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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2017.02.24

vol.404  − 拓 (ひらく) −

二十四節気では雨水(うすい)、雪は雨となります。
只、風は尚(なお)冷たく、木々の芽吹き(めぶき)には少し間があります。

この時季に降る雨は、“寒明け”(かんあけ)の雨で、冷たい雨です。春時雨(はるしぐれ)もこの時季です。
北国では、この時季の雨を“雪解雨”(ゆきげあめ)、あるいは“雪消しの雨”(ゆきけしのあめ)と言い、春を告げる徴(しるし)です。

2月(如月・きさらぎ)は、新春の1月(睦月・むつき)と陽春の3月(弥生・やよい)に挟まれて、短いこともあり、肩身の狭い、目立たない月です。己はそんな2月が好きです。

         冬の梅きのふやちりぬ石の上
                           与謝蕪村(よさ・ぶそん)

梅の花を辞世の句に入れた程、梅の花を愛した蕪村です。
長かった冬の終わりと春の訪れを告げている情景を歌っています。

先月、夜更け(よふけ)、解けた雪が水滴となって屋根や敷石を打っていました。
その音が却(かえ)って静けさを際立たせます。
そんななか、書き物をしたり、調べ物をしていると様々な記憶が甦(よみがえ)ってきます。その度に手が止まり、追憶(ついおく)に耽(ふけ)ってしまいます。気が付けば心まで深閑(しんかん)としています。

馬齢(ばれい)を重ねると、思い出したくないこともたくさんあります。
どうにかなるわけでもありませんが、後悔が胸を過(よぎ)ります。勿論(もちろん)、“やり直したい”とは思いません。しかし、“人生はやり直すことが出来ない”という哀しみが胸の裡(うち)を過ります。

父や母、恩師、仕事仲間、そして患者さんの多くはとうに逝(ゆ)き、この世には居ません。
それを思う時、あの時の時間は、次の時間では消えて無くなっていて、二度と戻らないということを改めて気付かされます。若い時はそこまで思いが至りませんでした。

次の時代を担う人々には“運命”なんていう言葉で己の人生を決めて欲しくありません。
新幹線の指定席のような、“確約された未来”など、誰にも無いのですから。

どんなに辛く、悲しく、遣る瀬無い(やるせない)ことがあっても、時を重ねると自らが成長し、周りも変わり、大抵のことは乗り越えられるものです。
只、その“時”は、5年、10年という“長い歳月”です。人間(ヒト)が自ら(みずから)を変え、“大人”(たいじん)になるにはその位の時間が掛かります。

そんな人生で支えになるのは、“出逢い”という人の輪と“未来”という時間軸です。
人間は独りでは生きてはいけません。

人生には限りがあり、一人の人間の他人との巡り合いは、そんなに広いものではありません。
限りある時間のなかで、側に居る、或いは巡り合った人々との関わりのなかで人生は終わってしまいます。

短い時を生きていくなかで、“罪”や“後悔”を持っていない人間なんて居ません。
みんな、心に傷を負い、限界だらけのなかで生きているのです。

人間にはどう努力してもどうにもならないことがあります。
“途方に暮れた時は、目の前の小さな事から取り組む”ことです。

“完璧じゃないのが世の中”です。毎日、小さな厄介事(やっかいごと)が起きます。そんな時は、“一寸(いっすん)延びれば尋(ひろ)延びる”です。
当座(とうざ)を何とか切り抜ければ、何とかなるものです。

苦しみや悩みから新しい何かが生まれるのです。
異なる文化の衝突が新しい文化を産むように。

“生きる”ということは、目の前の問題を避けて、やり過ごすことではありません。
愚直(ぐちょく)に立ち向かうことです。暮らすということは、時を継(つ)なぐことでもあるのですから。

今週の花材、花器とも、秘書室と執務室で、暖色系と寒色系、対照的です。



(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)


今週の花


【理事長室】
■カラー〔ウェディングマーチ〕
サトイモ科/球根植物/江戸時代にオランダか
ら渡来。“オランダから来た芋”を意味する「阿蘭
陀海芋」(オランダカイウ)の別名をもつ。花弁の
ようなメガホン状の部分は苞で、 その中に棒状
の花序がある。
■雪柳   バラ科/落葉低木/春に小さな白
い小花を枝いっぱいに咲かせる。淡いピンク色
の花を付ける「紅花雪柳」(ベニバナユキヤナギ)
もある。
■ブルースター    ガガイモ科/多年草/淡
い水色の5枚花弁が星のように開花。花はベル
ベットのような質感で、 葉は産毛に覆われてい
る。 色違いで「ピンクスター」「ホワイトスター」
もある。
■モカラ〔ブルームーン〕    ラン科/バンダ・
アラクニス・アスコケントルムの3種の蘭を交配
した人工種。鮮やかな花色が豊富な南国の花。
「ブルームーン」は青紫色。
■バンクシア〔プリオノート〕   ヤマモガシ科/
常緑低高木/ オーストラリア原産のネイティブ
フラワー。 球状〜円筒状のブラシのような花序
を持ち、独特の形と存在感が魅力。花持ちが良
く、そのままドライフラワーにもなる。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/4041.jpg

【秘書室】
■ゼンマイ   ゼンマイ科/シダ植物/《名前の由来》若芽の丸まっている
姿を小銭に見立てた「銭巻」 (ぜにまき)から/おもちゃ時計の 「ゼンマイ仕
掛け」の語源。胞子を飛ばすために伸びる「胞子葉」(ほうしよう)と通常の葉
「栄養葉」(えいようよう)がある。山菜として食用になるのは栄養葉の若芽。
■カーネーション〔オーロラオレンジ〕   ナデシコ科/多年草/母の日の花
として古くから親しまれ、世界的に生産量が多い主要花。「オーロラオレンジ」
は淡い黄色地に淡いオレンジが覆輪状に入る希少色。
■ラナンキュラス   キンポウゲ科/球根植物/薄く柔らかい花弁が幾重
にも重なるのが特徴。 花色が豊富で、花径13cm以上にもなる大輪品種も
ある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/4042.jpg

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