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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2015.04.10

vol.313  − 漂 (ただよう) −

信夫の里も桜の時季です。
庭には深紅の木瓜(ボケ)が満開です。海棠(カイドウ)の薄紅の可憐な花、緑を背景に軽やかな空気を醸(かも)し出しています。紫木蓮(シモクレン)は闇を背に妖艶な雰囲気で佇んでいます。片隅の辛夷(コブシ)、高く聳(そび)え、一本は白地に薄紫、もう一本は白、清楚な雰囲気を醸し出しています。

街は、道々、桜が群れ、花見の客で賑わいをみせています。
花は他にも色々あるのに、これ程人々を魅了して止(や)まないのが桜なのは、何故なのでしょうか。

         世の中にたえて桜のなかりせば
         春の心はのどけからまし
                            在原業平

花見と祭り、昔から庶民の華です。

韓国では花を鑑賞するが、宴(うたげ)はないと聞きました。
我が国の花見は祭事です。春の到来を祝い、男女の出会いの場です。
花見や祭り、狭い世間での暮らしで、遊ぶ機会や場の少なかった時代、お天道様に感謝し、人々の助け合いや触れ合いを確認し合う場でもありました。

今週、入学式を行いました。
大学にとって最も大切な式典です。学生にとって、一生に一度しかない機会です。式典を執(と)り行う大学にとっては、毎年の通過儀礼と軽く考えてはいけないと、口を酸っぱくして職員に説いてきたところです。

今年の入学式は、学生の姿勢が去年の入学式とは一変していました。
         (vol.218 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=255
名前を呼ばれると、大多数の学生は明快な返事で応(こた)え、起立後、私と目を合わせ、会釈しているのです。答礼を繰り返しているうちに、己の胸に熱いモノが込み上げてきました。
彼方の席に居る父兄にこちらに来て、凛々しい晴れ姿をみて欲しかった、というのが正直な気持ちです。

ホームから周りを見ていると、復元になった東京駅の中央ドームが目に入りました。
明る過ぎる今という時代、“ほの暗い”、赤っぽい光、闇の中に窓を浮き立たせています。懐かしい色です。
昔、車窓からみて“生きる”とは何かを初めて考えたあの灯(あかり)です。
         (vol.50 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=75
         (vol.106 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=134
         (vol.160 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=194
         (vol.294 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=331
しばらく、飽(あ)く事なく見ていました。

今という時代、交番のお巡りさんに、昔、田んぼの畦道(あぜみち)で、煙草をふかしながら子供に笑顔を向けていた、翁(おきな)に近い面影をみることがあります。
子供の頃の田舎の風景と交番のお巡りさんの姿が交叉します。

気がつけば、江戸の面影を残す下町まで歩いています。
初めて歩く街なのに、既視感(デジャブ)を覚えます。パリのオペラ大通り近くにある細い道、台湾は台北の北にある古い街並み、あの雰囲気です。
昔の日本、昭和の時代にはまだあった風景、小津安二郎監督の映画「麦秋」の舞台になっている東京、との出会いです。休日だけに人通りが少なく、町の空気や街並の雰囲気が、却って強く印象づけられます。

連想は、視(み)るだけでなく聴くことにも及びます。
江戸時代から続く交叉点に残る地名や屋号をみていると、アイルランドの国民的歌手メアリー・ブラックの「フルタイド」の哀歓あふれる歌声が、謡曲「松風」、「月はひとつ影はふたつ…」の台詞(セリフ)を呼び覚まします。
         (vol.234 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=271
クラシック音楽での様々な鎮魂歌(レクイエム)、L・ダッラが作曲した「カルーソ」、M・コロンビエ作曲でクリスボッティの演奏する「エマニュエル」、メアリー・ブラックの歌う「Your Love」と「Full Moon」(vol.24)、信時潔の「海ゆかば」、亡き人を悼う(偲ぶ)歌です。
         (vol.24 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=41
作者や演奏者の思いがこちらの胸に染み込んできます。
人生の哀歓の表現には、邦楽も西洋音楽もないということです。

今週の花材は、執務室は速水御舟の「名樹散椿」(めいじゅちりつばき)を思い浮かべる佇まいです。
秘書室は、静謐(せいひつ)な白と薄緑の世界です。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■椿〔白乙女〕(ハクオトメ)  ツバキ科/常緑中
高木/《名前の由来》葉の美しさをもとに諸説あ
る。厚みのある葉で「あつば木」、艶やかな葉で
「艶葉木(つやばき)」、光沢のある葉で「光沢木
(つやき)」など/常緑で耐寒性・耐陰性が強く、
生け垣や庭木に人気。古くから親しまれ、特に茶
花として好まれ多くの園芸品種が作られた。種子
からとる椿油は整髪料や食用油として利用。「白
乙女」は白色の中輪千重咲。
■花蘇芳(ハナズオウ)   マメ科/落葉低木/
花期は4月で、葉が芽吹く前に紅紫色の花を枝
いっぱいにつける。ハート型の葉を持ち、枝はあま
り分岐せずスリムな樹形。花後は平たい豆鞘(ま
めさや)がたくさん垂れる。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3131.jpg

【秘書室】
■シンビジュウム   ラン科/洋ランの中で
は胡蝶蘭と並びポピュラーな品種。寒さに強い
冬の蘭で、切り花では通年流通する。花弁が
厚く非常に花持ちが良く、開花後1〜3ヵ月楽
しめる。
■カーネーション〔ノーザンライツ〕
ナデシコ科/多年草/菊・バラと並び世界的
に生産量の多い主要花。母の日の花として古
くから親しまれる。「ノーザンライツ」は緑地に
紫の絞り模様が入る。
■アンスリュウム〔シンシア〕 
サトイモ科/常緑多年草/うちわのように大き
な苞をもつ南国の花。花は中心の棒状の部分
で、主に苞を鑑賞するため非常に長く楽しめる。
「シンシア」は純白品種。
■ドラセナ〔サンデリアーナホワイト〕   リュ
ウゼツラン科/日本で流通する観葉植物の代
表種。笹のような細長い葉とストライプに入る
斑が特徴。「ホワイト」の他に、黄味の強い「ゴー
ルド」、深緑の「バリケード」もある。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3132.jpg

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