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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2017.01.13

vol.398  − 通 (かよう) −

抜けるような青空に風に乗って雪が舞っています。風花(かざはな)です。

         風花の御空のあをさまさりける
                            石橋秀野(いしばし・ひでの)

冬晴れの青と雪の白との対比が目に鮮やかです。
晩秋の時雨(しぐれ)と同様、信夫の里でよくみられる風景です。

この時季、朝霧や朝靄(あさもや)が発生しています。
大気に含まれている水蒸気が、気温が低下することにより凝結して発生します。1km以上見渡せるのが靄(もや)とされています。幻想的です。道往(ゆ)く人々の心を穏やかなものにしてくれます。

ここ信夫の里でも冬囲い(ふゆがこい)をします。庭木を、縄、竹、木材を使って囲いをすることを言います。
元々は、寒い地域で、寒さから樹木を守ることが起源です。
その佇まいの美しさから、今や、冬の風物詩です。冬囲いのなかでも、雪吊(ゆきつり)は、よく知られています。
主に竹を使った柱を木の幹の側に立てて、立てた柱の先端から木の枝へ放射状に縄を張ります。庭師さん達の流れる様(よう)な淀(よど)み無い仕事振り、プロです。

この時季の新幹線からの眺(なが)め、富士山は“日替わりの富士”です。夕暮れ時、陽(ひ)が山や雲海に隠れたその時、その光を背後から浴びて“赤富士”です。刻々と変わり、墨絵と化していきます。

映画“素晴らしき哉(かな)、人生!”は、アメリカ映画の古典です。
公開されて70年以上、それでも毎年、年末になると、国内外で、放映されています。このリメーク版も映画やテレビで作られています。映像プロの人材を育成する教材にもなっているそうです。

この映画、込み入った仕掛けも筋もありません。人々に今も広く迎え入れられている理由は、何なのでしょうか。
恐らく、国や民族を越えて共感できる伝言(メッセージ)が映画のなかに含まれている筈(はず)です。

以下、己の独断です。
一つは、どんな人間にも、生きていて欲しい、側に居て欲しいと思ってくれている人間がきっと居る筈だという人々の想い(希望、望み)です。
もう一つは、最後の場面の言葉です。
“友ある者は敗残者ではない”。(Remember no man is a failure who has friends.)

世代を越えて伝えられてきたモノやコトには、それなりの理由や根拠があります。
一方、そう思われてきた理由が全く違っていることもあります。
現代からみれば合理的でない、思ってもみなかったことにより、結果的に、今に伝えられていることが少なくないのです。それは、科学や技術の発達により近代化、合理化の名のもとに置き忘れてきたものです。

“歴史は後世を忘却から保護する”(山内昌之)という箴言(しんげん)があります。
歴史を丁寧に拾っていくと、合理的でない事が連綿(れんめん)と続いていることが多いことに気付きます。
それを非合理的と全否定しても始まりません。歴史として今に伝えられてきているモノやコトには、現代の合理的考えからは程遠いことが多くあります(梅棹忠夫(うめさお・ただお))。
合理性ばかり追求すると、大切なモノやコトが落ちこぼれてしまうこともあるのかも知れません。

只々、“懐かしさ”に身を委(ゆだ)ねたくて向井潤吉(むかい・じゅんきち)アトリエ館を訪れてみました。
戦後、その半生(はんせい)をかけて、当時、全国にまだ残っていた草屋根の民家のある風景を追い続けた画家です。
彼の絵画に遺(のこ)されている風景は、戦後、急激な復興と成長とともに失ってしまいました。奥会津の地で勤務していた時期、確かに、周りに残っていた風景です。彼の絵から、人々の暮らしまでもが想像できます。
民家の佇(たたず)まいは変わりました。しかし、その背景を構成していた風景は今も健在です。

今週の花材は、両室とも“高貴な優しさ”を感じさせます。



(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)


今週の花


【理事長室】
■カラー〔ウェディングマーチ〕   サトイモ科/球根植物/江戸時代にオラン
ダから渡来。“オランダから来た芋”を意味する「阿蘭陀海芋」(オランダカイウ)
の別名を持つ。花弁のようなメガホン状の部分は苞で、その中に棒状の花序が
ある。
■アカシア〔銀葉アカシア〕   マメ科/常緑小高木/オーストラリア原産で熱
帯亜熱帯地域に1200種が分布。やせ地でも良く育つため、温暖な地域では街
路樹に利用される。シルバーの葉と枝垂れる枝いっぱいに咲く花が魅力。花期
は3〜4月頃で、黄色い球形花がたくさん咲く。
■テマリ草〔グリーンボール〕   ナデシコ科/多年草/マリモや芝を連想させ
る個性的な花。フサフサした部分は、花・雄しべ・雌しべが変化したもの。「グリー
ンボール」は南米で生産された品種で、通常のテマリ草よりも大きい。
■トルコギキョウ〔アンバーダブルミント〕   リンドウ科/多年草/花の大きさ
や咲き方、色合いなどが多岐にわたり品種がとても豊富。 「アンバー」シリーズ
は花弁が厚く、蝋細工のような独特の質感の品種。 他品種に比べ、花傷みが
少なく長く楽しめる。
■チランジア〔イオナンタ〕   ブロメリア科/近年「エアプランツ」の呼び名で人
気のグリーン。中南米を中心に約600種以上。樹木などに着生し、葉や根から
水を吸収して育つ。土が要らず、好きな所に飾って楽しめる。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3981.jpg

【秘書室】
■ラークスパー〔ハンナピンク〕   キンポウゲ科/一年草/デルフィニュウ
ムの仲間。 花姿はデルフィニュウムジャイアント系を一回り小さくした可憐な
印象。線状の葉を持ち、スッと伸びた花茎に穂状に花を咲かせる。「ハンナピ
ンク」は淡いピンク色。
■ラナンキュラス   キンポウゲ科/球根植物/《名前の由来》ラテン語の
「蛙」に由来。蛙の生息する湿地に好んで咲くことから/薄く柔らかい花弁が
幾重にもかさなるのが特徴。 バラのような花姿で、大輪種はバラやトルコギ
キョウをも凌(しの)ぐ華やかさ。
■スイートピー   マメ科/一年草/チューリップ・フリージアと並ぶ春の代
表花。一つひとつの花が蝶のような形で、甘い香りを放つ。花色が豊富で、
パステル〜ビビッド系、複色などもある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3982.jpg

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