末梢動脈疾患(PAD)

末梢動脈疾患とは?

末梢動脈疾患(Peripheral Artery Disease:PAD)とは、主に動脈硬化が原因で、心臓から全身へ血液を運ぶ動脈が細くなったり、つまったりすることで、手足や臓器への血流が不足する病気の総称です。特に下肢の動脈が障害されると、歩行時の足の痛みや、足の傷・潰瘍が治りにくくなるなど、日常生活や生命予後に大きな影響を及ぼす病態となります。

動脈硬化は全身性の病気であるため、末梢動脈疾患の患者さんは、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントのリスクも高いことが知られています。したがって、末梢動脈疾患は「脚の血管だけの病気」ではなく、全身の血管病の一つとして総合的に診療することが重要です。

主な症状:間欠性跛行と重症下肢虚血

間欠性跛行(かんけつせいはこう)

下肢の動脈狭窄が進むと、歩くとふくらはぎや太ももが痛くなり、しばらく休むとまた歩けるようになる「間欠性跛行」という症状がみられます。
この症状は、腰部脊柱管狭窄症などによる神経症状とも似ているため、整形外科で神経や骨の病気として治療を受けていても、なかなかよくならないケースがあります。そのような場合、痛みの背景に下肢の血流不足(末梢動脈疾患)が関わっているかもしれません。
末梢動脈疾患による間欠性跛行は神経症に比べ、「歩行距離が長くなると痛くなる(神経症では歩行距離に関わらず痛くなる)」や「姿勢を変えても症状が変わらない(神経症ではかがむと楽になることが多い)」といった特徴があります。

重症下肢虚血(包括的高度慢性下肢虚血)

さらに病気が進むと、足の血流が著しく低下し、
・安静時にも続く足の強い痛み
・足の指やかかとの傷・潰瘍がなかなか治らない
・皮膚が黒く変色して壊死してくる
といった、より重篤な状態になります。最悪の場合、指や足の切断が必要になることもあります。以前はこのような状態を「重症下肢虚血」と呼んでいましたが、最近では、神経障害や感染も含めてより広くとらえた「包括的高度慢性下肢虚血(CLTI:Chronic Limb-Threatening Ischemia)」という名称が用いられています。
足の傷や潰瘍は、まず皮膚科などで治療されていることが多いのですが、治療を続けてもなかなか治らない場合、その背景に血流不足が隠れていることがあります

「跛行で整形外科に通っているが、症状がなかなか良くならない」「足の傷を皮膚科で治療しているが、いつまでも治りきらない」といったときには、血管の病気(末梢動脈疾患)の可能性も考慮し、当院循環器内科「手足の血管外来」の受診をご検討ください。

原因・危険因子

末梢動脈疾患の主な原因は動脈硬化であり、その進行には次のような危険因子が関わります。
・喫煙
・糖尿病
・高血圧
・脂質異常症(高LDLコレステロールなど)
・慢性腎臓病・透析
・心筋梗塞や脳梗塞の既往
これらの危険因子を早い段階から適切にコントロールすることが、発症予防と進行抑制の鍵となります。

当院で行なっている検査

症状や全身状態に応じて、以下の検査を組み合わせて行います。

ABI(足関節上腕血圧比)測定

両腕と足首の血圧を測定し、その比から下肢動脈の狭窄の有無を評価します。身体的負担が少ないスクリーニング検査です。

SPP(皮膚灌流圧)測定

足の皮膚表面の血流の状態を数値として評価する検査で、創傷が治るだけの血流が確保されているかどうかを判断する際に重要な指標となります。特に、包括的高度慢性下肢虚血(重症下肢虚血)や糖尿病性足病変では、潰瘍の治癒可能性や治療方針(血行再建の必要性)の検討に役立つ検査です。

下肢動脈エコー検査

超音波で血管の狭窄・閉塞部位や血流の速さを評価します。放射線被ばくがなく、繰り返しフォローに用いることができます。

CT/MR血管造影

造影剤を用いたCTやMRIで、下肢だけでなく、腎動脈・頸動脈・腹部内臓動脈なども含めて動脈の状態を三次元的に評価します。

血管造影検査(アンギオグラフィ)

カテーテルから造影剤を注入し、血管内腔の状態を詳細に描出する検査です。診断だけでなく、その場でカテーテル治療を行う際の基盤となる検査です。

治療の基本方針

末梢動脈疾患の治療は、①危険因子の是正(全身管理) ②薬物治療 ③血行再建手術(カテーテル治療・バイパス手術) ④フットケア・リハビリが柱となります。

1)危険因子の是正・薬物治療

・禁煙指導
・糖尿病・高血圧・脂質異常症の厳密な管理
・抗血小板薬(血栓予防)、スタチンなどによる動脈硬化の進行抑制
・運動療法(監視下運動療法など)による歩行距離の改善
これらは、症状の改善だけでなく、心筋梗塞や脳梗塞の予防にもつながる重要な治療です。

2)カテーテル治療

歩行障害や安静時痛、難治性潰瘍などがある場合には、狭くなった血管を内側から広げる血管内治療を検討します。
・細いカテーテルを足の付け根や手首の血管などから挿入
・バルーン(風船)で狭窄部を押し広げる
・必要に応じてステント(金属の網目状の筒)を留置して、血流を保つ
近年は、薬剤コーティングバルーンや薬剤溶出ステントなど、再狭窄を抑えるデバイスも導入されており、病変の部位や性状に応じて最適な方法を選択します。

3)外科的血行再建(バイパス手術など)

長い範囲にわたる閉塞や、カテーテル治療だけでは十分な血流が得られない場合には、心臓血管外科と連携し、自分の静脈や人工血管を用いたバイパス手術などを検討します。

4)フットケア・創傷治療・リハビリテーション

重症下肢虚血や糖尿病を伴う患者さんでは、足の傷の管理(フットケア)や感染対策、創傷治療が非常に重要です。当院では、必要に応じて皮膚科・形成外科・整形外科・糖尿病内科・リハビリテーション科などと連携し、下肢の温存と生活の質の維持を目指したチーム医療を行います。

カテーテル治療の実際

1) 下肢動脈:間欠性跛行の患者さん

2) 下肢動脈:重症下肢虚血(包括的高度慢性下肢虚血)の患者さん

3) 腎動脈

腎動脈狭窄は、薬物治療でも十分に血圧が下がらない難治性高血圧や、心不全の反復を引き起こすことがあります。そのような場合には、カテーテルによる腎動脈形成術を行います。

4) 鎖骨下動脈

鎖骨下動脈が狭くなると、腕への血流が不足して腕のだるさや冷感、左右の血圧差がみられることがあります。また、狭窄が強い場合には、脳へ向かう血流が腕のほうへ引き込まれる現象(盗血現象といいます)を起こし、めまいなどの症状が出ることがあります。こうした場合には、カテーテルによる鎖骨下動脈形成術を行います。

文責:清水竹史

ページの先頭へ戻る