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研究成果情報・学会等表彰 (研究成果)

細胞内情報ネットワークの中心因子「NIRF」(ナーフ)を発見

「NIRFプロジェクト」チームリーダーを中心とする研究グループが
癌などのヒト疾患に関連する遺伝子を発見。
研究結果が米国科学雑誌「Cell Cycle」に掲載されました。

森  努 (もり・つとむ)
福島県立医科大学 看護学部
生命科学部門 准教授

 






 

 

 

 

 

研究グループ構成員 
森 努 (チームリーダー、福島県立医科大学看護学部生命科学部門准教授)、髙地 英夫(福島県病院事業管理者(前・福島県立医科大学理事長兼学長))、竹之下 誠一(福島県立医科大学副理事長)、 福島 俊彦(福島県立医科大学医学部器官制御外科学講座准教授)、池田大祐(東京大学大学院理学系研究科、現大塚製薬)

本学 看護学部 生命科学部門の森努准教授をリーダーとした研究グループは、細胞内情報制御ネットワークの中心因子NIRFを発見し、その異常が癌の原因となることを発見しました。
本研究成果は、米国の科学雑誌 『Cell Cycle』10月1日付(日本時間10月2日)で掲載されました。

概要

癌をはじめ、免疫疾患や神経疾患など、あらゆる疾患の発症には、細胞内情報制御ネットワークの機能異常が基盤をなしています。しかし、いかなる分子がネットワークを支配しているかは明らかではありませんでした。
このたび、本チームが発見した「NIRF」(ナーフ)が細胞内情報ネットワークの中心因であることが判明しました。
実際にNIRFの異常は、様々な癌の原因となっていると考えられました。

発表内容

細胞内の分子間ネットワークには、極めて多数の相互作用因子を持つHub(ハブ)と呼ばれるタンパクが少数存在し、ネットワーク全体の完全性と機能を保つ役目を果たしています。

細胞周期ネットワーク(細胞分裂を制御する分子間ネットワーク)は、多数の機能モジュール間の相互作用により構築されていますが、細胞増殖や分化、細胞死、老化など、広範な細胞機能を統括しています。
逆に細胞周期ネットワークの異常は、細胞機能の多岐にわたる障害から癌化をひき起こします。
しかし、モジュール相互の機能調整が、いかなるネットワーク構築と分子的基盤で支えられているのかは不明でした。

当チームが発見したNIRFは細胞周期停止を起こす分子ですが、複数のサイクリン、pRB、p53と相互作用すること、サイクリンD1とサイクリンE1を共にユビキチン化することが判明しました。
このNIRFが形成するネットワークの特性を、最新のシステムバイオロジーの理論に基づき解析したところ、NIRFは細胞周期ネットワークのみならず細胞内情報ネットワーク全体において、その階層的構造の頂点を占める分子であることと、多くの機能モジュールの間の調整に関与する分子(Intermodular Hub)であることが判明しました(下図1)。
注目すべきことに、Intermodular Hubは、発癌に関わる頻度が高いことが知られています。

実際、NIRF遺伝子は多くの癌で異常が生じていることが判明しました。
特に重要なのは、肺癌でNIRFを標的とする染色体異常が発見されたことです(下図2)。この異常は、大腸癌とも関連することが海外グループによって示唆され、NIRFと癌の関係はさらに確実なものとなりました。

以上の知見は、NIRFが細胞内情報制御ネットワークの中で中心的位置を占めるタンパクであることと、新規の癌抑制遺伝子であることを示しています。

図1 【NIRF Interaction Network】

細胞のあらゆる機能を統括する細胞周期ネットワークは,NIRFを頂点とした階層構造を成していることが判明した。NIRFの相互作用する因子[図中のpRB, p53, 複数のサイクリン (A2, B1, D1, E1), PCNAおよびHDAC1]は,いずれも癌をはじめとする多様な疾患の原因遺伝子である。NIRFはこれらの各因子が構築する機能モジュール同士をまとめる中心因子である。そしてNIRFの異常は,細胞内情報ネットワーク全体の構築と機能に異常をもたらすことによって,癌をはじめとした多様な疾患を引き起こす原因になるものと想定される。
図2 【肺癌で見られたNIRFの遺伝子異常】

細胞内情報ネットワークの中心因子として,NIRFがヒト癌の原因となることが予想されたが,実際にある種の肺癌(非小細胞癌)でNIRF遺伝子の異常(染色体の微小欠失)が起こっていることが判明した。これは,NIRFの遺伝子構造の異常が,肺癌の原因であることを示している。
図2はクリックすると拡大してご覧いただけます

この発見の意義

① ヒトゲノム解読後のマイルストーン
システムバイオロジー(Systems Biology) は、ゲノム情報が解読された後に急速に進歩してきた学問です。
とりわけ遺伝子同士の相互関係をコンピュータ上で再現する技術の進歩により、細胞内情報ネットワークの構築の特徴が判明してきています。

その結果、限られた少数の遺伝子が広範な細胞機能を制御するという著しい集中性、ネットワーク全体は部分ネットワークであるモジュールの組み合わせでできていること、さらに各モジュールが階層(ヒエラルキー)を形成していること、などが判明してきました。

当チームの初期解析から、NIRF(ナーフ)が階層構造の頂点に位置することが判明しました。その重要性は疾患への関与を容易に想定させるものであり、当チームはNIRFと疾患との関連を検討することにしました。

② NIRFは新規の癌抑制遺伝子である
現代医学の進歩を牽引してきたのは、p53やpRBのような癌抑制遺伝子と、サイクリンD1やサイクリンE1のような癌遺伝子の発見であり、これらの因子は一般的に広く知られています。
NIRFはこれらの有名な因子をはじめ、他の重要な因子の多くと相互作用をするという特徴を示しました。このような幅広い相互作用を示すHubタンパクが発見されたのは世界初です。
さらにNIRF自身が、新しく見いだされた癌抑制遺伝子であり、今後の医学進歩の起爆剤になると考えられます。

③ NIRFは福島で発見された遺伝子である
震災と原発事故以降、明るいニュースに乏しい日本。とりわけ被災地である福島の苦境には目を覆うばかりです。しかしNIRFは、この福島で発見され、世界の最新技術による解析を福島で受け、福島から世界に発信される重要な遺伝子です。復興に向けて大きな社会的起爆剤となることが期待されます。

④ NIRFが関連するのは癌ばかりではない
既に、有名な神経疾患であるハンチントン舞踏病との関連性を示唆する報告もなされており、ハンチントン舞踏病を治療するための薬剤標的となりうる可能性もあります。
NIRFの医学における重要性は、今後ますます明らかになると思われます。

その他公表準備中です。

用語解説

細胞周期
細胞分裂の過程のことで、多くの分子が作る複雑な相互作用ネットワークによって制御されている。

癌抑制遺伝子
癌細胞は無限増殖する性質がある。すなわち細胞周期を停止させられなくなる病気であり、細胞周期を停止させる遺伝子の中には、癌抑制遺伝子(発癌を防ぐ遺伝子)が含まれる。P53やpRBは代表的な癌抑制遺伝子であり、非常に有名である。

癌遺伝子
ある正常な遺伝子に異常をきたした際に、結果として細胞の癌化を促進するような遺伝子のこと。サイクリンD1やサイクリンE1は、きわめて有名な癌遺伝子である。

細胞内情報制御ネットワーク
細胞内の分子同士の相互作用により、情報処理されるシステムのこと。

システムバイオロジー
システム工学の理論や解析手法を生物学に導入し、生命現象をシステムとして大局的見地から理解することを目指す学問。

論文情報

NIRF constitutes a nodal point in the cell cycle network and is a candidate tumor suppressor Cell Cycle Volume 10, Issue 19 October 1, 2011, Pages 3284 - 3299.
Tsutomu Mori, Daisuke D. Ikeda, Toshihiko Fukushima, Seiichi Takenoshita and Hideo Kochi
[10月1日付(日本時間10月2日)でオンラインに掲載]

NIRFプロジェクトについて

「NIRFプロジェクト」は、NIRFの生物学的重要性に鑑み、NIRFの分子機能とヒト疾患との関連性を追求するための研究会として平成22年8月に立ち上げた共同研究チームです。
福島県立医科大学の医学部・看護学部のみならず、東京大学・九州大学・名古屋大学・埼玉医科大学・理化学研究所など日本の研究機関と、アメリカの大学の研究者、関連領域の研究者や学生など約50名から構成されています。
「NIRFプロジェクト」ホームページ www.nirf.jp

お問い合わせ先

福島県立医科大学 看護学部生命科学部門  准教授・ NIRFプロジェクト代表  森 努
〒960-1295 福島市光が丘1番地  研究室電話: 024-547-1871
メールは 「研究者データベース」 より送信可能です。

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