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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2015.12.18

vol.345  − 涙 (なみだする ) −

冬はつとめて。〔枕草子〕
早朝、澄み切った大気の下(もと)、橙色(だいだいいろ)の太陽が山の端から顔を出します。天空にその全貌を顕(あらわ)すと黄色に変化して、輪郭が明瞭になります。冬空は心まで晴れやかにしてくれます。

         おほよそに暖かき日のつづきゐて
         季節感なき歳晩となる
                             佐藤志満

暖かな日が続く年の暮れです。

先日、“人間の性(さが)”を考えさせられました。
“品性は、然(さ)りげ無い所作(しょさ)に出る”、“タクシー談義”でこの箴言(しんげん)を思い出しました。

以下は運転手さんの述懐(じゅっかい)です。
東京には、老舗から外資系まで、高級ホテルがあります。タクシーは、毎日、ホテルの玄関で待機しています。ホテルによっては、タクシーの運転手さんを蔑(さげす)むような態度を露骨に表わすドアマンが居ます。

彼曰(いわ)く、ホテルによってスタッフの態度が違う。
あるホテルでは、何時(いつ)、車を寄せても、丁寧な態度で接してくれる。そんな時、我々の心も晴れます。
居丈高(いたけだか)なドアマンの居るホテルでは、何時、車を着けても、黒色と黄色という車体の色の違いだけで、露骨に、物言いや態度を変える。

この違い、ホテルによるもので、人間によってではない、と言うのです。
組織の構成員に創立や存在の理念をどう伝えていくか、考えさせられる点が、この話に含まれています。

戦後、老生の母は長期の入院で不在、父は公職追放により“ほねつぎ”として、男手で育ててくれました。
そんな父の間近に居て、職業に貴賤(きせん)があることを知りました。それ以来、“職業としての医師”が嫌いになりました。

ホテルは、駅と同様、パブリックスペース(公的な場)です。そこでも、今尚、差別がある事を初めて知りました。
時は移ろい、人間(ヒト)は変わっても“人間とは変わらない生物”であることを実感します。そして昔を思い出し、一時、哀しい気持ちになりました。

仕事で和歌山を再訪しました。
         (vol.49 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=74
         (vol.88 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=114

この地には、江戸時代に作られた秀(すぐ)れた庭園があります。何(いず)れも、温暖で、海沿いにあるという地の利を生かした、独特の景観を持った庭です。
粉河寺(こかわじ)の庭、土留め(どどめ)の石垣代わりに紀州の名石を使っていて、壁画のようです。法面(のりめん)を利用した三次元の石組みと蘇鉄(ソテツ)が特異です。豪壮な庭です。

養翠園(ようすいえん)と番所(ばんどこ)庭園は、海を利用しています。只、海の生かし方が対照的です。
海辺に作られているために、どちらも朗(ほが)らかで、広々としています。海、空、そして嘗(かつ)て周辺にあったであろう白砂青松(はくしゃせいしょう)を考えると、真に朗々(ろうろう)とした庭です。
例えて言うと、“軒の無い隠れ場のないような明るさ”です。

明るい庭と言えば、正伝寺(しょうでんじ・京都)が頭に浮かびます。
この庭は、内陸部にあります。しかし、海辺の庭と同じように、乾いた明るさを持っており、簡素です。比叡山を借景(しゃっけい)にしています。その佇まいは、白砂と皐月(サツキ)の刈り込みだけで整えられています。
昔は訪れる人も稀(まれ)で、学生時代、独りで眺めていると、安堵感を感じたことを憶(おぼ)えています。

心穏やかな庭ということで思い出すのは、浄瑠璃寺(じょうるりじ・京都)です。
堂と池、その大きさと配置に均衡(きんこう)が見て取れます。堂宇(どうう)や塔の造りが簡素です。

         造化にしたがい造化に帰れとなり
                             芭蕉「笈の小文」

ここには、天地の自然に従い、そこに帰一(きいつ)せよ、という思想が窺(うかが)われます。
和の情動の根本(こんぽん)です。

今週の花材は、ようやく到来した冷気の中、華やかで凛とした姿をみせてくれています。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■ウメモドキ〔マジカルベリー〕   モチノキ科
/落葉低木/《名前の由来》樹形や葉が梅に
似ていることから/花期は5〜6月頃で、秋に
枝いっぱいに実をつける。落葉後も果実が残り
冬庭を彩る。
■アルストロメリア〔ピンクティアラ〕   ヒガン
バナ科/球根植物/1本の茎から 5〜8本ほ
ど花茎を伸ばし、其々に花を咲かせる。一つひ
とつの花はユリを小さくしたような形で、花弁に
入る斑が特徴。 「ピンクティアラ」は淡いピンク
色で2014年の新品種。
■ケイトウ〔羽毛ケイトウ〕   ヒユ科/一年草
/花期は6〜9月頃で、赤や黄色、オレンジな
どの花穂をつける。「羽毛ケイトウ」は羽のよう
なフサフサした形状。他に、花穂が扇状の「ボ
ンベイケイトウ」や丸い「久留米ケイトウ」等も
ある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3451.jpg

【秘書室】
■ダリア〔朝日テマリ〕   キク科/多年草/世界に約3万種以上あり、
品種がとても豊富。 花径は3cm程の極小輪から30cm以上にもなる巨
大輪まである。一重・八重咲の他、花弁が尖った“オーキッド咲”やピンポ
ン菊のような“ボール咲”など多岐にわたる。「朝日テマリ」は鮮やかな赤
色のボール咲。
■アイビー〔インジリーザ〕   ウコギ科/常緑蔓性植物/地面やフェン
ス等を這うように育ち、壁面緑化にも利用される強健な植物。葉色の濃
淡、斑入や縮れ葉等品種が豊富。「インジリーザ」は斑入りで切れ込み
の浅い大葉。
■ヒペリカム〔ココリオ〕   オトギリソウ科/半常緑低木/初夏に黄色
い花が咲く。主に花後の実を鑑賞するものとして流通。「ココ」シリーズは
他の品種に比べ実が大きいのが特徴。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3452.jpg

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