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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2010.03.12

vol.69  − 朝靄(あさもや) −

夜来の雨が上がり、早朝、高台にある大学の周りでは、真に、横山大観の「雨霽る(あめはる)」(足立美術館蔵)の風景が眼前に展開されます。
この風景は、孤城落日の心情を癒してくれます。大気には霞がかかり、潤いを持ち始めた大地が唄い始めているように感じられます。

一雨毎に春が近づいてきています。福島の地では、文字通り「梅一輪一輪ほどの暖かさ」(嵐雪)です。
「早春」という言葉は、今の時季が最も似合います。

浜松まで往復した時、車窓に次々と飛び込んでくる庭や山での紅梅や白梅、土手に群生している菜の花、丘陵で栽培されている蜜柑(ミカン)の木、そして点描のように咲いている満作(マンサク)が、地表に多彩な色を与えて、春の到来を告げています。
座って視る「静の風景」と異なり、眼前を流れる「動く景色」を芭蕉や蕪村ならどう切り取るだろうと考えていると、眼は既に何も視ておらず、心象風景を脳裡に描いています。

先日、医療人養成の学校の卒業式に出席しました。式の中で「仰げば尊し」と「蛍の光」が唄われました。
昨今の卒業式では、「君が代」と共に忘れ去られたと思っていただけに意外の感に打たれました。
しかも、それらが唄われていた時、卒業生の中からすすり泣きが聞こえました。
時代は変わっても、これらの唄への想いは世代を越えて共有されていることを再認識しました。

「何を見ても何かを思い出す」(ヘミングウェイ)、自分の小、中、高、そして大学の卒業式を想い出そうとしました。残念ながら式自体の記憶は全くなく、その前後での情景が少し浮かぶだけでした。
只、「桜の花ちりぢりにしも わかれ行く 遠きひとり と 君もなりなむ」(釈迢空)の淡い気持ちは直ぐ甦りました。

今週の花材は、執務室は山吹とカーネーションです。その色と姿形で春の息吹を感じさせてくれます。
秘書室は、水仙の黄色が主役です。緑の葉で基礎を作って造形と色の組み合わせの美を演出しています。

(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)

今週の花


【理事長室】
■山吹   バラ科/落葉低木/原産:日本・中国/万葉の時代から春の花として日本人に親しまれた植物。花の色が黄色を表す代表的な色名(山吹色)。しなやかな枝が山で風に揺れている姿を表現した「山振(やまぶり)」とも呼ばれる。八重山吹もあるが、八重咲きは実がならない。
■カーネーション(セイシェル)   ナデシコ科/多年草/原産:地中海沿岸/母の日に贈る花として長く親しまれる。パステル〜ビビッドまで幅広い色合いがあり、覆色も多く品種が豊富。花持ちが良く、菊やバラと並び世界的に需要が多い。江戸時代にオランダから渡来し「オランダセキチク」と呼ばれていた。セイシェルは蛍光がかったライムグリーン色。
※拡大写真http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/69_zoom1.jpg
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【秘書室】
■大杯水仙(フォーチュン)   ヒガンバナ科/球根植物/原産:地中海沿岸/大杯水仙は一茎一花で、副花冠が花被片(花弁)の1/3以上で花被片より小さいもの。フォーチュンは副花冠が橙色、花被片が黄色。日本水仙などと異なり、存在感のある大きな花が特徴。水仙は25000種以上あり、花型などにより12系統に分類される。大杯水仙の他、ラッパ水仙・小杯水仙・房咲水仙など。
■タニワタリ   チャセンシダ科/常緑シダ植物/原産:熱帯アジア/葉の縁が波打つのが特徴のグリーン。日本南部の樹林にも自生し、樹上や岩上などに着生するシダ。丸める、裂く、折るなど、形状を変えて生けたり、花器の中で花止めとして利用できる。
※拡大写真http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/69_zoom2.jpg
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