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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2015.10.09

vol.335  − 凝 (こらす) −

悲しくなる程の、透き通るような秋晴れです。

         もののあはれは秋こそまされ
                          徒然草19段

         万(よろず)のことは、月見るにこそ、慰むものなれ
                                       徒然草21段

         影さえてまことに月のあかき夜は
         心もそらにうかびてぞすむ
                            西行

月の冴え渡る夜は人間の心までも澄み渡らせます。
この心持(こころもち)は昔の人も、今も、変わりがありません。

         さぶしさは水底までにとほりけり
         夕日のすめる秋の砂川
                            安藤野雁

漂泊の旅、秋空のもとの川端、澄み切った大気、黄金(こがね)色に輝く夕陽、夕陽に照らされた水面、川底の砂、すべてが人の心の裡(うち)まで染み込んで、淋しさを掻き立てます。
秋、月、そして夕陽の美しさは、古来から、人々の琴線(きんせん)に触れてきました。

稲刈りの終わった田圃(たんぼ)は、和(やわ)らかな日差しに地肌を露(さら)し、一休みといった案配です。
一昔前、農家の方々の稲刈りの後に湯治(とうじ)に行って骨休み、と同じ気分です。

土手では芒(ススキ)や猫じゃらしが揺れています。柿の橙色が、蕪村の「夜色楼台図」(やしょくろうだいず)に描かれた明かりのように、少し寂しげな、しかし温かさを感じさせてくれます。
夜は虫の音が風情の主役です。

自然は偉大な芸術家です。秋になれば秋の美しさをみせてくれます。

銀杏(イチョウ)の黄葉(こうよう)はまだですが、樹木の下に多数の果実が落下しています。歩道で踏みしだかれ、異臭を放っています。
銀杏(ギンナン)の実、酒の肴(さかな)として最高の一品です。只、落下して腐ると近寄れない程の異臭、物事には全て二面性があります。

天地だけでなく、日々の暮らしのなかにも“美”は見い出せます。

“用の美”、日々の食器にも先人が育(はぐく)んできた美があります。
日本人は食器を持って食事をします。我が国の木の椀は、手に良く馴染み、持ち易く作られています。
食器を持って食べるという様式は、ここに源があるのではないでしょうか。匙(さじ)やスプーンといった韓国や欧州のような食事の有り様(ありよう)にはなりませんでした。

木地師(きじし)が多く住んでいる地域で働いていたことがあります。
その時、素地の木により、その固さや丈夫さが異なることを知りました。

持ち易い秘密は寸法にあります。
汁椀の口径は4寸(1寸は約3cm)、約12cmです。この大きさは男性の手にしっくりきます。女性は少し小振りです。この寸法、椀を横持ちにした時の親指と中指が、椀の口径の半分に相当します。
椀の高さは口径の半分です。洗って伏せてあっても楽に手にとることができます。
器の厚さ、内と外で形が異なります。内側は食べ易く、外側は持ち易いように工夫されています。
重さは時代と共に軽くなり、今は120gから100gです。

箸にも工夫の跡がみてとれます。白木(しらき)の箸は“ハレ”の時使います。来客の持て成し(もてなし)、あるいは節目での祝の膳で供します。両端を細く削ってあります。
先人達は無垢の白木に“神”を感じていて、その感覚は現代まで受け継がれています。寿司屋や小料理屋の白木のカウンター、八寸膳(はっすんぜん)はその象徴です。
御飯がくっつかないように先端を濡らして供します。最近では、箸が濡れている、と文句を言う人が居るので、濡らさずに出すこともある様(よう)です。

日々使うのは塗箸です。男性は長くて黒、女性は短くて赤い色です。
この箸の長さも考え尽くされています。親指と人差指を直角に広げた時、指先の間の距離(1咫(あた))の1.5倍の長さが箸の長さになっています。
重さは平均20gです。女性の箸が男性より軽く、西日本は東北より軽く作られています。

先人の工夫と知恵に脱帽です。

今週の花材は、執務室は山の秋、秘書室は静かな秋の雰囲気です。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■アロニア     バラ科/落葉低木/別名
「チョコベリー・チョークベリー」。白色の花を咲
かせ、ブルーベリーに似た実を房状につける。
実色は赤の他、黒や黒紫の品種もある。生食
では苦味が強く、ジャムや果実酒など加工食
に向く。
■風船唐綿(フウセントウワタ)   ガガイモ
科/一年草/花期は夏で小さな白い花が咲
く。トゲトゲした紙風船のような実を鑑賞する。
晩秋に実が熟すと自然に割れて種子があらわ
れる。
■ミナズキ〔秋色ミナズキ〕   アジサイ科/
落葉低木/《名前の由来》旧暦の6月頃に咲
く事から「水無月」/7〜9月に白い花が咲く。
「秋色ミナズキ」は夜間温度が低下することで
白からピンクに染まったもの。
■ケイトウ〔オレンジクィーン〕   ヒユ科/一
年草/《名前の由来》花序が鶏の鶏冠に似て
いることから/今回は花序が球形になる「久
留米ケイトウ」を使用。他に「ウモウケイトウ」や
「ボンベイケイトウ」、「紐ケイトウ」などもある。
■雪柳  バラ科/落葉低木/《名前の由来》
花を散らした様子が雪が降ったかのように見
えること、柳のようにしなやかに垂れることから
/春に白い小花を枝いっぱいに咲かせる。今
回は紅葉したかの様に赤く染めた「染め雪柳」
を使用。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3351.jpg

【秘書室】
■ピンクッション〔ハイゴールド〕   ヤマモガシ科/常緑低木/名前
の通り、針山に待ち針を刺したような独特な花姿。待ち針のような一
つひとつが雄しべ。
■ヒペリカム〔アイボリーフレア〕  オトギリソウ科/半常緑低木/花
期は初夏で黄色い花が咲く。主に花後の実を楽しむものとして流通。
■リュウカデンドロン〔サファリサンセット〕   ヤマモガシ科/花弁の
ように見える部分は苞で、その中に花序がある。非常に花持ちが良く
ドライフラワーにも適す。
■フィロデンドロン〔エメラルドレッドウィング〕   サトイモ科/蔓性植
物/熱帯亜熱帯地域に約650種が自生。葉に切れ込みや斑が入っ
たり、大きさも様々で多品種ある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3352.jpg

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