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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2009.12.04

vol.57  − 師走 −

毎週、淡々と書き繋いできた花だよりも、今年最後の月に入ってしまいました。
本号は57号、「凡人の至上の哲学」として信じている「愚直なる継続」を胸に秘めての到達点です。

敬愛するスタッフ達と会食の機会を持ちました。感謝の気持ちとして、露地の生垣の山茶花(サザンカ)を引き継ぐように、玄関にベトナム産の素焼きの壺に寒木瓜(カンボケ)と椿を投げ入れてみました。手洗いには李朝の小壺に野水仙を活けておきました。私に出来る精一杯の持て成しです。

先夜、仕事で、高速道路で福島を出ようとしていたところ、思い掛けず幻想的な光景に出会いました。
すり鉢の底に位置している福島市内から峠を登っていたら、近くで新幹線の列車が駅に向かって下っていきました。闇の中を一本の矢のように動いている新幹線のすぐ側を在来線の列車がゆっくりと駆け上がっていき、一瞬のうちに交叉しました。どちらの車窓も漏れる光は、漆黒という闇の大きな縁取りを額縁に配(あしら)ったゴッホの「夜のカフェテラス」(オランダ、クレラー・ミュラー美術館蔵)や「星降る夜、アルル」(フランス、オルセー美術館蔵)をみるようでした。

我々が漆黒の闇、それに青白い月夜など自然の明暗の存在を忘れてどれ位経つでしょうか。
以前、海外で街路灯のない真っ暗な夜道をバスでホテルに向かった時の、不安と静謐さを感じたことを想い出しました。今の時代に必要なのは、夜のライトアップではなく闇を取り戻すことではないでしょうか。

福島では、日の入りが最も早いのは今月の3日から10日にかけての16時19分です。
一方、日の出が遅いのは来月の3日から9日にかけての6時54分です。間もなく、日暮れは底を打ちます。こんなことを知っているだけでも一年の移ろい、春を待つ気持ち、そして自らの歩みを自分なりに日々噛み締めて暮らしてゆけます。

12月に入ると手帳を来年のものに切り変えます。私には、1カ月見開きの手帳は、1カ月、1年という単位で自分の予定が分かるので、心の準備が出来るからです。
「明日のことは朝になってから考える」は、若いときに偏頭痛を煩い、教授に就任して間もなく体調を崩してから得た知恵ですが、それでも明日を思い煩ってしまいます。

手帳の切り替え時には、私なりの儀式があります。それは、自分の拠り所としている先人の言葉を書き写す作業です。佐藤一斎、伊尹(いいん)、そして田中克己がそれです。
その他にも、リズムの良さで若いときに暗誦した言葉が、この歳になって改めて内容の深さに気づき、再び声に出して時々読んでいます。平家物語の「祇園精舎の鐘の声…」、方丈記の「ゆく河の流れは絶えずして…」、そして奥の細道の「月日は百代の過客にして…」など、受験の時に諳(そらん)じた文章がこんなに奥深い内容であったかと今頃気付きました。と同時に暗誦文化が大切なことにも思いが至りました。

今週の花材は、横に広がるニシキギに赤と白のアレンジです。横に拡がりを持った山形の姿がサイドボードに合って心延えが広く映ります。
秘書室は一転して軽快なモダンさが売りのように感じます。それにしても、この白磁の壺のろくろの技術、真にプロの技と思いませんか。

(福島県立医科大学理事長 菊地臣一)

今週の花


【理事長室】
■ブバルディア
アカネ科/《名前の由来》ルイ13世の従医、
パリ王国庭園の園長ブバールの名より/十字
型に咲く小さな花が集まって次々と開花する。
今回は紅白2色を使用(ロイヤルダフネレッド・
ロイヤルホワイトシュープリーム)ロイヤルシリ
ーズは切花・鉢植えともに流通する。
■スカビオサ(クイズ・ダークレッド)
マツムシソウ科/別名「西洋マツムシソウ」/
花径が5cmほどで、こんもりと盛り上がって咲
く。日本に自生する松虫草に比べ、花が大きく
花色も豊富で華やかなイメージ。
■ニシキギ
ニシキギ科/落葉低木/《名前の由来》紅葉
が非常に美しく、その姿を錦に例えて「錦木」
/カエデ、スズランの木とならぶ世界3大紅葉
樹。枝にコルク質の翼を4方向につけるのが特
徴。春に小さな花を咲かせ赤い実をつける。秋
に実が熟すと裂けて橙赤色の種子が現れる。
■イヌガンソク
イワダンテ科/シダ植物/《名前の由来》ガン
ソク(クサソテツ)に似ていて、ガンソクが食べ
られるのに対して、このシダは食べられないこ
とから「イヌ」がついた/ガンソク(クサソテツ)
の由来は、胞子葉が雁の足に似ることから
「雁足」となり、若芽はコゴミとして知られる山
菜の一種。山道や山林の樹木下などに生育
する。初夏に鮮やかな緑の大きな葉を広げた
姿が見事なシダ。秋から冬にかけて栄養葉は
枯れるが胞子葉は褐色になって硬くなり冬を
越す。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/571.jpg
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【秘書室】
■グロリオサ(ミサトレッド)
ユリ科/球根植物/《名前の由来》「栄光」や「見事な」を意味
するラテン語グラリオラスから/花弁が反り返り、赤く燃え上が
る炎のような花姿。ミサトレッドはグロリオサの全国一の生産量
を誇る高知市美里地区の代表品種。2002年に、世界最大のフ
ラワーコンテストにて世界一の評価を受けた花。
■ドウダンツツジ
ツツジ科/落葉低木/4〜5月頃に小さな白いスズランのよう
な花が咲く。新緑、花期、紅葉と1年を通して楽しめ、
庭木など
でも人気がある。
今回の花材は落葉後の枝を白く染めたもの。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana_img/572.jpg
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