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理事長室からの花だより

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理事長室からの花だより

2015.02.20

vol.306  − 刻 (きざむ) −

肌を撫でる風は尚冷たく、堪(こた)えます。そんな冷気のなか、陽射しのある所で感じる温かさ、‟春の雪”は、道往く人々に、春が近づいていることを教えてくれています。

乾いた、透明な大気のなか、星や月の輝き、朝や夕べの太陽による光で山河やビルが赤く染まる様(さま)、懐かしさを覚える風景です。

         庭(には)気色(きそく)を増せば晴沙(せいさ)緑(みどり)なり
         林(はやし)容輝(しょうくゐ)を変(へん)ずれば宿雪(しゅくせつ)紅(くれなゐ)なり
                                                          紀(き)

庭にも春の兆(きざ)し、淡い緑がみえます。林も冬から春になり、残雪にそれが映されています。
山河はこうして移ろっていきます。

「伝える」ことの難しさと大切さを考えさせられる記事を目にしました。
大東亜戦争での米国、大半が二世の日系人が、荒野に強制収容されました。
日本人の「沈黙」が、哀しい過去を封印し、広く知られてきませんでした。今、三世、四世の日系米国人は、親の苦労を知らないようです。

忘れないことは必要です。
        〔学長からの手紙〕
         (No.52 http://www.fmu.ac.jp/univ/daigaku/letter/052.html
        〔理事長室からの花だより〕
         (vol.293 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=330
一方、忘れなければ生きていけません。
         (vol.203 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=239

今、我々が手にしている境遇は空気と同じように、「当たり前」です。ここに至るまでの先人の苦闘は忘れがちです。只、個人、民族、国家を問わず、己(おのれ)の歴史を忘れると、岐路に立った時、羅針盤を失うことになります。
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」(ビスマルク)は、一面の真実です。
悔しかった事、悲しかった事、忘れてはいけない事を覚えておく為に、人間(ヒト)は、記念日や法要という知恵を身につけました。

身近、似たようなことがあります。
ローソンやスターバックスといった新しい形態の店舗を病院内に導入しようとした時、大変な抵抗が、大学の内外で起きました。
「病院を旅館型からホテル型へ」、「これで儲ける必要はない。患者さんを含め、出入りされている方々の満足度の重視が大切」、という理念を掲げての実現でした。

今では、これらのお店の評判は高く、本学に無くてはならない施設になっています。
過去は歴史と化し、今や、導入時の苦労を知る人は少なくなっています。
「自分が傷ついたことがないと、他人の傷(いた)みに思いが及ばない」は、当事者だった方とそうでなかった人との差を言い得ています。開店記念日でも設けて、感謝の気持ちを表わすことも必要です。

診療科の再配置を行った時、結局、当時、責任者である診療科を院内の最も奥の不便な所に移して、ようやく実現に漕ぎ着けました。

このような過去を職員の何人が知って、感謝の念を持っているでしょうか。
「あの頃は辛かったと覚えている日々は、実はもっと辛かったというのが世の常」(北上次郎)を実感しています。
目の前にある仕組みや暮らしは、「出来た」のではなくて、関係者の努力で「作った」結果なのです。

‟セ・ラ・ヴィ”(それが人生だ)です。
         (vol.283 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=320
世の中は、こうして移ろっていくのです。

「歴史は現在と過去との対話」(E・H・カー)です。
         (vol.210 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=247
         (vol.222 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=259
         (vol.246 http://www.fmu.ac.jp/univ/cgi/hana_disp.php?seq=283
過去(歴史)を今にどう生かすか、今を生きる個人や組織は、過去から何を学ぶかを問われているのです。

この時季でしかみられない、未だ見ぬ憧れの風景があります。オホーツク海の流氷です。
ロシアの河口で誕生した氷が海流に乗って南下し、我が国の沿岸に辿り着く流氷、一幅の叙事詩をみるようです。接岸した流氷の鬩(せめ)ぎ合う音が、静寂の中にある北の空に響く様、一度聞きたいと思い、今に至っています。

今週の花材は、両室とも色の取り合わせが早春の息吹(いぶき)を感じさせてくれます。


(福島県立医科大学理事長  菊地臣一)



今週の花


【理事長室】
■雪柳   バラ科/落葉低木/春に白い小
花を枝いっぱいに咲かせる。雪が降ったかの
ように見える、花を散らした様子と、柳のように
枝がしなやかに垂れることが名前の由来。
■シンビジュウム〔かぐや姫〕   ラン科/洋
ランの中では胡蝶蘭と並びポピュラーな寒さに
強い冬の蘭。非常に花持ちが良く、開花後1
〜3ヵ月楽しめる。
■フリージア〔アヌーク〕   アヤメ科/球根
植物/甘い香りが特徴の春の花。花茎に8〜
10輪の筒状花を付け、次々と開花する。「アヌ
ーク」は純白の一重咲。
■カーネーション〔オーロラオレンジ〕
ナデシコ科/多年草/江戸時代にオランダか
ら渡来。菊・バラと並び世界的にも生産量の多
い主要花。「オーロラオレンジ」は淡い黄色地
に淡いオレンジが覆輪状に入る希少色。
■ドラセナ〔フロリダビューティ〕   リュウゼツ
ラン科/常緑低木/卵形の葉に入る黄白い
斑が特徴。一般的なドラセナは真っ直ぐ伸び
た茎に放射状に葉を付けるが、「フロリダビュ
ーティ」は地際から細い茎をたくさん出し、茎に
沿って葉を付ける。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3061.jpg

【秘書室】
■デルフィニュウム・シネンシス〔プラチナブルー〕
キンポウゲ科/多年草/ブルー系の花色が美しく、切り
花だけでなく花壇や鉢植えでも人気。シネンシス系は草
丈が低く枝がよく分岐して花を付ける。
「プラチナブルー」は爽やかなライトブルー。
■ラナンキュラス〔桃てまり〕  キンポウゲ科/球根植
物/幾重にも重なる柔らかい花弁が特徴。名前に「てま
り」の入る品種は、つぼみが手毬に似た香川県の育成
品種。
■カーネーション〔コノハ〕 (理事長室と同花材)
「コノハ」は爽やかなミントグリーン。
■ヒペリカム〔シュガーフレア〕   オトギリソウ科/半
常緑低木/花後の実を楽しむものとして流通。色は赤・
ピンク系を中心に茶や緑などもある。
■ブブレリュウム   セリ科/一年草/清々しさを感じ
させる鮮やかなグリーン。主にグリーンとして利用される
が、黄色い小さな花が咲く。
※拡大写真
http://www.fmu.ac.jp/univ/hana/3062.jpg

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