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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2010.01.15

vol.62  − 冬の華 −

深夜に雪が舞うことがあっても積雪のない冬がこのところ続いています。福島に赴任した当初は、ひと冬に4〜5回は深夜に帰宅してから隣3尺を含めて約1時間、雪かきをしていたのが嘘のようです。
構内の仕切りをしている生垣の寒椿が、夜明け前の薄暗さの中、必死に生命の主張をしているかのような姿が痛々しく感じられる早朝の寒さです。

この季節、「雪舞い」をみていると想い出す歌があります。
一つは、中城ふみ子の
    冬の皺よせいる海よ今少し生きて己れの無惨を見むか
もう一つは、宮田美乃里の
    なぜわれは生きねばならぬと白鳥に尋ねてみても冬の海鳴り
です。
どちらの歌も乳癌に散った女流歌人によるものです。
前者は、渡辺淳一の「冬の花火」に取り上げられました。今、彼女の歌は「新編 中城ふみ子歌集」(平凡社ライブラリー)でみることができます。表紙カバーの絵は田中恭吉の「焦心」です。
後者は、森村誠一が「魂の切影」で彼女の生涯を描いています。カバー装画は加山又造の「花」です。過酷な運命を辿った二人の歌人が、魂の絶唱としか表現しようのない歌を詠んでいます。死を宣告された人間の心の揺れと叫びに、立ち尽くしてしまいます。

私は、二人の存在を、京都セラミック(現京セラ)を稲盛和夫氏と一緒に立ち上げた伊藤謙介氏の書評から知りました。それ以降、氏の本の紹介は注意してみています。伊藤氏の著書である「心に吹く風」も読んでみました。氏は出身地である岡山県に、寄附して「I氏賞」を設立しています。
氏の哲学に、「企業経営者にも芸術家にも鋭い感性が必要である」、があります。このことは、医療従事者にもそのまま当て嵌まるのではないでしょうか。一度、医学生や若手医師達に語りかけてもらいたい人の一人です。

雪といえば白です。
白色というと、初期のモーリス・ユトリロの寂寥感の漂う白(石膏や砂を混ぜて作成したといわれています)、藤田嗣治の白磁を思わせる白(貧しさのために卵の殻を使ってあの色を創ったという伝説がある、と聞いたことがあります)、そして貧しさ故に生み出されたという李朝白磁の白が頭に浮かびます。
と同時に、先日長門市(旧三隈町)を再訪して、香月泰男のシベリアシリーズ、そして絶筆となった「雪の海」や「雪の朝」の黒(木炭を使って創ったという)も脳裡を過ぎりました。雪が自然の造化だとすれば、絵の中に創られた色彩は、人が到達した造形の極致なのでしょう。
(関連記事vol.22 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=39

今週の花材は水仙です。寒空に屹立している立ち姿は緑の鮮烈さと相俟って、人間の心の有り様を示しています。水仙の香りが部屋の中でほのかに感じられ、気負っている心を静めてくれます。
秘書室は、アネモネが多彩な色で部屋に明るさと清々しさを演出してくれています。

(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)

今週の花


【理事長室】
■水仙(日本水仙)
ヒガンバナ科/球根植物/原産:地中海沿岸/別名「雪中花」
/早咲き種、遅咲き種など多品種あり、12月〜4月頃まで楽し
める。「日本水仙」は早咲き種で12月頃から咲き始め、お正月
飾りにも利用される。とても良い香りを放つ春の花。中国を経て
到来。
■オクラレルカ
アヤメ科/原産:トルコ/剣のように先の尖った長い葉。シャー
プなラインで勢いがあり、生け花によく利用される。グリーンとし
て葉だけが流通しているが、アイリスの一種で、これに似た紫
色の花が咲く。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/62_zoom1.jpg
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【秘書室】
■アネモネ(モナリザ)
キンポウゲ科/球根植物/原産:地中海沿岸/別名
「牡丹一華」「花一華」/一茎に一花、大輪の花を咲か
せる。モナリザシリーズは大輪一重咲きの園芸品種
で、花色が豊富。チューリップなどと同じく、明るいと開
花し暗くなると閉じる。
■ブプレリュウム
セリ科/一年草/原産:ヨーロッパ・中央アジア/
清々しさを感じる鮮やかな緑色の葉。主にグリーンとし
て扱っているが、良く見ると黄色い小さな花が咲く。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/62_zoom2.jpg
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