電気生理・不整脈

 近年、不整脈治療のあり方は大きく変わってきました。従来主流であった不整脈自体を対象とする薬物療法は控えられるようになり、不整脈の出現に関わる原因を考慮した薬物療法、さらにはカテーテルアブレーション、植え込み型除細動器(ICD)などの非薬物療法が普及してきました。
 当科においてもこれらの治療を早くから取り入れ、患者さんの生命予後の改善、生活の質が改善されるべく日々研鑽し診療にあたっております。また心筋虚血部門、画像診断部門と連携し、不整脈の原因となる疾患を心エコー、心臓CT、心臓MRI、心臓核医学、心臓カテーテル検査などを駆使し的確に診断することを心がけております。
 さらにこれら諸検査にて、心臓の収縮にずれが生じて心臓の働きが低下して困っている患者さんに対しては、心臓再同期療法(CRT)と呼ばれるペースメーカーを用いた心不全治療を施行しております。

カテーテルアブレーション

 主に足の付け根にある静脈あるいは動脈から電極カテーテルを心臓内に挿入し、先端の電極と体に貼った対極板との間で高周波通電を行い、不整脈の原因となる異常興奮発生部位や伝導路を選択的に焼灼により変性させ根治する方法です。
 当科においては1994年より開始し、今まで2000例の症例経験があり、症例数も年々増加しています(グラフ1)

アブレーションと心臓電気生理検査の件数を示す棒グラフ。2018年から2024年までの推移が表示されている。
グラフ1)

 本法は、ほとんど全ての不整脈において適応のある治療法です。以前の当科でのアブレーションは上室性頻拍症や心室頻拍に対する施行が多かったのですが、最近は心房細動への施行が増加してきております。(グラフ2)

アブレーション治療の内訳を示す円グラフで、心房細動が70.9%を占めている。
グラフ2)

 持続性心房細動症例(症例1)においては基本的に両側拡大肺静脈隔離術を行っておりますが、症例によっては上大静脈隔離やCFAEアブレーションの追加も行っており、治療成績もおおむね良好です。(グラフ3)
 また発作性心房細動に対しては一昨年よりバルーン型冷凍(クライオ)アブレーションを導入しました。本法は左心房内で拡張したカテーテルバルーンを肺静脈入口部に押し当て、バルーン内を亜酸化窒素ガスでー60℃まで冷却して吸熱により焼灼する方法です(症例2)。従来の30-50カ所と多点の焼灼が必要であった高周波焼灼に較べて、円周上に一気に焼灼できるため、手技時間や透視時間の短縮、再発が少なくなるなど、患者さんのメリットも大きいと考えております。

症例1)
持続性心房細動症例のアブレーション

症例1)
アブレーションによる心房細動の停止

症例1)
アブレーションによる上下肺静脈の隔離

グラフ3)

症例2)
発作性心房細動に対する冷凍(クライオ)アブレーション

 心房細動や器質的心疾患を伴った心房頻拍(症例3)心室頻拍(症例4)などへのアブレーションでは心臓CT、心臓MRIや心腔内エコーのデータを三次元構築しマッピングに応用するCARTO systemやEnsite systemを併用して行っております。

  • 症例3)
    開心術後症例における切開線起源心房頻拍症例のactivation mapping

  • 症例4)
    心筋梗塞後の心室頻拍症例の
    Voltage mapping

ペースメーカー(PM)

 主に洞不全症候群、完全房室ブロック、徐脈性心房細動に対してPM植え込み手術を行っており、禁忌がなければMRI撮像可能機種を選択しております。また従来の右室心尖部ペーシングに加えて中隔ペーシング(心室、心房)も症例によっては行っております。低心機能症例に対しては後述する心臓再同期療法を行っており、年間約100例の植え込み手術を行っております。


リードレスペースメーカー

 通常の経静脈リードを使用するペースメーカー(PM)は徐脈が発生した際にそれを検知し必要な心拍数を 維持するためペーシングを行う機器です。一般的には制御回路と電池を内蔵したジェネレーターを 鎖骨下に形成する皮下ポケットへ、ペーシングを行うために電気を送る導線(リード)を心房、または 心室に留置する必要がありました。これに対しリードレスペースメーカーは直径6mm, 全長18mm の ジェネレーターを内臓した本体に直接電極を合わせることで機器全体の小型化に成功しており、この 機器を直接右室心尖部に留置することでポケット形成及びリードを不要としました。つまり血管内 操作のみで留置ができることが通常のPM植え込み手技と大きく異なる点です。

リードレスペースメーカーと25セント硬貨の比較画像。ペースメーカーは小型化され、血管内操作で留置可能。

リードレスペースメーカーと従来のペースメーカの比較

長所
①ポケット作成による創部の感染や感染トラブルを回避できる。
②リード留置に伴う血管損傷及びリード感染、リードの劣化・断線などのリードトラブル (2.4〜5.5%)を 回避できる。
③鼠径からのカテーテル操作のみにてペースメーカー留置が完遂されるため、 手術時間が短縮 されることが期待できる。
一般的に経静脈リードを使用するペース メーカー植え込みでは、通常1〜2時間の手術時間を要します。しかしリードレスペースメーカーでは、 平均で約40分程度で手技が終了することができます。

短所
①シングルチャンンバーペースメーカーであるため、心室のみをペーシングする機能(VVI)としての機能 しか持っておらず、その適応もVVIペースメーカーの適応に準ずること
②電池寿命を迎えた際には本体を取りだすことは困難であることが多く、必要であれば右室内へさらに 本体を追加して置かなければならないこと、などが挙げられます。

上記の長所及び短所を個々の状況に合わせて通常型PM植え込みもしくはリードレスペースメーカー 植え込みの適応が決定されます。

  • 右心室心尖部への留置

  • 本体の分離及びカテーテル抜去

植え込み型除細動器(ICD)

 日本においては、年間およそ5万人が心臓突然死していると推定され、その主な原因は心室細動という不整脈であると言われています。心室細動になると心臓が小刻みに震えているため、血液を全身に送ることができなくなり、数秒で失神し、約10分でほとんどの人が死に至ります。救命する唯一の有効な方法は、心臓に電気ショックを与えて心臓の震えを止めること(除細動)です。この除細動器を小型化し、ペースメーカーのように胸の皮膚の下に植え込む機械が植え込み型除細動器(ICD)です。当院においては2000年に施設認定を受けており、遠方からも患者さんが訪れております。


皮下植え込み型除細動器(SICD)

 2016年より本邦で使用可能となった新しい植え込み型除細動器です。 従来の植え込み型除細動器(ICD)は心臓を動かすまたは電気ショックを 送るためのリードと呼ばれる導線を心臓内へ留置・固定する必要があり ました。しかしSICDでは除細動器本体のみならずリードも全て皮下組織 に留置することが特徴です。

このSICDの利点

①リードトラブルの回避:
従来のICDのようにリードを心内へ挿入する必要が無く、リードによって血管や心臓を傷つけるリスクをゼロにできる
②感染リスクの低減:
従来のICDでは感染を引き起こした際にはリードを通して細菌が心臓へ広がり全身感染症をきたす感染性心内膜炎を起こすリスクがありました。しかしSICDでは本体もリードも全てが皮下にあるため、全身感染を起こしにくく、また抜去が比較的容易である

SICDに出来ないこと

①ペーシング機能:
SICDは従来のICDのようなペースメーカーとしての機能はありません。そのため、徐脈性不整脈(洞不全症候群や房室ブロック)を合併している患者さんにはSICDは適応となりません。
②抗頻拍ペーシング:
SICDはペーシングができないため、不整脈の治療手段としての抗頻拍ペーシングはできません。そのため、抗頻拍ペーシングが有効な一部の不整脈を持っている患者さんにはSICDは適応となりません。

当科におけるICD植え込み数の推移

心不全に対する心臓再同期療法(CRT)

 従来のペースメーカー治療は、脈が遅くなる徐脈性不整脈に対して、そのリズムを回復するために行われてきました。しかしながら本法は不整脈でなく心不全をペースメーカーにより治療する近年開発された画期的な方法です。心臓は血液を送るポンプ機能が低下すると、興奮が早く伝わる部分と遅く伝わる部分ができ、心臓の収縮にずれが生じます。右心室と左心室を同時にペースメーカーにより刺激することにより、そのずれを解消しポンプ機能や弁膜症(症例5)を回復させる方法が、心臓再同期療法(CRT)です。当院は植え込み認定施設であり、専門の講習を受けた認定医による手術を行っております。心室性不整脈でICD植え込みが必要な低心機能症例、右室心尖部ペーシングで心不全発症した症例(症例6)や心臓移植まで考慮していた重症心不全症例に対しても積極的に施行しており、心不全症状の劇的な改善を認めております。

当科におけるCRT植え込み数の推移

  • 入院時

  • CRT-D植え込み後

症例5)CRTにより僧帽弁逆流が改善した一例の胸部X線と心エコー図

  • 入院時

  • CRT-D植え込み後

  • 植え込み半年後

症例6)右室ペーシングからCRT-Dにup-gradeした前後の胸部X線写真

植え込み型心電図記録計

 原因不明の失神や動悸症例に対しては電気生理学的検査やヘッドアップチルト検査などを行っておりますが、失神の原因が究明できない場合には胸部の皮下に心電図記録装置植え込みを行っております。不整脈発生時は自動で記録を行い、自覚症状があった際には専用の携帯型リモコンを使用して前後の心電図を記録することが可能になっております。記録された心電図は医療機関で解析することが可能であり、診断がついて不要になった際には取り出すことが可能であります。昨年より記録装置が従来に較べて小型化し、心房細動検出を目的とした潜在的脳梗塞(原因不明の脳梗塞)患者さんへも適応が拡がりました。

植え込み型心電図記録計とその挿入方法を示す画像。胸部に装置を埋め込むための専用ツールが描かれている。

遠隔モニタリング

 当科ではペースメーカー、ICD、CRT、植え込み型心電図記録計などのデバイスに内蔵されたアンテナから医療用の電波を用いてインターネットでデバイスの作動状況、患者さんの状態などを確認し、何か問題がある場合には電話での確認と指導を行う遠隔モニタリングを早期から導入しております。現在は約200名の植え込み患者さんに導入しており、不整脈や心不全への早期治療やデバイス不具合(リード断線、不適切作動など)の管理を専門の臨床工学技士や看護師とともに行っております。

経皮的左心耳閉鎖術

 心房細動による心源性塞栓症予防にワルファリンや直接経口抗凝固薬(DOAC)の内服が必要ですが、出血リスクの高い患者さんではこのような薬剤の継続が困難、あるいはできない症例が存在します。 経皮的左心耳閉鎖システムを用い、塞栓源となる左心耳を閉鎖する方法が開発され、わが国でも2019年に保険償還されました。その安全性・有効性に関しては、薬物治療との比較を行った各種臨床試験の結果をもとに、一定の評価が得られています。

自験例:70歳代 男性
慢性心房細動、慢性腎臓病
ワルファリンによる抗凝固療法継続中であるが、複数回の下血を生じており、継続維持困難。

術中透視画像

術中経食道心エコー

  • 左心耳入口部(心腔内より)

    留置前 3D画像

  • デバイスで閉鎖された左心耳

    留置後 3D画像

文責:金城貴士

ページの先頭へ戻る