

令和4年度学位記授与式(卒業式) 学長式辞 (令和5年3月24日)



本日ここに学位を授与された、大学院生40名、学部生206名の諸君に、福島県立医科大学の教職員を代表して、心からお祝いを申し上げます。そして、学生生活の大半をコロナ禍の中で過ごすことを強いられ、多くの制限がある中で修学された諸君に深く敬意を表します。併せて、本日の学位記授与式を迎えるまで、ご家族、および関係者の皆様よりいただいた数多くのご支援に対し、厚く御礼を申し上げます。
今日より皆さんは、社会から医学、医療のプロフェッショナルという扱いを受けることになります。今日を境に、諸君は私たちと同じ医療人の一員です。ようこそ、医の世界へ。そして、少し長くこの世界に身を置いた先輩として諸君に心に刻んで欲しいことがいくつかあります。
その一つが「学ぶことをやめてはならない」ということです。いうまでもなく、医学、医療にかかる知識も技術も、日々更新されています。大学の教育課程にいたこれまでは、それらが与えられる学びでしたが、これからは自らがその動向を注視し、把握し、習得するために能動的に行動しなければなりません。常に問題意識を持っていなければできないことです。研究を継続する人も、医療の現場に出る人も、医学や医療に携わるうえで必要な課題を自ら見出し、その課題を解決するための終わりのない知の探究が始まります。言い換えれば、学ぶことをやめる時は、プロフェッショナルとしての資格を放棄する時なのです。医の道を選んだ諸君にとって、学び続けることは宿命であると覚悟してください。
心に刻んで欲しいことの二つ目は、「医学、医療は、社会に安心と安定をもたらす」ということです。この事は、医療の提供が充実している日本では、あまり実感することがないかもしれません。しかし、原発事故後の避難指示が解除された地域において、帰還を検討する県民の皆さんが抱える不安に、常に医療体制の充実が挙げられることからも、そのことは理解できると思います。福島県においても多くの医療人が、今も浜通りの医療体制の整備に携わっています。充実した医療体制と滞りない医療の提供は、政策だけの問題ではなく、医療人にとっても常に意識しておかなくてはならない課題なのです。特に福島県の復興に携わり続けて行くことを使命とした本学で学び、医のプロフェッショナルとなる諸君は、医療人の意識と努力が社会全体の安心と安定に強く関与することを忘れないでください。
心に刻んでおいて欲しいことの3つ目は「常に世界を意識し、地球的視野に立つ」ということです。何を陳腐な、と中には笑う人もいるかもしれません。風呂敷を広げるな、とあきれる人もいるかもしれません。優先すべき、意識すべきは地域である、と顔をしかめる人もいるかもしれません。しかし、これまで私たちの身の回りに起きている変化を冷静に見てください。
例えば感染症に関しては、21世紀になってからだけでも、新型コロナウイルス感染症に限らず、SARS、新型インフルエンザ、MERSなど、複数の国をまたいだパンデミックが何度も矢継ぎ早に起きています。大規模な自然災害の発生や、ロシアとウクライナの戦争なども加えれば、昨今の変化はいずれも世界のどこかで生じたことは、瞬く間に日本にも影響を及ぼし、しかも人類の存続を危険にさらす大きなリスクを伴っていることが分かると思います。人類にとって地球は相対的に狭くなっているのです。そのような時代に、地球的視野なしに、これからの医学と医療の最新トレンドを見通すことはできません。そして、新型コロナへの対応を振り返れば、世界の動きを意識せずして、地域における充実した医療の提供など出来るはずもないことは諸君も理解できると思います。今後、世界に活躍の場を求めようとも、市町村の医療や保健に携わろうとも、意識の中に「世界」があるのとないのとでは、身につけるスキルに大きな違いが生じます。医学も医療ニーズも、常に世界のどこかで何かが変わっています。それらをいち早く把握し、地域に還元できてこそ、地域に根差した医科大学の出身者としての面目躍如といえるでしょう。
いうまでもなく「学び続けること」も「社会の安心と安定の機能を果たすこと」も「世界を意識し地球的視点に立つこと」も相互に強く関連しあっています。私たちは医療に従事する以上、常に世界と社会とつながっているのです。世界に対して自らをアピールすることも重要ですが、同時に世界から最新の知見を集め、自らの使命に応用し、地域に還元することで、トップクラスの充実した医療の提供が可能な医療人であり続けること。 これから本学を母校とする諸君が、いかなる場に身を置こうとも、この循環を常に意識して医療に携わることを強く願い、はなむけの言葉といたします。
令和5年3月24日
福島県立医科大学
学長 竹之下 誠一
事務担当 : 教育研修支援課
学生総務係 : 電話 024-547-1972
FAX 024-547-1984
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