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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2015.12.25

vol.346  − 表 (あらわす) −

白昼、薄い縹(はなだ)色を帯びた銀の天空を背景にした白い月、夕暮れ時、月は黄金色(こがねいろ)に変わります。

滞(とどこお)ることのない、時の移ろいです。それを週、月、年という節目を区切っているのは人間の勝手です。
とは言っても、年の瀬になると、人間(ヒト)は特別な思いでこの時季を迎えます。

         今日ごとに今日や限りと惜しめども
         またも今年にあひにけるかな
                              藤原俊成

命があるからこその感慨です。古人も、現代に生きる人も、“時”に寄せる思いは同じです。

今年最後の“花だより”です。「愚直なる継続」、守ることが出来ました。
間もなく、前にあった時間が己の背後になってしまいます。

原発事故の発生以来、ここまで約5年、本県は、事故の収束から風評被害まで、様々な困難に直面してきました。
本学は、多くの支援を得て、一人ひとりが挫(くじ)けそうな気持ちを押し殺して、務め続けて、ここまできました。県民、関係者の方々に、本学を代表して、感謝の意を表(ひょう)します。

新聞やテレビは、原発事故後の節目節目で、“福島の今”を取り上げて下さっています。
その中で様々な提言や批評を戴きます。有り難いことです。第三者の眼は、時に、新鮮です。教えられることも少なくありません。

福島という被災地で、毎日、求められる役割を果たし続けている立場から感じることがあります。
それは、節目は勿論ですが、その節目を迎えるまでの毎日、休みなく、黙々と、求められている役割を果たしている人々が居るという事実です。しかも、殆(ほと)んどが福島の人間です。
当たり前のことですが、当たり前だからこそ、この事実は、忘れられ勝(が)ちです。

原発事故の後、今こうしている時も、各々(おのおの)の現場で、多くの人々が懸命に働いています。只、必要な人と時間が、絶対的に足りません。

節目で報じられる有り様(ありさま)は、利害や関心のない人々(本当は国民や人類にとって大変な事態なのですが)にとっては、どうしても、その時だけの作業と、映りがちです。
勿論、己が今の立場に居なければ、そのように考えてしまいます。

原発事故それ自体は悍(おぞ)ましい、出来たら無かったことにしてしまいたい事です。二度と経験したくない、起きてはならない惨事です。

一方で、起きてしまった災害は、たとえそれが原発事故であっても、収束させなければなりません。
収束は自然に起きるものではなく、誰かがしなければ終わりません。作業に当たっている人々が、目の前の事実に向き合わずに、危険な事故現場から逃げたら、事態は好転しないのです。

今の作業から、日々、知見や教訓が生まれています。それを次の世代に伝え、今後に生かしていくようにすることが、今を生きている人間の責務です。

原発事故の現場で、我々は、日々、汗を流して困難を極める務めに励んでいる人々に、どんな形でも良いですから、感謝の念を、誰の目にも分かるように、表明すべきです。

「感謝しています」、「頼りにしています」という我々の心が、事故現場や周辺の最前線で、文字通り、命を賭けて作業をしている人々に伝われば、人間は頑張れます。
逆に、届いていないと、働いている人々の気力は、近い裡(うち)に、萎(な)えてしまいます。

求められる役割を果たしていることと事故の原因や背景を検証することは別の話です。事故現場や県内で対応に追われている人々には、何等(なんら)責められるべきことはないのです。

“有り難う”、“御苦労様です”の一言が、どれだけ人間を勇気付けるか、この言葉の威力は、医療従事者が日々現場で実感していることです。

高山樗牛が12月24日(1902、明治35年)死去しています。享年32の短い生涯です。

今週の花材、色取りはクリスマスの雰囲気です。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■バラ〔フリーダム〕   バラ科/落葉低木/世界的に古く
から親しまれ、現代でも人気の高い花。花形・花色が多岐に
わたり、2万種を超える。「フリーダム」は赤色の大輪咲で日
持ちの良い品種。
■コチア   アカザ科/常緑低木/クリスマスツリーが雪を
覆ったような樹形が特徴。多肉植物のような白銀色の肉厚な
葉をもつ。
■シンビジュウム〔アカネ〕   ラン科/胡蝶蘭と並びポピュ
ラーな蘭。寒さに強く洋ランの中でも丈夫で育てやすい。花持
ちが良く、開花後1〜3ヵ月楽しめる。「アカネ」はブラウン系の
小ぶりな品種。
■てまり草   ナデシコ科/多年草/真ん丸でマリモや芝を
連想させる個性的な花。ふさふさした部分は雄しべ・雌しべ・
花弁が萼(がく)片のように変化したもの。
■カーネーション〔ノビオバーガンディ〕   ナデシコ科/多年
草/母の日の花として古くから親しまれる。「ノビオ」シリーズ
は紫やボルドーを基調とした覆輪が綺麗な品種。
■ウラジロモミ   マツ科/常緑高木/モミに似た姿で葉裏
が白い。自然に円錐形に樹形が整い、クリスマスツリーなど
に利用される。
■ヒペリカム〔ココリオ〕   オトギリソウ科/半常緑低木/
初夏に黄色い花が咲く。主に花後の実を鑑賞するものとして
流通。 「ココ」シリーズは、他の品種に比べ実が大きいのが
特徴。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3461.jpg

【秘書室】
■アメリカヒイラギ〔クリスマスホーリー〕   モチノキ科/常緑低木
/葉にヒイラギに似たトゲがあり、秋に赤い実をつける。“ヒイラギ”
の名がつくが、日本のヒイラギはモクセイ科で別種。欧米ではクリス
マスシーズンに「ホーリー」を飾る。
■ピンポン菊   キク科/多年草/ピンポン玉のように真ん丸に咲
く可愛い菊。 可愛らしさから仏事に限らず祝事でも多用される人気
の菊。日持ちの良い菊のなかでも特に長く楽しめる。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3462.jpg

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