虚血性心疾患

虚血性心疾患とは?

虚血性心疾患とは、心臓を栄養する冠動脈の血流が悪くなり、心筋への血液(酸素)の供給が低下する、あるいは途絶えることで起こる病気の総称です。多くは、動脈硬化により冠動脈の内側が狭くなったり、血栓で急につまったりすることで発症します。

日本では、心臓病はがんに次いで2番目に多い死亡原因ですが、その約半数を占めるのが虚血性心疾患です。つまり虚血性心疾患は、重要な国民病と言うことができます。

虚血性心疾患は、大きく次のように分けられます。
狭心症:冠動脈が狭くなり、血流が不足することで胸痛などの症状が出る状態
急性心筋梗塞:冠動脈が急につまって心筋の一部が壊死してしまう状態
なお、急性心筋梗塞と、心筋梗塞を起こしやすい不安定な狭心症をまとめて、「急性冠症候群(ACS)」と呼びます。

虚血性心疾患の多くは、生活習慣病と深く関連しています。特に、以下のような危険因子を有すると、発症しやすくなります。
・高血圧
・糖尿病
・脂質異常症(高LDLコレステロール血症など)
・喫煙
・家族歴(血縁の家族が心筋梗塞を発症したことがある)
これらの危険因子を早期から適切にコントロールすることが、予防と再発防止の鍵になります。

虚血性心疾患はどんな症状が出る?

狭心症
狭心症では、次のような症状が典型的です。
・歩行や階段昇降などの運動時、あるいは朝方の冷え込み時に、胸が締め付けられる・押さえつけられるように苦しくなる
・休んで安静にしていると、数分から数十分程度で徐々におさまる
また、虚血性心疾患による胸の症状は、顎や肩、背中、ときに歯まで広がる(放散痛といいます)ことがあり、「胸はそれほど痛くないが、肩こりのような強い違和感」として自覚される患者さんもいます。

急性心筋梗塞
急性心筋梗塞では、次のような強く持続する胸痛が特徴的です。
・突然出現する非常に強い胸の痛み
・安静にしていても痛みが30分以上続くことが多い
・冷や汗、吐き気、強い不安感を伴うこともある
このような症状がみられた場合は、一刻も早い受診・救急要請が必要です(ただし高齢者や糖尿病の患者さんなどでは、痛みが軽い・息切れや倦怠感だけの場合もあります)。

急性心筋梗塞に対する治療体制

急性心筋梗塞は、冠動脈が突然つまってしまい、そのまま放置すると心筋が次々と壊死していく、きわめて重篤な病気です。したがって、可能なかぎり早くカテーテル治療などで血流を再開させることが何より重要になります。

当院では、24時間365日、いつでも緊急カテーテル治療を実施できる体制を整えています。さらに、救急隊が救急車内で記録した心電図を、心電図伝送システムを用いて当院へ送信し、病院到着前から医師が心電図を確認して診断・治療準備を進められる仕組みとしています。このような体制により、「発症から血流再開までの時間」の短縮を図り、救命率の向上と心機能の温存を目指しています。

狭心症の診断に用いる検査

狭心症の診断や、カテーテル治療を行うべきかどうかの判断のために、当院では以下のような検査を組み合わせて実施しています。

1)運動負荷心電図
階段昇降(マスター負荷試験)や、傾斜のついたベルトコンベアの上を歩行する(トレッドミル負荷試験)などの運動を行いながら、心電図の変化を観察します。運動によって心臓に負荷をかけることで、安静時には出てこない虚血性の心電図変化を捉えることができます。

2)冠動脈CT
造影剤を用いたマルチスライスCTにより、冠動脈の形態(狭窄や閉塞の程度)を評価します。また、石灰化の有無やプラークの性状など、動脈硬化の状態も詳しく調べることができます。

3)FFRCT
冠動脈CTで狭窄が認められた病変に対して、コンピューター解析により「その狭窄が血流にどの程度影響しているか」を数値化する検査です。追加の侵襲的検査を行わずに、虚血の有無・重症度を推定できるため、患者さんの身体的負担を軽減しながら、治療の必要性をより適切に判断できます。

4)心筋血流シンチグラム
テクネシウムという放射性医薬品を静脈から投与し、心筋の血流分布を画像として評価する検査です。造影剤を使用しないため、腎機能が低下した患者さんにも比較的安全に実施できます。

5)アンモニアPET(心筋血流PET)
PET(陽電子放射断層撮影装置)という専用装置を用いて、アンモニア製剤をトレーサーとして心筋血流を画像化・定量評価する検査です。心筋血流シンチグラムに比べて空間分解能や定量性に優れ、複数の冠動脈に病変がある場合の評価が非常に有用とされています。心筋血流の絶対値や「心筋血流予備能」を定量的に評価できるため、微小循環障害やびまん性病変の評価にも役立ちます。

狭心症の治療

狭心症の治療では、動脈硬化そのものを治療・是正することと、症状を和らげることの両方が重要です。
まず、原因である動脈硬化に対する治療として、
・高血圧、糖尿病、脂質異常症に対するガイドラインに沿った内科的治療
・食事・運動・体重管理などの生活習慣の是正
・喫煙者の方には、禁煙外来も含めた禁煙支援
を行い、動脈硬化の進行を防ぐことが不可欠です。そのうえで、症状緩和や予後改善のための治療として、以下の3つの方法があります。

1)薬物治療
・狭心症発作を抑える薬(ニトログリセリンなど)
・心臓への負担を減らす薬(β遮断薬、カルシウム拮抗薬など)
・再発予防のための薬(抗血小板薬、スタチンなど)

2)カテーテル手術(経皮的冠動脈インターベンション:PCI)
カテーテルを用いて狭くなった冠動脈を内側から広げる治療

3)冠動脈バイパス手術(CABG)
自身の血管を用いて、狭くなった冠動脈を迂回する新しい血流の通り道を作る外科手術

どの治療が適切かは、病変の部位・重症度、全身状態、合併症、患者さんのご希望などを総合的に検討して決定します。当院では、循環器内科医・心臓血管外科医・麻酔科医・看護師などが連携したハートチームで議論し、最適な治療方針を検討しています。

カテーテル手術について

カテーテル手術(経皮的冠動脈インターベンション:PCI)は、手首(橈骨動脈)や足の付け根(大腿動脈)から局所麻酔下に細い管(カテーテル)を血管内に挿入し、冠動脈まで進めて行う治療です。狭くなった冠動脈を内側から広げて血流を改善させるために、病変の性状に応じて以下のようなさまざまな治療デバイスを使い分けます。

1)冠動脈ステント
バルーンで狭窄部を広げた後、金属製の網目状の筒(ステント)を血管内に留置し、内側から支えることで再び狭くなるのを防ぐデバイスです。現在は、薬剤をコーティングして再狭窄を抑える薬剤溶出ステント(DES)が主流です。

●ステント治療の流れ

①狭窄部までステントを送り込む

②バルーンを広げる

③ステントだけを残す

2)薬剤塗布バルーン(DCB)
狭窄部で一時的にバルーンを膨らませる際に、バルーン表面の薬剤を血管壁にしみ込ませて再狭窄を抑える風船型デバイスです。ステントを残さずに治療できるため、ステントを入れにくい病変(細い血管など)や、過去に入れたステント内の狭窄病変などに有用です。

3)高速回転式アテレクトミー(ロータブレーター)
先端にダイヤモンド粒子を付着させた小さなヘッドを高速回転させて、高度に石灰化した硬いプラークを細かく削り取るデバイスです。これにより、バルーンやステントが通りにくい強い石灰化病変でも、安全に拡張しやすくなります。

4)軌道式アテレクトミー(OAS)
軌道式アテレクトミーシステムは、冠動脈壁の硬い石灰化病変を、先端のダイヤモンド粒子付きクラウンを高速回転させて削り、血管を広げやすくする治療機器です。ステントやバルーン治療を助け、治療成功率向上に役立ちます。

5)血管内衝撃波治療(IVL)
血管内で特殊なバルーンを膨らませ、低エネルギーの衝撃波(ショックウェイブ)を発生させて血管壁内の石灰化を砕き、拡張しやすくする治療です。従来の方法では十分に拡がらない重度石灰化病変に対して、血管損傷を抑えつつ拡張性を高める新しい技術です。

6)方向性冠動脈粥腫切除(DCA)
カテーテル先端の窓のついた部分を病変側に向け、プラークを削り取って除去するデバイスです。主に、分岐部病変などで血管の形態をできるだけ保ちつつ、病変を減らしたい場合に選択されます。

当院では、血管内超音波などの血管内イメージングも併用しながら、患者さん一人ひとりの病変に合わせたオーダーメイド治療を行っています。

当院における経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の件数

予防と心臓リハビリテーション

虚血性心疾患は、発症時の治療だけでなく、その後の再発予防や生活の質の維持・向上が重要です。
当院では、管理栄養士や看護師、理学療法士と連携し、食事・運動・生活習慣の改善を支援しています。心筋梗塞やカテーテル治療後の患者さんを対象に、心臓リハビリテーションを行い、安全な運動の方法や自己管理のポイントを指導しています。これにより、再発を防ぎつつ、安心して日常生活や社会復帰ができるようサポートしています。

文責:清水竹史

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