
- 栗田 宜明 (くりた・のりあき)
- 大学院医学研究科 臨床疫学分野 特任教授
- 研究グループ
- 柴垣有吾(聖マリアンナ医科大学病院)、祖父江理(香川大学医学部附属病院)、河原崎宏雄(帝京大学溝口病院)、戸井田達典(九州医療科学大学)、鈴木智(亀田総合病院)、西脇宏樹(昭和大学藤が丘病院)、浅野健一郎(倉敷中央病院)、寺脇博之(帝京ちば医療センター)、伊藤孝史(帝京ちば医療センター)、岡英明(松山赤十字病院)、永井恵(日立総合病院)、村上穣(佐久総合病院)、長井幸二郎(静岡県立総合病院)、小向大輔(川崎幸病院)、安達崇之(友愛医療センター)、古堅聡(深谷赤十字病院)、筒井貴朗(日高病院)、藤崎毅一郎(飯塚病院)、杉谷盛太(日本赤十字社和歌山医療センター)、志水英明(大同病院)、西野友哉(長崎大学病院)、朝田啓明(岡崎市民病院)、清水英樹(船橋市立医療センター)、塚本達雄(北野病院)、中屋来哉(岩手県立中央病院)、山田洋輔(相澤病院)、稲永亮平(新百合ヶ丘病院)、山田将平(日赤医療センター)、中西昌平(兵庫県立はりま姫路総合医療センター)、前田篤宏(前田病院)、山本真理(中部ろうさい病院)、平塩秀磨(広島西医療センター)、岡本岳史(名古屋掖済会病院)、中村隆行(JCHO二本松病院)、三好賢一(愛媛大学医学部附属病院)、門浩志(近江八幡総合医療センター)、戸田晋(宇治武田病院)、柴田茂(帝京大学医学部附属病院)、西桂子(おがわクリニック)、山本信(沖縄県立宮古病院)、長沼司(山梨県立中央病院)、座間味亮(琉球大学)、古庄正英(鹿児島医療センター)、宮里均(沖縄県立八重山病院)、田村幸大(徳洲会大隅鹿屋病院)、耒田善彦(沖縄県立中部病院)、普久原智里(ハートライフ病院)、上原圭太(那覇市立病院)、井上紘輔(高知記念病院)、瀧康洋(稲城市立病院)、中野信行(宇都宮腎内科皮膚科クリニック)、栗田宜明(福島県立医科大学大学院医学研究科臨床疫学分野)
概要
論文掲載雑誌:「Kidney International Reports」(2025年5月19日)
本研究では、全国49施設の腎臓専門外来に通院し、RRTをすでに選択済みのCKD患者475名を対象にアンケート調査を実施しました。調査項目には、SDMの認知状況、話し合いを希望するタイミング・頻度・内容、関与してほしい医療関係者、ならびにSDMが行われたと感じた背景因子(患者特性・施設特性など)が含まれ、多変量解析によってSDMの実施と関連する要因を評価しました。
調査結果によれば、SDMの概念を事前に「よく知っていた」患者は4.7%にすぎなかったにもかかわらず、81.2%が「RRTの選択においてSDMが行われた」と感じていました。患者が重要視した話し合いの内容は、「日常生活への影響」「経済的負担」「家族の意向・状況」であり、あとどれぐらい生きられるかといった情報や、RRTに伴うリスクの情報よりも、生活実感に近い情報でした。
さらに、RRT選択のための外来(看護師が参加し、30分以上の時間が確保された外来)への複数回の参加といった要因が、SDMが行われたと感じた回答と有意に関連していました(割合比1.59、95%信頼区間:1.05–2.42)。
また、患者の多くが、RRTの必要性が迫った段階(例えば6か月前)で、複数回にわたる相談を望んでおり、早期かつ一度限りの説明ではSDMを十分に果たせない可能性が示されました。
本研究では、CKDの患者がRRTを選択する場面において、「知らなかったが、結果的にSDMが行われていた」と感じているケースが多いという現状が明らかになりました。こうした“よく知られていないSDM”を、患者にとって実感しやすいものとするためには、対話の手順を分かりやすく示し、患者自身が納得して選択できるよう、適切なタイミングでSDMを開始することが求められます。さらに、患者の生活背景にも配慮した情報提供を行い、医療者との繰り返しの対話を重ねることで、より深い理解と納得が得られると考えられます。そのうえで、必要に応じて、かかりつけ医やソーシャルワーカーなど多職種の医療従事者が連携して関与できる体制の構築が重要です。
現在、RRTを選択する外来診療では、「腎代替療法指導管理料」として最大2回まで診療報酬が算定できますが、本研究は複数回にわたるSDMの重要性を示しており、2回以上の対話が必要であるという制度見直しの議論にも貢献する可能性があります。
本研究成果は、日本の慢性腎臓病診療の質向上に向けた重要な一歩となると考えられます。(栗田 宜明)
連絡先
公立大学法人福島県立医科大学 大学院医学研究科 臨床疫学分野
電話:大学代表024-547-1111(代)
分野ホームページ:https://noriaki-kurita.jp/