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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2016.10.21

vol.387  − 衝 (つく) −

朝焼けと月がきれいな時季です。
早朝、西の山々や雲が茜色(あかねいろ)に染まっています。澄んだ大気の下、澄明度の高い蒼(あお)い空がそれを引き立てています。

冷気が朝晩、大地を覆ってくるようになりました。
家々の屋根に宿っている光の粒が輝いています。
朝陽のなかで庭木や草の朝露(あさつゆ)も水晶のように光っています。
この冷気が、心にまで沁み入り、寂しさを感じます。真に“身に入む(しむ)”です。

         山颪(やまおろし)いのちの秋というなかれ
         過ぎゆきし河すぎゆきし女(ひと)
                                   福島泰樹(ふくしま・やすき)

命の秋にはまだ早すぎる。しかし、何もかもが過ぎてゆく。
人間(ヒト)は秋を迎えると詠嘆(えいたん)を抑え切れなくなります。

椋鳥(ムクドリ)が街路樹に集まり騒ぐ時季でもあります。
畑には里芋の葉が陽射しを受けるように天に向かって開いています。

この時季の月の美しさに就(つ)いて多くの歌人が詠んでいます。
         (vol.334 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=373
夜、漆黒に近い蒼(あお)色の夜空を背景に、黄金色(こがねいろ)の月、早朝は青空を背に白銀(しろがね)の月、琳派の絵です。

東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故は、本学に新たな歴史的使命を課しました。
それは、未だ誰も経験したことのない、長く、厳しい斗い(たたかい)です。

使命の一つは、県民の健康を長期に渡り見守るという取り組みです。
もう一つは、原発事故で避難を余儀なくされた地域に帰還する住民の方々、廃炉作業に従事している人々、作業に伴う事故や交通事故に備えた医療体制を創っていくという仕事です。
どちらも、国内は勿論、海外にも、参考になる前例はありません。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」との箴言(しんげん)があります。
この場合、己の経験は言わずもがな、歴史を鑑(かがみ)とすることもできません。
頼れるのは、人間に対しての洞察を記した古人の知恵です。

“常識的”という言葉が良く聞かれます。只、己には“無難に”という響きを含んでいることを時に感じます。
“正しい”という“微妙な意味合い”もあります。
恐らく、前例の無い取り組みには前例の無い策、他人がみれば無謀に思えることをしなければならない筈(はず)です。当然、賛成する人間は少ないか、一人もいません。“危ない橋は渡らない”というのは、平時の感覚から言えば当然です。
“途方に暮れた時は、目の前の小さな事から、一つずつ成し遂げる”しかありません。

振り返ってみれば、一個人、組織にも同じことが言えます。絶えず見直し(振り返り)をしないと、いつの間にか、事勿れ(ことなかれ)主義に陥ってしまいます。
“繁栄を続けたいなら、変わらなければならない”(vol.176、384)は、一面の真実です。
         (vol.176 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=210
         (vol.384 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=425

勿論、一方で“愚直なる継続”は、何事かを成し遂げるには必須です。
       〔学長からの手紙〕
         (No.39 http://www.fmu.ac.jp/univ/daigaku/letter/039.html
         (No.209 http://www.fmu.ac.jp/univ/daigaku/letter/209.html
         (No.214 http://www.fmu.ac.jp/univ/daigaku/letter/214.html
         (No.215 http://www.fmu.ac.jp/univ/daigaku/letter/215.html
         (No.221 http://www.fmu.ac.jp/univ/daigaku/letter/221.html
         (No.224 http://www.fmu.ac.jp/univ/daigaku/letter/224.html
己の様な凡人に出来る唯一の才能だからです。

英国の政治家は、エドモンド・バークの言葉を演説でしばしば引用します。
“安定している社会でもそれを維持するには定期的な改革が必要”とのことです。 (フィナンシャルタイムズ 2016.10.6  日経新聞2016.10.7翻訳)
これは個人の仕事や組織の運営にも当て嵌(は)まります。

何かをゼロから立ち上げる、或いは抜本的に変えるには、人生を賭けた覚悟と気力の持続、巌(いわ)に爪を立てるような努力と耐える心が求められます。
そのような直向き(ひたむき)さが、人間(ヒト)の心を衝(つ)き、組織や世間を動かします。

“意志あるところに道あり”、“人生で配られたカードが悪いと愚痴をこぼしてはならない”のです。
只、途方に暮れる時があります。

今週の花材は、秋の夕陽がつくった日溜り(ひだまり)を思わせる佇まいです。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■風船唐綿(フウセントウワタ)
ガガイモ科/一年草/花期は夏で小さな白い
花が咲く。 トゲトゲした紙風船のような実を鑑
賞。晩秋に実が熟すとパカッと割れて綿毛と種
子が現れる。
■ノバラ   バラ科/落葉低木/沖縄以外の
日本各地の山野に自生。花期は5〜7月で、2
cm程の小さな白い花が咲く。花後は青実にな
り、秋になるにつれ赤く色付く。
■フォックスフェイス     ナス科/《名前の由
来》キツネの顔に似た実をつけることから /1
本に20〜30個の独特な形の実をつける。 水
につけなくても1ヵ月以上楽しめる。
■紅ナス   ナス科/一年草/観賞用ナスの
一種。紅ナスはプチトマトのような実をつける。
■ピンポン菊  キク科/多年草/ピンポン玉
のように真ん丸に咲く可愛い菊。一般的な菊と
異なり、お供え用だけでなくお祝い用にも人気。
■ドラセナ〔コーディラインレッドエッジ〕
リュウゼツラン科/ 日本で流通する観葉植物
の代表種。以前分類されていたドラセナの名で
流通するが本来は“コルジリネ”。「レッドエッジ」
は細葉で赤色の斑が入る。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3871.jpg

【秘書室】
■ノバラ   (理事長室と同花材)
■アンスリュウム〔ピンクシフォン〕   サトイモ科/常緑多年草
/ろう細工のような光沢があり、造花と見間違うような花。 花弁
のように見える部分は苞で、棒状の部分が花。「ピンクシフォン」
は苞・花序ともにピンク色の品種。
■カーネーション〔ノビオバーガンディ〕   ナデシコ科/多年草
/菊・バラと並び世界的に生産量が多い主要花。「ノビオ」シリー
ズはボルドーや紫を基調とした覆輪が綺麗な品種。
■ポリシャス   ウコギ科/常緑低高木/アジア・アフリカ・オー
ストラリア等の熱帯に約100種が自生。 品種により葉形や葉色
が異なる。刈込に強く熱帯地域では垣根にも利用。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3872.jpg

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