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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2017.01.06

vol.397  − 讃 (たたえる) −

新しい年が巡ってきました。
明治維新、大東亜戦争、そして戦後の高度成長期で、伝統行事の多くが見捨てられてきました。
只、生者の為の正月は、亡くなった人々の為のお盆とともに、今も尚、脈々と受け継がれています。

世の中は、伝統への回帰で、二十四節気が見直されています。
今は、冬の長さが一年で最も長い冬至(とうじ)から、寒さも本格的になる小寒(しょうかん)です。

和菓子屋さんのガラス戸に貼り出されるお菓子の案内から初春を実感します。
真白な半紙(はんし)に、餅や干支(えと)に因(ちな)んだ季節の菓子の名前が書き込まれています。今や数少ない、季節を知らせる風物詩の一つです。

         何となく今年はよい事あるごとし
         元日の朝晴れて風なし
                             石川啄木

作者の生涯を知る今の人間には、痛々しく感じられる歌です。

東日本大震災に伴う、福島第一原子力発電所の事故により、本県は未曾有(みぞう)の惨禍(さんか)を被(こうむ)りました。
あれから6年弱、事故発生から今に至るまで、本学は医療の最前線に立ち続けて今に至っています。

事故から1週間、“今日の午後零時までに水道の供給再開がなければ撤退”と決めていた時刻の1時間前、ようやく再開されました。関係者の支援を得て、全職員が一丸になって、瀬戸際で踏ん張った1週間でした。

その働き振りは、歴史の評価を待つしかありません。只、“やれる事は全てやった”と言い切ることが出来ます。
“行蔵(こうぞう)は我に存す、毀誉(きよ)は他人の主張”(勝海舟)です。

長期に渡って県民の健康を見守る砦(とりで)が、昨年末、構内に出来上がりました。
市内に分散して仕事をしていた職員が1ヵ所に集まることが出来ました。“地理的な距離は、心の距離に比例する”、この危惧が、解消されます。
構想から完成まで5年弱、よくぞここまでという想いがあり、万感胸に迫るモノがあります。

この事故が改めて教えてくれたことがあります。
一つは、“人間は未来がみえないことよりも、過去が失われてしまうことの方が耐え難(がた)い”という事実です。強制的に避難を余儀なくされた人々は、自ら積み上げてきた過去を、一瞬にして、奪われたのです。

もう一つは、身近にある大切なことには、それがなくなってしまうまで、仲々気付かないことです。失って初めて、人間(ヒト)はその存在の大きさに気付くのです。

語っても伝わらないものを抱えて生きている生き物が、人間です。
人間には言葉や文字では表現出来ない感情があるのです。
         (vol.22 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=39
だからこそ、“察する気持ち”が必要なのです。語るのではなく、只、側に居ることが大切な場合もあるのです。
それが叶わないなら、せめて想うだけでも。

我々は、宝くじが当たるような人生に居る訳ではありません。
人間は皆、“外れ籤” (はずれくじ)を引いているのです。例え“外れ”の人生でも歩み続けるしかありません。
“それでも人は生きていく”ではなく、“そうして人は生きていく”(桜木紫乃)のです。

原発事故後、県民の大多数は踏み留まり、今も懸命に各々(おのおの)に求められる役割を務め続けています。
福島の地に踏み留まり、そこで生きている人間に、今、求められている事があります。それは、次の世代が活躍できる為の“受け皿”を作ることです。人材育成です。

人材育成は、国の責任でもあります。しかし、地元の福島の人々が自ら汗をかいて努力しない限り、他者は誰も助けてはくれません。我々が懸命に努力している姿をみて、他人が助けて下さるのです。

我々の真価が問われるのは、むしろこれからなのです。

今週の花材は、真(まさ)に“初春”です。華やぎと可憐(かれん)さが印象的です。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■マツ〔枝付門松〕   マツ科/常緑で冬でも
青々していることから長寿の象徴とされる。 黒
松(クロマツ)の実生苗(みしょうなえ)を密集さ
せ、 年月をかけて徒長(とちょう)させたものが
「若松」、さらに年月が経ち太いものを「門松」、
若く側枝(そくし)の無いものを「からげ松」と呼
ぶ。今回は枝が多く付き2m50cm超の大ぶり
な門松をカットして使用。
■センリョウ   センリョウ科/“千両”という縁
起の良い名前と、不浄なものを清めると言われ
る赤実から、お正月飾りに欠かせない花材とさ
れる。黄色い実をつける黄実千両(キミノセンリ
ョウ)もある。
■OHユリ〔モンサノ〕   ユリ科/球根植物/
優雅な花姿と芳香が特徴のオリエンタルハイブ
リッド(OH)種。 一番認知度の高い「カサブラン
カ」も同じOH種。「モンサノ」はピンク色。
■キク〔糸菊〕(イトギク)   キク科/多年草/
通常の菊と異なり、管状の細い花弁が特徴。
可憐な花弁が、花火のように放射状に開花す
る。大輪に開花した姿は存在感があり魅力的
な菊。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3971.jpg

【秘書室】
■ウメ〔冬至梅〕(トウジバイ)   バラ科/落葉小高木/中国渡来種の他、
品種改良により300種以上ある。観賞用の花梅(ハナウメ)と、実の採取を
目的とした実梅(ミウメ)に分かれる。「冬至梅」は冬至の頃に開花する白色
の早咲き種。
■スイセン〔日本水仙〕(ニホンズイセン)   ヒガンバナ科/球根植物/
とても良い香りを放つ春の花。早咲き種、遅咲き種など多品種あり、12月〜
4月頃まで楽しめる。 「日本水仙」は12月頃から咲き始める早咲き種で、お
正月飾りにも人気。
■アンスリュウム〔スパイス〕   サトイモ科/常緑多年草/ろう細工のよう
な光沢があり造花と見間違うような花。花弁のようにみえる団扇状の部分は
苞で、棒状の部分が花序。「スパイス」は赤と緑の複色。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3972.jpg

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