いた造影と比較すると、若干鮮明さが落ちますが、血管の狭窄や曲がり、太さなど形態的なものは評価できます。

当科における血管内治療件数の推移
 血管内治療は局所麻酔を用いて、2mm程度の太さのカテーテルを用いて行う手術です。 治療時間は、病変にもよりますが2〜3時間前後で終了します。2〜3泊の入院で治療を行うことができます。当院における初期成功率は95%程度となっています。
 末梢動脈疾患による歩行時の足の痛みは、関節痛や神経痛等と間違われることも多く、 血管の病気であることに気づかず、整形外科にて治療を行っている方も多いようです。末梢動脈疾患は循環器内科で治療を行う疾患です。
 足の痛みが改善しない方、足の冷えがひどい方、足の傷の治りが悪い方、足の色が悪い方等、お気軽にご相談ください。


文責:國井浩行